双子の妹に全てを奪われた令嬢は訳あり公爵様と幸せになる

甘糖むい

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子供のように食事をするミシャルをクロディクスは殆ど碌に食べずに見つめていた。

長らく誰かと共に食事を取る事もなかったクロディクスの目の前で無邪気に食事をとるミシャルはクロディクスが失った食事に対する楽しさを思い出させてくれるようで、目が離せなかった。
クロディクスが呪われてから人と食事をした記憶はほとんどなかった。
パーティー端にある立食に立ち寄る事もなかったクロディクスは、年月を追うごとに食事を取らなくなった。

やがて誰からも誘われなくなった事もあり、食事を取らなくてもいい事もあってクロディクスにわざわざ食事を用意しなくてもいいとリュークに伝えた。

「こっちも食べるか?」

始めは遠慮をしていた様子だったが、料理に夢中になるうちに人の目も気にしなくなったミシャルはクロディクスがタイミングよく皿を傍においてやれば素直にその皿から料理を食べるようになっていた。

懐かない小動物にエサをやる気分になってクロディクスは大皿を3つ空になるほどの量をミシャルに与えた。
細い身体のどこに入るのかと心配になるほどミシャルは料理を口にしていたが、流石に限界が来たのか最後に渡したうさぎのまんじゅうをふたつ食べた所で手を止めた。

「お腹がいっぱいになりました…」

まだたくさん残った皿をじっと見ながらミシャルはクロディクスに告げた。
料理を残すのは忍びないと視線が訴えていて、そのわかりやすい表情にクロディクスはまたも声を出して笑った。

ミシャルが来てからなぜかずっと笑いが止まらない自分に驚きながらも、クロディクスは想像もつかないミシャルの態度に笑いが誘われるのも仕方がな事かと、納得していた。

「そのまんじゅうは日も持つものだ、部屋でも食べられるようにリュークに言っておこう。茶と共に食べるとまた違った風味になってうまいぞ」

呪われる前からあった昔ながらの月餅に似た饅頭は、甘いものが苦手なクロディクスでも時折口にしていた甘味だった。
随分と口にしてはいないが、ミシャルの様子だと味は変わらずそのままだろうとクロディクスは当たりをつけてうさぎのまんじゅうが乗った皿を後でリュークに届けさせることを約束してやった。

「そうなんですか!ありがとうございます、すっごく楽しみです」

破笑して笑うミシャルの目が残りの1枚の皿に移る。

「残りは私が食べればお前の憂いはなくなるか?」

ミシャルに食べさせるばかりで殆ど料理を口にしていなかったクロディクスが大皿ごと肉にフォークを刺して威勢よく咀嚼して皿を綺麗にする。

一見下品にも見える所作であるのに、ミシャルにはクロディクスの食事のとり方がクロディクスらしく映り、貴族然としたクロディクスよりもよっぽど彼らしくて近寄りがたく感じていた気持ちから少し歩み寄ろうと心の持ちようを変えた。

饅頭を乗せた皿以外がきれいになると、タイミングよくリュークが表れて空いた皿を見て目を丸くして驚いた。
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