双子の妹に全てを奪われた令嬢は訳あり公爵様と幸せになる

甘糖むい

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「ついたな……」

クロディクスがミシャルへの言葉を探している間に、二人を乗せた馬車は首都についていた。
その間にいくつもミシャルを励ます言葉や慰めは浮かんでいたが、結局クロディクスはどれも口にする事はなかった。
それほど、クロディクスとミシャルには生まれながらにして明確な差があった。
呪いに苦しんでいるとはいえ呪われる前もその後も、クロディクスは誰かに虐げられる事を経験した事がなかった。

屈辱やそれに似た出来事があったかもしれないが、それも全てクロディクスは自分の力で取り戻してきていた。
生まれながらにして何かを奪われることがなかったクロディクスが、奪われるだけの人生を送るしかなかったミシャルに対していくら言葉をかけようともミシャルを救うことは出来ない。

結局クロディクスは自分のエゴを満たす言葉達を飲み込んで、気まぐれで拾ったミシャルを持て余してしまっていた。

「なんだ君たち、暗い顔をして」
馬を止めて馬車の扉を開いたヴァイスは二人の淀んだ空気に小首をかしげて問いかけた。
その、軽やかな言葉にクロディクスは軽くミシャルに目配せするとヴァイスを押しのけるようにして外に出ていった。

「ミシャル、手を」
「……はい」

馬車から一人出ようと、慌てて立ち上がりかけたミシャルは、クロディクスの落ち着いた言葉に、声を震わせて返事をしてから彼の手に自分の手を重ねた。
その震えを感じ取ったクロディクスは、表情を変えずに彼の手を優しく包むように握りしめた。

「足元に気を付けなさい」
「はい」

クロディクスの手に支えられて外に出ると、ミシャルはその冷たさに身体を縮こませた。
いつの間にかクロディクスと繋いでいた手が離れ、寂しさを感じていると静かにミシャルが降りるのを見守っていたヴァイスが笑ってミシャルのコートを甲斐甲斐しく整えてくれた。

「外はもう冬だ、風邪を引かせたとなれば俺がゼリヌに怒られる」

まるで、小さい子供に言い聞かせるような口振りでミシャルの服装を整えたヴァイスはミシャルと目を合わせて驚いたように目を丸くした。
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