時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
上 下
262 / 1,197
第九節「人が結ぶ世界 白下の誓い 闇に消えぬ」

~白が燃ゆる山 局~

しおりを挟む
 ちゃなが放ったのは言わば超高熱線ビーム砲の類。
 超高熱の命力粒子を連続的に放射し、射線上の全てを焼き尽くすといった技である。

 だがこれはもはや人間が放てる様な攻撃ではない。
 技という次元を遥かに超えていると言えよう。

 射程は【複合熱榴弾コンポジットカノン】と比べれば狭いが、攻撃力は格別に高い。
 爆発力では無く、熱量で焼き斬る。
 しかも遠く離れた相手であろうと選ぶ事無く。
 これだけの威力であればもはや防ぐという手段は皆無。

 ただ、それだけの攻撃ならば音も衝撃も凄まじいのではないだろうか。

 しかしそこはちゃなも考えていた。
 思考を巡らせた結果、導き出したのだ。
 【常温膜域ヒートフィールド】を【圧力隔膜域プレッシャフィールド】へと変化させる事を。

 これは言わば拳銃の消音器サイレンサーと同じ。
 気圧を遮断するフィールドを張る事で発射音を閉じ込めたのである。
 だから熱線からは鳴音しか放たれていない。
 爆音は全てちゃなの周囲で拡散消滅しきっている。

 ちゃな自身の耳には相応の激音が響いている事だろう。
 けれど〝それでも耐えてみせる〟という強い意志がこの技の実行へと至らせた。



 故に、今のちゃなは例え一人ででもやりきるつもりだ。
 この【超高熱線砲ヒートライン】で目の前の強敵を焼き斬るまで。
 


 その猛威が迫る中、アージが必死に雪上を駆け抜ける。
 脅威の熱線砲に巻き込まれぬよう、幾度と無く射線を確認しながら。

 するとその時何を思ったのか、目前の小木へとおもむろに手を伸ばし。
 駆け抜けざまに小枝を「バキリ」とへし折り取っていて。

「調子に乗るなァァァーーーッ!!」
 
 それをあろう事か、投げ付けていた。
 まるで手裏剣の如く、枝先をちゃなへと真っ直ぐ飛ぶ様にして。



 だがその瞬間、二人の間を一人の影が遮る事となる。



「うおおおーーーッ!!」

 勇だ。
 勇が一瞬にして追い付いていたのだ。

 それどころか、投げ付けた小枝を打ち壊すという芸当まで見せつけていて。

 ちゃなが助けてくれたお陰で気力が蘇ったのだろう。
 見せる気迫は先程にも劣らない程に溢れている。

 故に、その勢いは留まる所を知らず。
 更には駆けるアージへと追撃一閃さえ見舞うという。

「ぐううッ!? 貴様まだ諦めていなかったのかッ!?」

 その一撃は惜しくも両手斧に防がれ徒労に消える。
 しかしそんな事などもはや気になどしない。
 当たるまで何度でも何度でも斬ってみせる。
 その気概を生み続ける胆力が勇最大の長所なのだから。

 幸い、大地が露出した今なら自由に動く事が出来る。
 泥くらいなら足を取られる事も無い。
 その程度は自慢の【鋭感覚】が加減を教えてくれるから。

 そしてその視力は当然、ちゃなの熱線軌道さえも見切らせてくれる。

 アージが追撃を斧で受け流し、勇の身ごと弾き返して。
 でもその直後には、振り払った斧が急激に赤化していく。

 勇が熱線軌道に誘導したのだ。 
 こうする事でアージの魔剣を巻き込もうとして。

「なんだとおッ!? コイツ学習しているッ!?」

 当然勇は既に軌道外。
 自ら空中へと跳ね上がり、その身をぐるりと回していて。
 大地へ着くや否や、再び素早く跳ね上がる姿が。

 まだ倒れていない、アージの逃げる先の木へと飛び移っていたのである。

 今の状況なら先程の様な咆哮は放てない。
 加えて挟撃となるからこそ、ちゃなの熱線への意識を削ぐ事が出来る。
 後は逃げ道を塞ぐ様に立ち回るだけ。

 故に、直接飛び込みはしない。
 逃走経路へと着地し、その力を高めるだけでいい。

「いや、違うッ!! こいつらは、これが本領かあッ!? ならあの砲撃手が本命だったとッ!? ぐぅぅぅ!! このアージ、目標を見誤ったッ!!」

 その姿、まさに水を得た魚の如し。

 当然だ。
 二人はいつも、こうやって戦ってきた。
 勇が前を守り、ちゃなが後ろから攻撃する。

 こうして戦い続けて来たから、この戦い方が二人のベストだ。
 今、二人は本領を発揮して戦っている。
 【超高熱線砲ヒートライン】という新技を最大限に生かし、最高の戦術を組み立てながら。

 勇が斬り掛かれば、アージは避ける。
 ならちゃなはその回避軌道に熱線を向ければいい。
 例え熱線を避けられても不安は無い。
 勇がその後も相手の動きを導いて繋いでくれるから。

 アージが予想を越えて動こうが関係は無い。
 今の二人が合わさって生まれた戦闘力は、アージの力を遥かに凌駕している。

 二人だからこその力が今ここに。
 先程まで余裕を持っていたアージも、今となっては焦燥感に苛まれていて。

 躱しても攻撃が繰り返される。
 反撃しても、それが熱線へと誘導される。
 立場が先程とまるで逆だ。

「これはまるで我等の―――そうか、そういう事か! 二対一体が貴様らの真価かッ!?」

「そうだッ!! 俺達はこうやってずっと戦ってきたッ!! 多くの敵を乗り越えてッ!!」

 しかしアージもただ一方的にやられている訳ではない。
 熱戦が迫る中であろうと勇の剣を弾き、遠くへと跳ね退けて。
 扇状に打ち放たれていた熱線も、その度に跳ねて躱して凌ぎ切り。
 魔剣に当たっても赤化するだけで溶断には至らないからこそ。
 すぐに離せばいいとわかった今、まるで扇風機の如く振り回し続ける。

「そしてアンタも越えてみせるッ!! 待ってる人達の下に帰る為にッ!!」

「それは俺とて同じ事!! 例え手足を切り裂かれようと、貴様等を討ち倒してみせるッ!!」

 その激戦が続いた所為で、一帯はもう丸裸だ。
 雪も木々さえもが燃え溶け、倒木の跡を次々と生み出し続けていて。
 土面の一部は融解結晶化し、白蒸気を吐き続けるという。
 もはや地獄の沙汰だ。

 そんな地獄の様な戦場でもなお、勇とアージが飛び跳ねて魔剣を打ち合い続ける。
 互いに退けぬ強い意志と信念を以て。

「うううッ!! もうダメですッ!! 勇さぁん!!」

 その中で、遂にちゃなが力尽きる。
 熱線砲を支える手にもう力が入らなくなったのだ。

 すると途端、熱線が途切れて―――

バァンッッッ!!!

 たちまち強い反衝撃が杖ごとちゃなを弾き飛ばす事となる。
 こうなる程の強い潜在抗力リアクションを誇っていたが故に。

「田中さんッ!?」

 でもどうやらちゃな自身は無事らしい。
 勇の心配する声が聴こえたのか、遠くから手を振っていて。
 幸い残った雪上に飛ばされたおかげで、別条は無さそうだ。

 とはいえ、これで頼みの綱である熱線砲が失われてしまった。
 あのアージを抑えられた勇達の優位性が、最善最高の手段が。

 だがもう、勇は怯まない。

 雪が解けた今、身軽に動く事が出来る。
 ちゃなが拓いてくれたから、さっきよりもずっと気迫に満ち溢れている。
 加えてアージの動きにも見慣れて来ていて。

 更に、アージ自身も疲労を隠せない。
 何度も魔剣を焼かれた事で、掴んでいた手も爛れている。

 故に今、勇とアージの戦闘力は拮抗していた。 

 勇が縦横無尽に素早く動いて牽制し。
 アージが力の限りに魔剣を振り回す。
 どちらも躱しいなして凌ぎながら。

 もうすぐこの戦いの決着が付く。
 その先に立つ為に死力を尽くして。

 今はただ、互いに生き残る為に。



 しかし彼等はまだ気付いていない。
 この時、山の頂で異変が起きていた事に。

 そして麓からも、不確定要素が一人近づいていた事に。

 この激戦がもたらすものとは。
 その先の結末とは。

 命と信念を掛けた戦いは役者と機を揃え、遂に最終局面を迎えようとしていた。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

剣神と魔神の息子

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:78pt お気に入り:1,809

テイマー勇者~強制ハーレム世界で、俺はとことん抵抗します~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:142

魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:428

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:1,324pt お気に入り:2,426

中途半端なソウルスティール受けたけど質問ある?

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:14

不死王はスローライフを希望します

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:13,596pt お気に入り:17,512

面倒くさがり屋の異世界転生

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:994pt お気に入り:5,163

処理中です...