双子の妹に全てを奪われた令嬢は訳あり公爵様と幸せになる

甘糖むい

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ミシャルが扉の外に消えるまでを見送ったクロディクスが前を向くとひとりの男が机に腰掛けていた。
音もなく表れた男は今現れたようでいて、ずっとそこに居たような不思議な雰囲気でそこに居た。

その男は頭の先から靴先までを真っ黒のローブで隠しており、闇に紛れてしまえば誰も彼を見つけられないようなそんな捉えどころのない男だった。
何となく、先ほどまで日取り窓の傍にいたカラスによく似た姿をした男がいる事にクロディクスは驚くことなく部屋の扉を閉めた。

「ずいぶんと見違えたな」

手持ち無沙汰に転がされたペンを指先で回しながら男が問いかけると、クロディクスは肩を上げただけで返事をした。
名前を出してはいないが、見違えたと言われる人はひとりしかいなかった。
その話題の中心であるミシャルを1日でそう簡単に変えられるわけもなく。

ただ身体を清めて、清楚なドレスを着ただけでミシャルは最初に見たみすぼらしい庶民から、一応は令嬢として見える様相に変わっただけを見違えたと言うのか。
クロディクスから見れば短く切られた髪も、栄養の足りない身体も、まだまだ見違える要素はたくさんあるように思えてクロディクスは、男の言葉の真意をわざわざ確認する気も起きなかった。

肯定も否定も出来ないクロディクスの様子に笑った男がニィと笑みを深める。
3ピースのスーツを着ている癖に子供めいた表情を浮かべる男からクロディクスはペンを取り返すと荒々しい動作でミシャルと座っていたソファーに身を投げた。
その仕草は普段の紳士めいた動作からかけ離れていたが、そんなことに口を酸っぱくして苦言を言う男はここにはおらず。
机に残された用紙の書きなぐりを目ざとく見つけた男がそんなクロディクスの煮詰まった様子に笑い交じりに冗談をこぼした。

「君に出会うためにあてがわれた花嫁殿だったりしてな」
「ヴァイス」

冗談めいた口調でクロディクスを揶揄うことに余念がないヴァイスをクロディクスはソファーでだらけた態度のまま鋭い視線を投げかけてやめさせた。

自分の呪いに関係のなさそうなミシャルを巻き込むのは冗談でも許せなかった。
花嫁など求めてもいないクロディクスにとって、ミシャルはただの客人であってここに入れた理由がわかればすぐにでも立ち去らせるつもりでいた。
始めは興味本位で匿っただけのクロディクスはミシャルを傍に置いた事をすでに後悔していた。
自分らしくない事をしている自覚はあるだけに、リュークと新たに作ったゼリヌの何とも言えない視線を向けられると久しぶりに感情を感じた。
ずっと、動かなかった胸の矢を押し込まれたような痛み。

「そんなふざけたおとぎ話をしに来たわけじゃないだろう」
「そう怒るなよ」

お道化た調子を崩さないヴァイスが謝ってそれでも足りないと睨むクロディクスが黙っていると、ヴァイスはへらへらとした表情をひっこめた。
人間味あふれる表情が消えると、途端にヴァイスは冷徹な男に見える。

「何がわかった」

空気が変わった様子に、クロディクスが問いかけると、彼は一度閉じた口を開いた。
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