時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第三十節「誓いの門出 龍よ舞い上がれ 歌姫を胸に抱きて」

~帰風 空を覆う機影~

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 日が落ちぬ夕方前。
 東京を中心に、日本全土が動揺と恐怖に包まれた。

 当然だ。
 突如として空に巨大な飛翔物体が現れたのだから。

 まるで鳥にも見える外観だが、遥か上空にも関わらずその形をくっきりとさせる程の巨体。
 一般的な旅客機のおおよそ十倍の大きさを誇るのだ……遥か遠くからでも見上げて眺める事が出来る程。
 人々の目に留まった時、「それは魔者か、それとも侵略者か」……そんな噂が一挙に広まる。
 中には「日本の終わりだ」と宣う者もおり、その声はあっという間に日本中へと広がっていった。



 悠々と動き、東京の空を横断する巨大物体……もちろんそれは機動旗艦アルクトゥーン。
 勇達を乗せ、無事日本へと辿り着いたのだ。



 その状況をいち早く掴んだ福留は、日本政府に早急な対応を求めた。
 そこからの対応は素早く、政府機関を通して各マスコミへと伝達。
 その巨大飛翔物体が魔特隊の所持物である事をリークした。

 そこから各報道機関が一斉にその事を緊急放送で伝え……その混乱は一挙にして収まりをみせたのだった。





 アルクトゥーンがゆっくりと関東上空を航行し、遂に魔特隊の本部直上へと到達する。
 その頃には既に情報は行き渡っており、多くの野次馬が様々な場所から見守る様子を見せていた。

 そんな中、本部建屋屋上から巨大な艦影を見上げる数人の人影。

 福留を筆頭とした、本部に残っていた人員達である。

「しかし……予定よりも随分と早いお披露目になってしまいましたねぇ」

 彼もまた知っていたのだ。
 知っていて敢えて隠していたのだろう。
 誰が聴いているかもわからない場所だからこその、彼らしいやり口である。

 しかし、福留以外はと言えば……「カッ」と見開いた目をただ静かに空へ向けるのみ。

 『こちら側』も『あちら側』の者も、見た事が無い様な巨大建造物が空に浮いているのだ。
 民衆同様に驚くのも無理は無いだろう。

「これはとんでもないですね……私の想像を遥かに超えた世界です」

「当たり前だ……こんなの誰だって想像出来ん……」

 『あちら側』の二人も現代に来たばかりの時は現代文化に対するカルチャーショックに驚きを見せたものだ。
 だが目の前にある物は、もはやそういった次元を超えた物体に他ならない。
 イシュライトとマヴォがゆっくりと降りて来る巨大物体を前にただ驚愕の声を漏らす。
 笠本もズーダー、ディックも獅堂も同様に……畏怖すら感じさせる表情を浮かばせていた。

「まぁそう思うのも無理は無いでしょう。 私も驚きましたからねぇ。 まさしくあの島は宝箱……宝で出来た箱だったんです」

 誰しもがその様な想いを胸に、降り立つ巨龍を迎える。
 「勇達が空島救出作戦に成功」……艦の登場そのものがその報せと成って。





◇◇◇





 アルクトゥーンが魔特隊本部上空へと差し掛かる頃、艦内では活発な人の動きが見られていた。
 厳密に言えば、彼等は再誕リバースが終わった後から各々の役割を果たす為に動いていたが。

 勇達も例外では無く……僅か一時間程の間、艦内の見学に歩き回っていた。

 カプロは艦の最終調整と操縦チェックもあり、管制室から出る事は叶わず。
 彼に追い出される様に部屋を出ると、各々の気の赴くままに散策を始めたという訳だ。

 勇は茶奈と一緒に居住区やその他艦内の設備の見学など。
 心輝は自室をくまなくチェック。
 瀬玲は生活をシミュレーションしながら自室と居住区の往復。
 ナターシャは疲れて自室でぐっすりだ。

 その様にして各々の時間を過ごし……あっという間に時は過ぎ去ってしまった。



『艦内の人員の皆さま、間も無く当艦は魔特隊本部上空へと到達致します。 その後、高度千メートル程の高さを維持、待機の予定です。 二日程の予定の繰り上げとなりましたが、以降予定していた行動をお願い致します』



 勇達が艦内を歩き回っていると、突如としてそんな放送が響いて来た。
 声からしてカプロなのだろう……が、放送を通すと途端にカプロ節が消える。
 この放送も聞くと『命力伝達機構』とやらで伝えられているらしく……彼らしい口調は機構を通して整えられてしまった様だ。
 敬語は恐らく彼自身のものであろうが。

 その時勇達が居たのは後部格納庫。
 思った以上に広々とした空間は、金属感を露わにした内装。
 端には見慣れぬ機械が幾つも備えられ、そこで艦内の機械類の整備も行えるようになっている。
 隅を見れば、空島にやって来た時に乗っていた輸送カーゴと同じ物が三台程立てかけており、準備万端とも言える様子を見せていた。

「『~ッス』って言わないカプロの声も珍しいよな」

「フフッ、そうですね……でも、もしかしたらいずれ聴けなくなるかもしれませんね」

 あの口調はカプロ独特なもので、同族であるアルライにも他には見られない。
 カプロ曰く、口回りの成長と歯との擦れで出てしまう癖なのだとか。
 ワザとにしか聞こえないが……実はそういう理由。
 完全に成長し、歯並びが安定すれば出なくなるかもしれないという訳だ。

 その事を知っている二人だったからか、そんな放送を前にどこかしんみりとした表情を浮かばせる。

 悲しい訳ではないが、感慨を感じているのだろう。
 何せカプロが見ない間に随分と大きくなったから。
 子供だった頃からの彼を知っている二人としては……どうにも懐かしさを感じずには居られない。

『勇さんと茶奈さんはその場に居ていいです。 その場所近くに乗降口があるんで』

 空かさずの名指しの声に、二人が思わず笑みを浮かべる。
 どうにも聞き慣れず、可笑しさが込み上げてきてしまったようだ。

 機関部と異なり人員もまばらな格納庫で、勇と茶奈が散策を続ける。
 よく見れば妙な戦闘機の翼の様な物が置かれているのにも気付き、「これも何かの便利アイテムなのか?」と首を傾げる姿も。
 様々な憶測を二人でぶつけ合っていると……二人の背後、格納庫の入り口の扉が無造作に開かれた。

「おーい、お前等、こっち来いってさ」

 そこから姿を現したのは、手を振って見せる心輝。
 どうやら他のメンバーも一緒に来た様で。
 勇達もそれに誘われるままに歩み寄っていく。

 格納庫の外に居たのは、カプロを含めた心輝達。
 ナターシャはまだ眠いのか、目を擦る仕草を見せていた。

「んじゃ、ちょっとこっち来てほしいッス」

 カプロに誘われ、通路を歩く。
 その場所は格納庫や管制室と違って人が通る場所だからなのだろう、全体的に比較的丸目な形状と乳白色の壁が目立ち、清潔感と安心感をもたらす。
 これから長く過ごすであろう空間なのだから、そういった視覚的配慮も欠かさない。
 もちろんこれは古代人からの配慮ではあるのだが。

 通路を僅かに歩いてすぐ、彼等の前に階段が姿を現す。
 螺旋を描いて階下へ続く緩い傾斜の階段だ。
 人が三人程並んで立てるくらいの幅もあり、まるでホテルの階段のよう。
 床も柔らかな感触のマットが敷かれ、その雰囲気を助長する。

 勇達が階下へと降りると……すぐに見えたのは、広々とした空間だった。

 円形を象った空間の外側には幾つも空色が覗き、そこが窓である事を示す。
 部屋の中央には、円を象る柵に囲われた場所が。
 そのすぐ周りの床には柵に沿う様にして円形の紋様が描かれている。
 二十人前後入れそうな大きさを持つ柵のサークルの中には、管制室にもあったコンソールが一つ立っていた。
 
「これに乗って地上に降りれるッス」

「これに……乗る……?」

 勇達が疑問を浮かべる中……カプロが一人、柵の円の中へと足を踏み入れる。
 勇達もまた彼に誘われるがまま足を踏み入れるが、何が起こるかわかる訳も無く……ただしきりと部屋の周囲を眺めていた。

「そんじゃ降りるッスよ」

 その一言と同時にカプロがコンソールへと手を添える。



 途端、勇達の体が僅かに揺れた。



 突如、床が「ガコン」という音ともに沈んだのだ。
 慌てる声が上がる中、どんどんと勇達の体が床ごと沈んでいく。

 そして遂に……彼等の前に驚きの光景が広がった。



 そこは東京の空。
 遥か先に見えるのはビル群。
 見渡せば、地上には密集するかの様な民家やビルが立ち並んでいるのが見える。

「これは……!?」

 そう、床が単体で浮き、彼等を乗せながらゆっくりと降下しているのである。

 高高度にも関わらず、彼等には突風の一つも感じない。
 それはまるで、未だ彼等が艦内に居るのではないかと思わせるかの様に。

 それは床から放出されている気圧フィールドのお陰。
 よく見れば淡い緑の光が彼等の周囲を覆っており、外からの風や気圧を遮断しているのだろう。
 茶奈がよく使うものと同じとあって、それに気付くと不思議と安心感を呼び込んでいた。

 見上げれば自分達が乗る床と同じ大きさの穴が開いている底部が見える。
 そして見渡せば、直下からのアルクトゥーンの姿が手に取る様にハッキリと覗き見えた。

「凄い……これが私達の乗る船なんですね……」

 徐々に降下し、距離を離せば離す程、外観が視野に納まっていく。 
 長く降り続けているにも関わらず納まり切れずにいるその巨体が、改めて自分達の乗る旗艦の大きさを認識させていた。


 


 上空から皿状の何かがゆっくり降りて来ると、さしもの福留も思わず目を見張らせた。
 恐らく彼自身も存在だけを聞き、必要以上の情報は得ていなかったのだろう。
 本部屋上へ向けて降下してくるその物体を避ける様に福留が下がる中……とうとう着地を果たす。

 その上に乗っていた勇達の姿を晒しながら。

「作戦完了しましたよ、福留さん」

「はは、さすがですね……皆さんお疲れ様でした」

 途端、待ちわびていたイシュライト達が駆け寄り、勇達の帰還を祝福する。
 作戦の成功と、久しぶりのカプロの再会を果たし……彼等はようやく日本へと舞い戻ったのだった。


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