時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第三十四節「鬼影去りて 空に神の憂鬱 自由の旗の下に」

~勝利、賭す~

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 ブライアンとの会合を終えた後、勇はアルクトゥーンへと帰還した。
 彼を待っていたのは、会合の機会を与えた福留を始めとした主要メンバー全員。
 国連に認可を受けた後の最初の作戦ともあり、皆の気合いは一味違う。
 管制室に集うそんな彼等を前に、勇はブライアントの会合の内容を惜しげも無く伝えたのだった。

 しかし一転、勇から語られる話を前に誰しもがどんどんとその顔を驚愕の色に染め上げていく。

 そして誰よりも強い反応を見せたのは言うまでも無く―――



「勇君、君は馬鹿なのですかッ!?」

 

 福留がそう怒号を上げるのも無理は無い。
 彼にとって、ブライアンとの予定合わせアポイントメントは切り札にも近い重要な手段。
 そもそもがその様な手を打つ事が出来る人間が地球上に殆ど居ないのだ、その重要度は計り知れない。

 それを切ってまで得たブライアンとの会合で、勇は惜しげも無く非礼を返したのだから。

 本来であれば平和的に解決策を提案する会合の場だった。
 それを「全面戦争」という答えを持って帰って来れば怒らない訳も無く。
 同席したリッダも当然咆える様を見せ、たちまちアネットによって四肢固めコブラホールドされる姿が。

「こんな事なら私も付いて行けばよかった……ウウッ」

 さすがの福留も、勇から聞かされた事実を前に眩暈を催してならない。
 ふらりとよろけるも、傍に居たミシェルに肩を貸され。
 たちまちその口から唸り声の混じった深い深い溜息が溢れ出す。

 事が事なだけに、その苦悩は計り知れない。

「すいません福留さん。 確かに俺の決断は非礼だったと思う。 反省もしています。 けど、それは多分ブライアンさんも承知の上ですよ」

「……どういう事でしょうか?」

 深い溜息と共に頷かせた顔を持ち上げる事も無く、福留が勇へと鋭い眼を向ける。
 その視界に映ったのは、余裕を伴った勇の微笑み。

「深い事は言えない。 でも話した限りブライアンさんは賢い人だとわかったから、俺が提示した事をきっと理解出来たと思う。 その上で戦争になる事は、俺にとっては予想の範疇に過ぎない」

 実の所、勇はエイミーとの会合の事を一切仲間達には伝えていない。
 ただ「人と話をしてくる」と伝えただけで、勇が何の情報を持っているかは詳細も含めてこの場に居る人間は誰も知らないのだ。
 当然福留でさえもである。

「そのブライアンという男との間に何があったのだ?」

「それは言えない。 知ってしまえばきっとこの作戦に余計な意思が乗ってしまう。 それは避けたいんだ。 余計な先入観無しで全力でアメリカ軍とぶつかりたいからさ」

 頑なに事実を懐から離さない勇の態度が仲間達に言い得ない不安をもたらす。
 勇の事を信じてるからこそ不満は出ないが、戦争に対する抵抗感は否めない様で。

「全力でぶつかッ……君はッ―――」
「勇さん、貴方の考える計画をお聞かせ願えますか?」

 その時、激昂の余りに取り乱す福留を制したのは他でもない莉那だった。

 突如自身の前に孫娘の腕が伸びれば、冷静さを取り戻さない訳も無く。
 莉那の一言に準じる様に、福留が不本意にもその身を半歩引かせていて。

 そうして静まり返った中で、遂に勇が語り始める。
 己が考え得た計画の一端を。 



「俺の考える計画は伝えた通り、アメリカ軍との全面戦争だ。 でも彼等と普通に戦えば……俺達は間違いなく敗ける」



 相手は世界最強を謳う軍隊を持つ軍事国家。
 アルディ達の様なテロリストとは訳が違う。
 例え勇達一人一人が一騎当千の戦力を持っていようと、圧倒的物量を前に勝つのは困難を極めるだろう。

 その理由はただ一つ。
 人間が活動出来る連続時間は限られているからだ。

 勇達が優れていても、使うのは自分自身の肉体。
 天力や命力で強化しようと、栄養を摂取しなければ衰弱し、眠らなければ脳活動に支障をきたす。
 高位生命体が持つ、力で抗う事の出来ない本能故に。

 しかしアメリカ軍に所属する軍人の総人数は勇達の数万倍にも足る。
 力は低くとも人員が入れ替わり立ち代わりで動き続ける事ができ、扱う兵器も強力かつ最新鋭。
 肉体では無く道具を駆使する事で、彼等は三日三晩止まる事無く強烈無比な攻撃をし続ける事が出来るのだ。

 その対比を例で挙げるならば、マンモス勇達VS人間アメリカ軍
 その結果は言わずとも知れた事。

 圧倒的な戦力はもはや個々の能力では防ぎきれない程に、かの国の軍備は強大なのだから。



「きっとアメリカ軍の総攻撃を受けたらアルクトゥーンも長くはもたない。 例え対命力装備じゃなくても、まともに喰らえば防御システムはエネルギーを消耗するからな」

「そうっスね。 もし数十隻の艦隊に同時砲撃されれば、一時間持てばいい方ッス」

「み、短いですね……」

 例え古代人の英知の結晶だとしても、物理的効果を無視する事は出来ない。
 それ程までに現代の兵器は想像を超えて強力なのだから。

「けど今回、アルクトゥーンは全力で本土へ行かなきゃいけない。 そこで皆に力を借りたいんだ」

 ここからが勇にとって最も話したかった所だったのだろう。
 途端に勇の表情が引き締まり。
 それが仲間達に緊張を呼び込んでいて。
 内容もさることながら事の重大さを感じ取り、歯を強く噛み締める様子を見せていた。

「最前線のアメリカ軍の猛攻を、俺と一部を除いた皆だけで凌いで欲しい」

 皆とは詰まる所、今ここに立つ仲間達の事。
 そして相手はアメリカ海軍と空軍で、戦闘は恐らく大西洋上で行われる。
 しかし茶奈はともかく、それ以外の戦力はハッキリ言えば陸戦向けだ。
 オマケに心輝は戦闘不能、ナターシャくらいしか空戦機動が出来る人員は居ない。
 それを海の上で防ぐのは至難の業だと言えるだろう。

 それでも勇は仲間達に懇願する。
 全てはグランディーヴァの勝利の為に。





「三時間……それだけでいい。 それが出来れば、俺達は勝てる!!」


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