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隣に座って時計の音だけが聞こえる空間でミシャルはその古い音に耳を澄ましていた。
秒針が動く音が決まったテンポで時を刻む。
クロディクスが黙ってしまうと作り物めいた美しい造形が一層人形に見える。
睫毛が瞬くその横顔に魅入られる。
昔読んだ古い書物に悪魔は美しい姿で人を魅了すると書いてあった事をミシャルは思い出していた。
その本の挿絵にはおぞましいと言った方がいい黒い羽根を持った男の姿が書かれていて、ミシャルは悪魔に魅入られる人はいないだろうと思ったが、クロディクスを見ているとそれは違うとわかった。
いまこの瞬間にクロディクスの背中から羽が生えてもきっとミシャルは受け入れてしまえる自信があった。
コツンと音がしてミシャルがそちらを向くとカラスが一羽日取り窓の外枠に止まっていた。
ミシャルの方をじっと見る目はミシャルよりも黒い瞳をしていて、大人しく誰かを待っているようにも見えた。
自分と同じ黒い瞳を見つけてミシャルはその鳥をよく見ようとした。
屋根裏部屋から見ていた小鳥とは真逆の夜の色は日の光を浴びてくっきりとした影のようにそこに居た。
夜に居るフクロウとも、高い空を飛ぶ鳶とも違う。
この辺では羽からくちばしの先まで全て真っ黒な鳥はおらず、物珍しさが顔をだす。
白目までもが黒いその鳥は羽を広げると日取り窓を覆ってしまうほど大きなサイズをしていて、ミシャルは毛づくろいの為に羽を広げたカラスを見て身体をビクリと強張らせた。
「少し待て」
ああ、とため息のような声を漏らしてクロディクスがカラスに向かってひと声かけるとカラスはひとつ鳴き声を上げた。
自分の視線が煩わしかったのかと思っていたミシャルはその低い鳴き声が鳥の声だと始めはわからなかった。
人の声に似た返事に聞こえたのは気のせいかと首をかしげるミシャルは、クロディクスとカラスとのやり取りを見て、ミシャルは不思議そうにクロディクスに目線を動かした。
ミシャルの動向を横目に捉えていたクロディクスは、ミシャルに問われる前に口を開いた。
すぐにここを出ていくかもしれないミシャルにクロディクスはカラスの事を教えるつもりはなかった。
秘密を抱えて生きていける人間が少ないことをクロディクスは身をもって知っていた。
「そろそろ昼の時間だろう」
懐から懐中時計を取り出したクロディクスが言うと、丁度書斎の扉が叩かれてゼリヌの声が聞こえた。
クロディクスと次いでミシャルのを呼ぶゼリヌの声にミシャルは返事をしてソファーから勢いよく立ち上がった。
ホコリが舞ってミシャルは慌ててはしたなかった事をクロディクスにわびた。
なんて事もないとクロディクスに声をかけられて、その頃にはミシャルは自分が何を聞こうとしていたのか忘れてしまっていた。
「ミシャル様昼食のご用意が出来ました、朝を召し上がっていないのでリューク様が心配しておられましたよ」
「はい!すぐに行きますっ」
ミシャルは元気に返事をするとクロディクスに一礼してすぐに扉の外にいるゼリヌの傍に寄った。
秒針が動く音が決まったテンポで時を刻む。
クロディクスが黙ってしまうと作り物めいた美しい造形が一層人形に見える。
睫毛が瞬くその横顔に魅入られる。
昔読んだ古い書物に悪魔は美しい姿で人を魅了すると書いてあった事をミシャルは思い出していた。
その本の挿絵にはおぞましいと言った方がいい黒い羽根を持った男の姿が書かれていて、ミシャルは悪魔に魅入られる人はいないだろうと思ったが、クロディクスを見ているとそれは違うとわかった。
いまこの瞬間にクロディクスの背中から羽が生えてもきっとミシャルは受け入れてしまえる自信があった。
コツンと音がしてミシャルがそちらを向くとカラスが一羽日取り窓の外枠に止まっていた。
ミシャルの方をじっと見る目はミシャルよりも黒い瞳をしていて、大人しく誰かを待っているようにも見えた。
自分と同じ黒い瞳を見つけてミシャルはその鳥をよく見ようとした。
屋根裏部屋から見ていた小鳥とは真逆の夜の色は日の光を浴びてくっきりとした影のようにそこに居た。
夜に居るフクロウとも、高い空を飛ぶ鳶とも違う。
この辺では羽からくちばしの先まで全て真っ黒な鳥はおらず、物珍しさが顔をだす。
白目までもが黒いその鳥は羽を広げると日取り窓を覆ってしまうほど大きなサイズをしていて、ミシャルは毛づくろいの為に羽を広げたカラスを見て身体をビクリと強張らせた。
「少し待て」
ああ、とため息のような声を漏らしてクロディクスがカラスに向かってひと声かけるとカラスはひとつ鳴き声を上げた。
自分の視線が煩わしかったのかと思っていたミシャルはその低い鳴き声が鳥の声だと始めはわからなかった。
人の声に似た返事に聞こえたのは気のせいかと首をかしげるミシャルは、クロディクスとカラスとのやり取りを見て、ミシャルは不思議そうにクロディクスに目線を動かした。
ミシャルの動向を横目に捉えていたクロディクスは、ミシャルに問われる前に口を開いた。
すぐにここを出ていくかもしれないミシャルにクロディクスはカラスの事を教えるつもりはなかった。
秘密を抱えて生きていける人間が少ないことをクロディクスは身をもって知っていた。
「そろそろ昼の時間だろう」
懐から懐中時計を取り出したクロディクスが言うと、丁度書斎の扉が叩かれてゼリヌの声が聞こえた。
クロディクスと次いでミシャルのを呼ぶゼリヌの声にミシャルは返事をしてソファーから勢いよく立ち上がった。
ホコリが舞ってミシャルは慌ててはしたなかった事をクロディクスにわびた。
なんて事もないとクロディクスに声をかけられて、その頃にはミシャルは自分が何を聞こうとしていたのか忘れてしまっていた。
「ミシャル様昼食のご用意が出来ました、朝を召し上がっていないのでリューク様が心配しておられましたよ」
「はい!すぐに行きますっ」
ミシャルは元気に返事をするとクロディクスに一礼してすぐに扉の外にいるゼリヌの傍に寄った。
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