時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第九節「人が結ぶ世界 白下の誓い 闇に消えぬ」

~白が燃ゆる山 激~

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 勢いに乗った勇と消耗を隠せないアージ。
 二人の攻防が更に激化の一途を辿る。
 
 確かに、勇は戦闘技術的にアージに劣っているだろう。
 しかしそれでも負けない速さと動体視力がある。
 そして幾度躱されようが諦めない胆力もが。

 ならば幾度も打ち続けよう。
 幾度も駆け、跳ね飛びながら。

「ぬううッ!! こやつ、先程よりも命力の昂りが強い……!! まさか戦いの中で成長するタイプかッ!? だがそれにしては―――」

 だがアージも負けてはいない。
 巨大な斧の腹で受け止めては弾き返し。
 時には柄をも利用して凌ぎ、打ち返す。
 動き自体は大柄なだが、手捌きなら勇にも見劣りはしない。
 気迫で攻めて来る勇の攻撃を全て躱して見せつける。

 これが技術と経験の力なのだと。

 ただそんなアージにも焦りはある。
 勇の計り知れない潜在能力ポテンシャルを前にして。
 幾ら地形の差があろうとも、説明しきれない程の勢いだったが故に。

 そんな焦りの中でふと傾斜上へと視線を向ければ、勇を見守るちゃなの姿がチラリと。
 その姿を見掛け、そこでようやく気付く。
 己がまだまだ非情に徹しきれていなかったという事を。

―――どうやら兎穴に手を入れたやぶへびだったらしいな。 未だ俺も未熟か―――

 勇が勢い付いたのは間違い無く、ちゃなの支援という基点スイッチだ。
 加え、彼女に危害を加える様な事も余計な口で宣った。
 つまりこれが藪蛇、勇に火を付けるキッカケになったのだと。

 故にアージは今、後悔する。
 己の軽口を招いた未熟さに。

 そして感謝もしよう。
 その未熟さに気付かせてくれた相手に。

 未だかつて見ぬ強敵に、全力という名の敬意を表して。

「ならば俺は応えようッ!! それでも貴様を倒して見せるとッ!! いつか貴様ら魔剣使いを全て滅し、為にもッ!!」

「えッ!?」

「だから我々は、ここで倒れる訳にはいかんのだァァァーーーーーーッッ!!!」

 その心の切り替えが、信念をより強固とする。
 身体より命力を強く迸らせる程に。

 まるで光の矢だ。
 光矢が身体からとめどなく打ち放たれているかの様だ。
 それ程に命力が溢れ、激情を露わとしている。

 間違い無くアージは全力を発揮している。
 今宣った事を必ず実現させる為にと。
 そうして貫く事が己の更なる成長に繋がるのだと信じて。

「くっ、ここでまだ強くなれるのかよ……ッ!!」

 そんなアージを前にして、勇の足が遂に止まる。
 地に足を付いていなければ飛ばされそうな程の気迫だったからこそ。

 勇はこれ程の力を見せた相手を知らない。
 レンネィの全力も見た事が無ければ、剣聖と戦った時も手加減していたから。

 でも、だからと言って臆しはしない。

 アージは間違い無く、今までに見ない最強の相手だ。
 宣っていた事にも気になる所はある。
 例えそうだとしても、今更退く訳にはいかないのだ。

 ちゃなが導いてくれたこの勢いを無駄にしない為にも。

「勝負だ若き魔剣使いッ!! 決着を付けるッ!!」

「負けるものかあッ!!」
 
 そうして再び始まった二人の攻防は、今までに無い程の応酬の嵐だった。

 勇が一度剣を振り、アージが防げば光が激しく飛び散って。
 その燐光を纏い引いた勇が一瞬で、弧状の跡を大地へ刻み込む。
 走り抜いた跡に残光を引いた事によって。

 その軌跡を頼りにアージが背へと柄を回せば、またしても光が飛び散っていく。
 瞬時に背後へ回り込んだ勇の一撃を、なんと見ずに防いでいたのだ。
 しかも防ぐだけには留まらず、勇の刃を引き巻いて弾き返すという。

 これは今までにも見せた、防御転撃の極意だ。
 引き込まれれば漏れなく巨大な斧の打ち上げが待っている。

 勇はまだこの技術に対して抗う術は無い。
 故にまたしても打ち上げられ、空高く跳ね飛ばされる事に。

 でも今の勇なら冷静な対処が可能。
 ただ飛ばされるだけなら、空中で身体を捻り舞うだけで勢いは殺せる。
 後は自分だけの足場を利用し、更なる機動力を得るだけだ。

 そう、今は樹木が周囲にあるからこそ。

 二人の攻防は場を限らず、常に動き続けている。
 だからこそ既にちゃなが拓いた場所を離れ、今再び雪原地帯へと到達していて。
 ふと付近を見れば、林のすぐ先には人工的に大きく拓かれた空間が。
 恐らく最寄りのスキー場にまで到達したのだろう。

 しかしそれでも二人の攻防は止まらない。
 力が完全と拮抗した今、雪の影響はほぼ皆無だ。

 いや、むしろ樹木を使えるなら勇の方が有利か。
 木々を再び跳ね、防いでくる両手斧さえ足場として。
 こうして地に付かなければ、雪など何の意味も成さない。

 当然アージも相変わらず雪などものともしない。
 だがそれでも、蜂の如く刺してくる攻撃を前にして歩が緩まる事に。
 これだけ細かく攻撃して来られれば、頼みの咆哮も通用しないだろう。

 恐らく勇もそれを直感的に理解している。
 理解している上でこうして敢えて飛び込み続けているのだ。
 アージの斧捌きは卓越しているが、見えない訳でも無いからこそ。

 その様にして飛び掛かって来る勇を狙い、今度は大空に大振りの剛健一閃が。
 咆哮代わりの反撃カウンターである。

 だが、勇はなんと迫る斧の腹を拳で叩く事によって躱していた。

 驚くべき器用さ。
 驚くべき反応速度。
 何たる自由な戦い方か。

 故にアージには、勇が空中で軌道変更した様にしか見えていなかった。
 それ程の早業であり、常的ならざる動きだったのだから。

 しかもそれだけでは終わらない。

 なんと勇が宙を水平に飛んでいたのだ。
 まるで空を飛んでいるかの如く。

 いや、厳密に言えば引かれていると言った方が正しいだろう。
 叩きつけた拳を斧に貼り付かせたままだったからこそ。
 剣聖との戦いでも見せた、命力を磁力の様にしてくっつかせる技術である。

 ただこの力を、アージは知らない。
 初めて見る力を前にして、動揺さえ露わに。 
 遂には両手斧を高々と振り上げ、勇を強引に引き離そうとしていて。

 しかしそれは勇の目論み通りだった。

 そうして振り上げられた力をも利用し、空高く舞い上がる。
 魔剣に力を籠め、太陽の如き輝きを照らしながら。
 更にその輝きを急転直下の勢いへと換えて。



 今この一撃に全てを賭ける為に。



「うおおおーーーーーーッッッ!!!!」

「ぐゥおおおーーーーーーッッッ!!!!」

 でも、それはなんとアージも同じだった。
 アージもが斧を強く輝かせ、振り上げた勢いのままに旋回させていたのだ。

 そうして見せるは、大地を抉る程の強烈な大旋回斬り上げ。
 勇の勢いさえ霞まんばかりの豪快一閃である。



 この時見せしは天光の輝きと大地の咆哮。
 勇の【天光杭フラッシュパイル】 対 アージの【地裂剛斬ラウンダーエッジ】。

 その天地鳴動の渾身撃が今、遂に炸裂する。



ババババーーーッ!!!



 その様相はまるでいかづちの様だった。
 音も、光景も、衝撃さえも。
 それ程の力が二人の間に迸ったが故に。

 全ては命力の賜物。
 力と力のぶつかり合いが雷鳴の如き激突を生み出していたのだ。
 それも凄まじいまでの反発力までをも生み出して。

ッドバァァァンッッ!!

 その途端、刃の境で爆発にも足る衝撃波が巻き起こる。
 どちらもが耐えきれぬ程の凄まじい圧力を解き放って。
 すると衝撃の余り、勇がアージがたちまちその身を大きく弾かれる事に。
 それはまるで同極を合わせた磁石の様にして。

「うああッ!?」
「おおおッ!?」

 ただ、これ程の衝撃だったにも拘らず二人も魔剣も無傷だった。
 爆発とは例えたが、それ程の威力は伴っていなかったのだろう。
 実際には刃を突き合わせる前で、圧力によって押し出されただけだったから。

 そんな二人が間も無く、雪の中へと「バサリ」と埋もれる。

 ただ、どちらも先程の勢いが嘘の様に鈍い。
 起き上がろうとするも、互いに地へと魔剣を突いていて。
 息を上げたまま、立ち向かう事無く睨み合うだけだ。

 互いにもう命力が尽き掛けているのだろう。
 魔剣を奮うどころか、走るのも困難となる程に。
 これまでの激しい攻防に加え、今ほどの一撃を打ち合えば当然の結果か。

「ぐっ、まだだ、まだ終わっちゃいない……!」

「うぐぐ、まさかここまで消耗する事になるとは!」

 それでも二人が諦める事は無い。
 まともに魔剣を掲げられなくとも、命力が残り少なくとも。
 その柄を頼りに立ち上がり、なけなしの闘志を見せつける。

 こうして見れば、まるで似た者同士だ。
 その力も、互いに退けぬ所も。

 こんな巡り合いでなければきっと気が合ったかもしれない。
 種族が、育ちが、生まれた世界が違いさえしなければ。

 ならいっそ、こんな戦いが今にでも終わってしまえばいいのに。

 そんな想いがふと脳裏に過る。
 勇にも、アージにも。
 思考までもが同じであると言わんばかりに。



 しかし睨み合っていたこの時、突如として異変が訪れる。
 まるで、二人の願いを天が聞き入れたかの様に。



ズズズズ……!

 大地が震動を伝えていたのだ。
 気を凝らさねば感じない程に小さな振動を。

 それも、腹の底から恐怖を煽ってくる威圧感と共に。

「こ、これはッ!?」
「まさかあッ!?」

 それに気付いた二人が咄嗟に山頂へと視線を向ける。
 するとその途端に、異変の原因が視界に映り込む事に。

 雪崩である。

 大量の雪が大音と共に滑り落ちて来ていたのだ。
 遥か山頂より、激しく白の粉塵を巻き上げながら。

 あろう事か、勇達へと目掛けて。



 戦いの最中に巻き起こった突然のアクシデント。
 強靭な魔剣使いであろうと抗えない自然の猛威を前に、勇達は果たして―――


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