双子の妹に全てを奪われた令嬢は訳あり公爵様と幸せになる

甘糖むい

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「君……いや、いい。クロディクスをよろしく頼んだ」

ヴァイスは、珍しく焦ったような素振りを見せた後、目の前に立つミシャルに口端だけを釣り上げるようにして微笑んだ。
見慣れたヴァイスのいたずらっ子のような表情にミシャルは、自分が緊張していた事に気がついた。
ずっと夢のようだと思っていた出来事が本当に起きているとなって、ミシャルの瞳に光が戻る。
途端にクロディクスと二人で出かける事に不安になってミシャルはすがるようにしてヴァイスを見上げると問いかけた。

「え?ヴァイス様も一緒じゃないのですか?」
「俺も君と一緒に出かけたいの気持ちはあるが、馬を見ている者が居なくなってしまうからな!」

ミシャルに向かって腰をかがめ、何か言いたげにしていたヴァイスは、クロディクスと視線を交わすとすぐミシャルに自分が残る理由を説明をした。
納得がいくような行かないような、そんな顔をしていたのだろう。
ヴァイスはミシャルの頭を軽く撫でると、指を軽く振った。

「おまじないをしてやろう。……そら、君のたびに幸多からん事を」

ヴァイスがそう言ってミシャルを勇気づけようと言葉を紡いだ後、ミシャルは不安だった心がふわりと浮かんで解けたのを感じた。

「お土産買ってきます……楽しみしててくださいね」

馬のための水をとりにその場を離れて行こうとするヴァイスに向かってミシャルが声をかけると、ヴァイスは後ろを向いたまま手をひらひらと振ってこたえる。

その後ろ姿を見送るミシャルは、そっとため息をつき、隣に立つクロディクスを不安そうに見上げた。クロディクスもミシャルの様子に気づいているのか、柔らかな眼差しでミシャルを見返した。

「さあ、ミシャル……いこう」

クロディクスは当然のように、ミシャルに手を差し出した。
その手袋越しの手のひらにミシャルは一瞬ためらいながらも、クロディクスの言葉に促されるようにしてその手を取る。
クロディクスの柔らかな声で促されミシャルは彼と共に歩き始めた。クロディクスが居るからか、街の人々の視線をあちらこちらから感じて縮こまるミシャルにクロディクスは小さく笑うと指をはじいた。

「堂々と歩きなさい」
「はい」

彼の魔法だと、思った時にはもう、街の人々は誰もミシャル達を見なくなっていた。
そんな二人をヴァイス一人だけがじっと見つめていた。
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