時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第三十節「誓いの門出 龍よ舞い上がれ 歌姫を胸に抱きて」

~突風 舞い上がる機械龍~

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 機械龍の誕生は内部に居た勇達に衝撃を与えた。
 その様子が管制室内部のモニターを通して映し出されていたのだ。
 外壁が剥がれた辺りから映し出され、外装をありありと見せつけながら変形していく様。
 胴体部からの映像であろうその光景は、外から見たものとはまた一段と異なる様子を見せていた。

「なんてこった……マジかよ……」

 創作物語好きの心輝ですら驚き、それ以上の言葉が出ない。
 勇達ですら、目の前で起きている光景がただただ信じられなくて。

 変形が終わったと同時に……周囲だけを映していた管制室の壁に、今度は頭部カメラから映し出された映像が大きなリフジェクターを備える壁へと転写された。
 まるで管制室そのものが浮いているかの様に……周囲の壁がそのままそっくり外の景色へと映り変わったのである。
 
「うおおっ!?」

 突然の事で勇達も驚きを隠せない。
 何せ床が突然空になったのだ、焦りもするだろう。

 しかしカプロが足で床をツンツンと突いてみると、煙の様に景色が崩れて床の紋様へと変わる。
 そこにまだ床があると示すと、カプロは「シシシ」と笑う様を見せていた。

「リフジェクターの機能を使った全天位モニターッスよ。 最初は怖いッスけど、すぐ馴れるッス。 液晶ディスプレイを設置したのは、ここがまだ部屋の中にあるって事を物理的に示す為ッスよぉ」

 以前はコンソールと壁だけだったのだとカプロは言う。
 そんな時に外の景色と同化させると、コンソール以外が変わるので素っ気ないし怖いだけだという事で……彼はこうやって内装を自分達向けに改造したのだそうだ。
 それと同時に内部を機械的に知る事が出来れば色々と状況も掴み易いという事もあって、改造する事に決めたのだとか。

「ボクもう全然ついてけない……」

 驚きの連続でほとほと疲れ果てたナターシャが遂にギブアップ宣言。
 頭をガクリと落とし、大きな溜息が溢れ出す。
 そんな彼女を前に、カプロは満足気にいつもの笑いを小さく上げるのだった。

「ナッチーが付いてこれたらそれこそ驚きッスよ、うぴぴ」

 してやったりと憎まれ口を叩くカプロに、勇達からの呆れの視線が刺さる。
 しかしカプロはそんな事になど目も暮れず、再びコンソールへと相対した。

「ま、正直言えばボクもこれを知った時、興奮で一日寝れなかったッスよ……喜びの余りね」

 こういう秘密が好きそうな彼らしい反応だろう。
 簡単に言えば、空島は彼にとって超巨大な玩具箱の様な物だ。
 こうやって秘密を解き放つという事……その反応を、彼は今の今までずっと楽しみにして居たのだろう。

 その証拠に、今なおその口元は緩んだままだ。

「なぁ……所で、この乗り物ってなんて呼称したらいいんだ?」

 そんな時、一つの質問がカプロの耳に届く。
 茶奈達も勇の一言を前に「ハッ」として気付き、再びカプロへと視線を移した。
 皆の期待が集まる中……カプロは振り返る事無く、椅子の裏に居座ったまま。

 当の本人はといえば……「うーん」と声を上げ、天井を見上げていた。

「ま、ぶっちゃけて言うと考えてなかったッスが……考えればすぐ思い付くもんッスね」

 その僅かな間で候補が上がったのだろう。
 本来ならそういったものは仲間と打ち合わせて決めるものなのだろうが……勇の心は既に決まっていた。

 空島はカプロの手によって再誕したのだから……彼が名前を付けるべきなのだ、と。

 その心を知ってか知らずか……カプロは「ウンウン」と頷くと、そっと椅子ごと振り向き、勇達と顔を合わせる。
 その時見せた彼の嫌気の無い嬉しそうな顔が、勇達から口を挟む余地すらをも拭い去っていた。



「遥か昔から、この島は【アルクトゥーンの空島】って呼ばれ続けていたッス。 だからその想い、願いを込めて……今日からこの艦を、【機動旗艦きどうきかんアルクトゥーン】と呼ぶ事にするッスよ」



 かつて【アルクルフェンの箱】として建造されたこの島は長い年月を経て忘れ去られ、伝説としてその名前を大きく変えた。
 【アルクトゥーンの空島】と呼ばれる様になり、今も『あちら側』で僅かに残り続けている。

 それは多くの人の希望を集め、形を変えながらも残って来た……名残とも言うべき名。

 その意思を汲み、その名を添える。
 これ程にロマンに溢れた命名は無いだろう。

 そして機動旗艦……それが空島に続くこの乗り物の形容詞。

 その二つの名を連ね、出来上がった【機動旗艦アルクトゥーン】。

 フララジカを阻止する為に古代人が建造したこの艦。
 人々の心を守る為に世界を救おうとしている勇達が乗る事こそが最も相応しいと言えよう。
 


「んなら機動艦の方がいいんじゃねぇか? その方がカッコイイじゃんか」

 そこで空かさずツッコミの声が上がると……たちまち勇達の視線が心輝へと向けられる。
 雰囲気ぶち壊しとも言える一言に、彼等の視線はどこか厳しめだ。

「残念ながらシン……この艦自体に戦闘能力は無いんスよ。 だから戦えないんで戦艦は相応しくねぇッス」

「なにぃ……!? このノリだからいっそビームとかミサイルとかぶっぱなせるのかと思ったのによぉ……」

「ビームブッパするんだったら茶奈さんに撃ってもらった方が何倍も強いッス」

 言い得て妙だが……確かにその通りだろう。
 茶奈だけでなく、勇達が既に人知を超えた力を有している。
 彼等が戦うだけで十分な戦力と成りえるのだ。
 そしてこの艦には民間人も乗る……不要な戦闘は避けねばならない。
 それ故に、追加の戦闘兵器搭載は不要と判断したのだろう。

 もしかしたら、古代人もそういう意図で内蔵兵器を搭載しなかったのかもしれない。

 心輝が論破され、頭を抱える中……未だ高揚の取れない勇達へとカプロの視線が移る。

「とりあえず、出発する前にこの艦の機能をざっくり説明しとくッス」

 何を思ったのか、カプロが再びコンソールへと振り返って操作を始める。
 するとコンソールの上、カプロの頭上に外とは別の映像が映し出された。

 そこに映るのは、艦の形を模した簡易的な平面図だった。

「ボクらが居るのは管制室、艦のコントロールを行う場所ッス。 さっき登って来たのは首に当たる部分。 勇さん達の部屋は肩に当たる部分ッスね。 居住区はお腹の所になるッス」

 勇達が通って来たであろうルートが光り、示される。
 簡易的なのがわかりやすいのだろう、ナターシャも頷く様子を見せていた。

「艦後方、下腹部に当たる部分にはカタパルトがあって、そこから茶奈さん達が射出可能になってるッス。 ちなみにこれは首元と背中にもあるんで、自由な所から出られるッスよ。 ちなみに各所に隔壁もあるんで、人の出入りは比較的どこからでも出来る様になってるッス」

 彼の言う隔壁とは言うなれば密閉可能な扉の事だ。
 空を飛ぶ乗り物なのだから、気圧差を考慮してこういった隔壁は必要となる。
 当然、一般的にな航空機にも付いている……現代人がよく見る入口はその類である。
 
「そして驚くのはこれからッス……この艦は御存じの通り命力によって動いてるッス。 全てが命力による自動制御、航行補助、気圧管理もろもろで成り立っているんスね。 大体十人程居れば移動だけなら可能なくらいのエコなシステムッス」

 空島であった時からこの艦はずっと命力で動き続けていたのは周知の事実だ。
 古代人がその身を挺して保存した命力で漂い続け、今まで動き続けて来たのだ。

 それはこの艦で生活を行う事を前提として建造された事の証明でもある。

「ちなみに今んところエネルギーはフルチャージ済みで、この状態を維持出来るなら外装を覆う命力フィールドで大抵の攻撃は無効化出来るッス。 多分現代兵器程度なら何てこと無いんじゃねッスかねー」

 攻撃能力は無いが、防御能力はピカイチという訳だ。
 この島に納められていた魔剣兵器【ウカンデス】もバリアの様な物を展開していた辺り、その技術を使用しているのだろう。

 だとすれば、当時の瀬玲の光の槍をものともしない程の防御性能という事になる。
 それを考えれば、相当の力を持っていると言っても過言ではないのかもしれない。

「特筆すべき点はこれッス……この艦の至る場所には重力制御が敷かれてるッス。 つまりどういう事かというと、この艦が例え傾こうがひっくり返ろうが逆立ちしようが……中の人や物には何の影響も無く、平時と変わらない状態になるっつうワケッス」

「じゃあ振動は……?」

「全部命力フィールドによるショックアブソーブで吸収されて到達しないッス。 多分中からじゃ戦い起きても気付かないんじゃねッスかね」

 もはや勇達の胸中にあるのは驚きよりも感心の方が強い。
 オーバーテクノロジーの塊……そう形容せずには居られないのだから。

 重力制御や防御フィールド……もはやこれはSFの領域だ。
 漫画やアニメの中にしかない非現実の代物……そう思っていたから。

 しかしこうして彼等の前に実物がある。
 それを感心せずして何を想うのか。

「オマケにこの艦の航行速度は相当なモンッスよ。 スペック上音速は軽く超えられるッス。 茶奈さんには追い付けねぇッスが、現行の戦闘機にも負けない速度で飛べるハズッスよ」

「は!? こんなデカいのに!?」

 そう至るに結論付けたのは、単に先程言った命力フィールドの賜物だろう。
 衝撃吸収可能なフィールド……それはつまり、空力の原理を無視する事が出来るという事だ。
 それは勇の流星滑空とも似た特性があると考えられる。
 つまり、フィールド自身に風を送り出す機構があり、空気摩擦や抵抗を殺す事が出来るという理論だ。
 それがある事で、空力に限らず地球上に存在する物理抵抗を無視する事が可能だという訳である。

 茶奈が「すごーい」と可愛い拍手を贈る中、更にカプロがヒートアップする。

「空力を受けられないんで揚力に期待は出来ねッスが、この艦そのものに命力ジェネレーターによるブースター機構があるんで、自力で推進力を作れるってワケっスね。 ついでに言うと、艦そのものに重力制御が働いているんで浮く事自体は何の問題も無いッス」

 それが空島が浮いていた正体なのだろう。
 そうも考えてみれば、ここまでに彼の口から訊かれた質問もここから導く事が出来る。

 例えば、周囲を覆う様に造られた通路の意味。

 これは簡単だ。
 宙に浮く様に造られた艦を覆う為に周囲からアクセスし、外装及びカモフラージュ岩壁を構築する為だろう。
 そうすれば螺旋状である理由も頷ける。

 浮いているのも、その方が何かと作業しやすかったのだろう。
 重い物を運びながらやるよりは断然楽なのだから。

「きっとその重力制御のせいで周辺に埃が集まって、長い年月で固まって石になったんス。 だからあんなに大きくなったと思えば不思議でも無いッスねぇ」

 最初は艦を覆う外壁だけだったが、悠久の時を経て島となったという訳だ。
 もしそれも含めてのカモフラージュなのだとしたら、古代人の知恵は相当なものと言える。

「ま、そんなトコっすね。 本当は日本海域に到達したら披露するつもりだったんスけど、勇さん達がここに来た以上勿体ぶる必要も無かったんで実行に移したワケッス」

「なるほど……スケールが大き過ぎて俺もちょっと付いていけてないけど、よくまぁここまでやってくれたよ。 凄いなカプロ、見直したよ……」

「うぴぴ……勇さんに褒められるとやっぱなんか嬉しいッスね」

 それは彼が真っ直ぐだから。
 素直な心がそのまま伝わると、彼等の様に命力を備えた魔者には堪らなく様だ。

「さぁて、話す事も話したし、それじゃ出発するとするッスかねぇ!!」

 カプロがコンソールを通して艦内の人員へ連絡を入れる。
 「目的地、日本……到達時刻、」……それが彼等に伝えられた内容であった。



 こうして機動旗艦アルクトゥーンが突風を伴って空を舞う。

 もはや進路を妨ぐ物は何も無い。
 その進むべき道のりは……彼等の思うがままに広がっているのだから。



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