双子の妹に全てを奪われた令嬢は訳あり公爵様と幸せになる

甘糖むい

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「忘れるといい」
「……え?」
「今まで言われた言葉も、家族に強いられてきた振る舞いも全てこれからのミシャルには不要だ。忘れなさい」

ミシャルはクロディクスを見てきょとんとした表情を浮かべて首を傾げた。
まるで、言われた事が理解できないと言った様子のミシャルにクロディクスが繰り返すと、ミシャルは困ったように眉を顰める。

(まるで呪いだな……)

クロディクスはミシャルの自己肯定の低さに眉をひそめた。
ヴァイスに聞いていたミシャルへの家族の行いがどれほど彼女の自我に影響を与えているのかを決定づけるミシャルの様子にクロディクスは苛立ちすら感じていた。
長い年月を生きた影響か、滅多に感情を揺さぶられる事のないクロディクスにとって、自分が怒っているという事実は彼を驚かせるには十分な事だった。

「……どうやってですか?」

いつの間にか、ヴァイスがかけたはずの魔法が解け、彼女の黒い瞳がクロディクスに向けられていた。
彼女の目に浮かぶ不安の色が、まるでミシャル自身の心の闇を映し出しているかのように光る。
まるでこちらまで飲み込まれてしまいそうな黒にクロディクスは一瞬言葉を失った。
ミシャルの瞳に宿る闇が彼の心を静かに掴む。
彼女の問いに、どう答えれば良いのかクロディクスには迷いが生じていた。
長い年月の中で様々な人間を見てきたはずの彼が、ここまで誰かに踏み込もうとするのは久しぶりのことだった。

「どうやって、か……」

クロディクスは小さく息をつきながら、言葉を探した。
クロディクスは心の奥深くで、自分が何を言うべきかを思案して言葉に詰まった。

「私は、……私の生きてきた人生はあの人たちの言葉を忘れてしまえば何もなくなってしまうのに……」

クロディクスが言葉を探していると、ミシャルは叫びにも似た訴えをポツリと落とした。
その途方もない行方知れずの言葉にクロディクスは、ミシャルの言葉に再び自分の中にある感情が揺れるのを感じた。
彼女の苦しみと孤独が、その静かな声から溢れ出し、クロディクスの失くしたはずの心を締めつけた。
長い時を生き、あらゆる痛みや喜びを見てきたはずの彼が、これほどまでに動揺することは稀だった。
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