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第三章 立ち上がれダンジョンブレイカー編

第23話 図書館に行こう!

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 ひと悶着ありそうだったが何事もなくて助かった。
 しかし勇者に助けられるなんて初めてかもしれないな。

 チェルト=シーリシスか。
 悪い人物ではなさそうだし、しっかり覚えておこう。

「うむ、世の中にはマトモな奴もおるのう。感心なのら」

 あまり人前でそういう事言うなよな、ただでさえ偉そうなんだから。

 それにしても、ウーティリスって本当に何者なんだろうな。
 神、とは言うがその正体に関してはまだ何もわかっていないし。

 いっそ調べてみるか?

「わからぬのならそれもよかろうな。古の文献が残っている場所くらいはあるであろう?」
「そうだな、国立図書館にいけば何か見つかるかもしれない」

 俺だって村で文字を学んだから読み書きくらいはできる。
 古代語まではわからないが、その辺りはきっとウーティリスがわかるだろう。

 それにこの街にある図書館は基本的に市民開放型。
 この街に住む人間なら誰でもどの書物も閲覧する事ができるのだ。
 もっとも、どの書物も世界図書館収蔵物の複製品らしいが。

 そこで俺達はひとまず家に帰り、荷物を降ろす。
 それで外行き用の綺麗めな服に着替え、図書館へと向かう事にした。

「ラングー疲れたのらー」
「はいはい、おんぶしてやるからもうワガママ言うなよ」

 しっかし、なんだか本当に子守りをしているみたいだ。
 普段はいっちょ前に色っぽい事言うクセに、変わり身の早い奴だなぁ。
 神って奴はみんなそうなのか?

 そんなやりとりを経て、図書館に到着。
 司書士の説明を小一時間受けてからやっと中へ入れてもらった。

「初めて入るが、こりゃすごいな」
「うむぅ、なかなかの規模でわらわも感心であるっ」

 最初は本棚が一杯並んでいるのかと思っていたがまるで違う。
 大広間の中心に巨大な球体があり、その表面に小さな粒のような光が無数に動き回っているのだ。
 そして球体の天井周りには円形を象った棚が連なって存在し、光粒が訪れると棚に収まっていた本がひとりでに飛び、球体へとくっつく。
 そうしてふもとまでやってきては、要求者に手渡すようになっている。

 そんな大規模であるがゆえに、球体下部には大きな穴が開いているらしい。
 どうやら穴下にも棚や本がたくさんあるようだ。
 すべて魔導技術による配膳システムとなっているんだな。

 そこで俺達もその球体の傍へ。
 さっき教えてもらった検索コンソールとやらの前に立つ。

『検索を どうぞ』
「さて、俺達も何か探してもらうか。ええっとぉ」
「古代ウンディール文明なんてのはどうなのら?」
『ブブー その文言は 登録されておりません』
「ならばメルピヨン文明はどうら!」
『ブブー その文言は 登録されておりません』
「ぐぬぬぬ!」
『ブブー その文言は 登録されておりません』

 おいおい、まったく何も引っ掛からないじゃないか。
 キーワードがピンポイント過ぎてダメなんじゃないか?

「待てウーティリス。まず大々的な部分から検索を始めよう」
「なれば古代史をまずリストアップするのら」
『検索……リストを表示します』

 やっぱりそうだったか。
 少しずつ条件を絞ったやり方の方が早いらしい。

『これはおよそ四千年前の 書物までを 表示しております』
「それにしてはずいぶん多いな。あ、でもほとんどが近代史か」
「最古の文献を探すのら。一番下に一気に行くのらー」

 検索数は七三二件。
 しかしいくら欄をスクロールしても、出て来るのはいずれもどこかの国の百年の歴史とかそういうものばかりだ。

 だからもう近代の物をすべて無視し、一気に最後の頁へ。
 すると途端に〇千年といった単位の名称が三冊ほど姿を現してくれた。

「二千年前の文化と風習、三千年前の人類の軌跡、四千年前に存在した偶像神話――あ、これじゃないか?」
「それら! その本を持って来させるのら!」
『チェック……配置確認、転送まで残り二分』

 良かった。それらしいのがちゃんとあるじゃないか。
 もっとも、それにウーティリスの事が書いてあるかどうかはこれから見てみないとわからないが。

「うむうむ、楽しみらのう!」

 二分間が待ち遠しい。
 でも二人して待っていると、すぐ光粒が本を一冊持ってやってきた。

 それを受け取り、検索終了。
 さっそく二人でガラ空きの読書コーナーへと赴き、椅子へと座る。
 ウーティリス、頼むから大声だけは出すなよ?

「どれどれ……えっと、『四千年前に存在した文明、ジ・オール。その時代に存在した神話と偶像神をこの書物に書き写すことにする』だとさ」
「おお、ジ・オール文明か。懐かしいのう。しかし、それにしては割と最近の文明ではないか」
「四千年前で最近なのかよ……」

 とはいえ、四千年前の代物でも俺が読める文字で書かれている。
 という事は、きっとこの長い年月の間にもずっと同じ言語が使われていたって事なのだろうな。

 とても壮大なロマンを感じてならないよ。

「単にこの時代の人間に翻訳されただけかもしれぬがの」
「初手から人のロマンを壊さないでくれる?」
「ウッシシシ! 男のロマンとは壊すためにあるようなものなのらぁ!」
「コイツ……ッ!」

 まったく、雰囲気もへったくれもないなこの女は。
 まぁいいや……神名の索引があったから探してみる事にしようか。

 どうやら当時の神は全部で一○九人いるらしい。
 ぱっと見だと、この本でもそれらが消えた理由までは書いていなかった。

 でももしこの本にウーティリスや知り合いの神の名があるなら。

「一番上はやはり創世神ディマーユだよな、当然」
「いや、だからそんな神などわらわは知らんぞ」
「お前が知らないだけかもしれないだろ」
「んなバカな。他一〇七の神は全員面識あるわい」

 しかししょっぱなから知らない神と来たか。
 俺らからしたら最も親しみのある名なんだけどな。

 ただとなると、この本にもどこまで信憑性があるのやら。
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