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第三章 立ち上がれダンジョンブレイカー編

第22話 迂闊な出会い

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 ギルドで確認も済ませたし、あとはやれる事をやろう。
 ウーティリスの部屋用に内装建材を手に入れなければ。

 基本的に一般木材はとても安い。
 木は表にもいっぱい生えているし、魔物にさえ気を付ければ採り放題だから。
 それなので伐採士のみならず、環境保全の意味でギルド員が切る事も多い。
 そのために価格レートが低くなっていて、伐採士もダンジョンに行かざるを得なくなっているという訳だ。

「ひとまずこの今回分の床板と壁布くらいでいいな」
「うむーっ、どのように飾られるのか楽しみなのら!」

 とはいえかさばるから数は買えない。
 少しずつ買い足してゆっくり改築していくしかないだろう。
 大工仕事なんてやった事がないから上手くやれるかはわからんがね。

 それで木材を抱えながら露店広場を行く。
 ここはあいかわらず何でもあって、活気もすごくていい所だ。
 買うものがなくとも寄らずにはいられないほどに。

「らっしゃい! そこにニイさん、魚の干物はいらない? 卸したてだよ!」
「ちょっとちょっとお嬢ちゃんの服! こっちのにしたげなよ!」

 しかしお金があると少し贅沢もしたくなる。
 おかげで気付けば魚の干物も手に。
 ウーティリスの服も黄色いリボン付きの白ワンピースになった。

「良かったのか? その色で」
「これでよいよい。価格が安ければ助かるであろう?」

 水色の髪に黄色が合うかといえば、個人的にそうとは思わない。
 それでも本人がこう言ってくれているから今はいいか。

 でも、いずれもっとそれらしい服を仕立ててあげたいものだ。

「あっ!?」
「えっ――」

 そう妄想していた矢先、突如視界の横から人影が。
 ぶつかりそうになり、つい身をひねって避ける。

 ただその拍子に木材が相手に当たってしまい、結局二人して転んでしまった。

「いったたたぁ~……」
「す、すみません、大丈夫です、か――ッ!?」

 だが互いに尻餅を突く中、俺は相手を見た途端につい固まってしまう。
 ぶつけてしまった相手がとんでもない人物だったがゆえに。

 赤い短髪がふわりと靡く者――その名はチェルト=シーリシス。
 今絶賛売り出し中の新進気鋭、B級勇者である。

「あ、ああ……だ、大丈夫でございますかあああ!!?」

 まずい、まずいまずいいい!
 今ここで勇者と問題を起こすのはとてもまずいぞ!!
 なんて時にトラブルを起こしちまったんだ俺はァァァ!!!

 これではせっかく稼いだ金が巻き上げられる可能性もある!
 それどころか木材で何をするつもりか問われるかもしれない!

 そうなったらせっかくの計画が水の泡に――

「あ~いえ、平気ですよ。これでも丈夫なので」
「えっ……」
「あなたは大丈夫ですか? ケガ、していませんか?」
「は、はい……」

 ど、どういう事だ?
 勇者が俺の心配をしてくれている?

 たしかに俺にチェルト氏との面識はない。
 かかわった事も無いし、実際に面と向かって見るのも初めてだから彼女の事は何も知らない。

 だけど不思議だ。まるで師匠を見ているみたいで。
 誰だろうと見下す事なく対等に接する姿がまるで……

「さぁ立てますね? はいっ!」
「お、おおっ!?」

 しかもさすが勇者だ。
 ガタイなら俺の方が大きいのに軽々と持ち上げられてしまった。
 そして手まで握られてしまった……勇者なだけあって堅かったが。

「チェルト、何をしている?」
「どうしたのぉ~? なんでハーベスターなんかと手を繋いでるのさ?」
「あ、二人ともぉーっ! 先に行かないでよーっ!」

 う、ヤバイ……ホッとしていたのも束の間、また不味いのがきた。
 チェルト氏とパーティを組んでいる勇者の仲間達だ。

 たしか名前はゼンデル=カインとラクシュ=ミニアル。
 どっちも俺と面識がある、サドっ気満々のクソ勇者代表みたいな奴ら!

「悪かったな、でもお前を置いていくつもりはなかったんだ。許してくれ」
「あっはぁ、でもなんでなんでぇ? もしかしてチェルト、ハーベスターなんかと付き合ってたりするのぉ?」
「ううん、たまたまちょっと当たりそうになっちゃってねー。そうしたらちょっと手を支えてもらっちゃって」
「へぇ。なんだつまんなーい」

 楽しそうに話しているが、二人は俺におもいっきりガン飛ばしてきている。
 まるで「仲間に手を出したとわかったら殺す」って言わんばかりに。

 だけどチェルト氏は嘘までついてくれている。
 場を事なく収めようとしてくれているのだろうか?

「当たりそうってお前、もし何かされたらちゃんと言えよ? あの小汚いハーベスター野郎、お前の綺麗な手を触ったんだからな?」
「ううん、私の方から触ったから平気だって~」
「ならいいんだケド」

 しかし俺も動けない。
 目を逸らしてじっとしている事しかできないんだ。
 うかつに逃げれば背中からでも斬り殺されかねないからな……!

「おい、ラング=バートナー……!」
「は、はいっ」
「もし次チェルトに何かしてみろ、その時はてめぇを殺す」
「そういう訳だからぁ? またうちのエースに手を出した以上は見逃さないし」
「も、申し訳ありません……」

 ……あいかわらず横暴な奴らだ。
 チェルト氏のおかげで立ち去ってくれたものの、まだ殺意を感じる。
 しかもしっかり名前まで覚えてくれちゃってよぉ。
 ギトス効果がここまで影響するとはいい迷惑だ。

 おかげで周りの人達も黙り込んでしまったし。
 騒いだだけで殺されそうな雰囲気だったからな、仕方ない。

『まったく、勇者とはあんな奴らばかりなのか! 好き勝手に殺意をばらまく痴れ者どもめっ!』

 そういうもんなのさ、今の時代は。
 もう誰も平等なんて願っちゃいないんだろうさ。優位である事が嬉しくてな。

『そんな奴らのためにわらわはダンジョンを創った訳ではないっ! ええい、イライラするのう! みせしめにギルド直下に越界級ダンジョンでも発生させてやろうか!』

 まって、上級より上があるの?
 なにそれ俺知らない。

『超級と越界級、さらにその上に星滅級があるのう』

 おおう……そこまでいくともう規模が予想もつかんな。

 しかしこの場所にダンジョンを発生させてもきっと意味はない。
 ギルドは各国各街に点在する超大規模組織だからな。
 その一つを潰した所でギルドそのものが痛手を負う事はないだろうさ。

 そう、それだけ大きい組織だから誰も逆らえない。
 たとえ勇者だって例外ではないだろう。

 そんな組織を相手にしようだなんて、誰も思う訳がないよな。
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