時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
上 下
249 / 1,197
第九節「人が結ぶ世界 白下の誓い 闇に消えぬ」

~これが世界の進むべき道 議~

しおりを挟む
 勇達が授業を受けている頃―――東京、某議場。
 そこには多くの者達が多重円を描く様に並んだ座席に座り、耳を傾ける姿があった。
 その中には、あのミシェルの姿も。

 そしてその中央で彼等に話題を振り撒いていたのが、あの鷹峰。

「―――以上が、世界で今起きている変容事件の大まかな状況です」

 ホスト国である日本の代表として、鷹峰総理大臣自らが議場に立っていたのだ。
 しかしてその顔は先日と打って変わり、真剣そのもので。
 総理大臣の名に恥じない威厳ある姿を見せている。

 この国際会議は表向きこそ只の首脳会談とされているが、事実は少し違う。
 変容事件に関する取り決めを変える為の、意志共有会議なのである。

 故に鷹峰が語っているのは変容事件の全て。
 今は国内外で起きている事件内容の情報共有、といった所だ。
 その様な場で緩くある訳にはいかない。

 その情報量は膨大で、口で語るのも一苦労なほど。
 だからか、各国代表の下に添えられた紙資料はいずれも尋常では無い程に厚い。
 PC閲覧用の電子データにしても相当の容量となっている。

 それのみならず、鷹峰の背後に設置された巨大画面にもそれらの情報が表示されている。
 少しでも意思疎通を円滑にしようとしている為だろう。

「次に、我が国がその変容事件発生後二ヶ月間に収集した情報を開示致していきます。 まずは転移によって現れた『魔者』という異種生物に関する情報を」

 すると、巨大画面に『魔者』、『Beast man』等といった各国の呼び名の文字が浮かぶ。
 それも一部資料から引用した写真もが添えられて。

 その途端、周囲からザワザワとした雑音が持ち上がる事に。
 やはりどこの国も彼等魔者の異様な姿に嫌悪を抱いているのだろう。

「現在確認されているだけでも、日本国内において〝一〇〟の変容地区および魔者の存在が確認されております。 彼等は知能があり、それぞれが別の種族、別の個体名を有しておりました。 具体例を挙げるならば『ダッゾ』、『ウィガテ』、『ザサブ』、『オンズ』といった名称です」

 人は異質を嫌う。
 その性質は政治家である彼等とて変わらない。
 それが同じ人間ならまだしも、全く姿形の異なる魔者となれば尚更だ。
 彼等にとっては野獣の様な存在とでも捉えられているのだろう。

「ですが、その内の反調和的な集団は現在、もう存在していません。 魔者と同じ世界からやってきた協力者、『魔剣使い』と呼称する者達に討伐されたからです!」

「おお!?」

「なんという……」

 その間も無く、巨大画面が切り替わり、今度は『魔剣使い』、『Sword man』といった文字が。

 この情報開示を前に驚く者も少なくは無い。
 そもそも魔者を退けた実績を持つ国自体が少ないのだ。
 いずれの国も未だ魔者との衝突で混乱している最中なのだから。

 日本が幸運過ぎただけだ。
 魔剣使いをここまで有している国など、他にあるかどうか。

「その協力者を、我々は幸運にも〝四名〟得る事に成功いたしました」

「四人? たったの……?」

「その通り、たったの四名です。 ですが彼等を普通の人間として数えてはいけません。 彼等一人一人が『魔者』に対してのみに特化した軍隊一個師団級、またはそれ以上の力を有していると言っても過言ではないのですから」

「「「おおっ!?」」」

 もちろん、各国陣営の中には冷静に聴き耳を立てる者も居る。
 恐らく、既に事情を知っているからだろう。

 もしくは、彼等の国もまた魔剣使いを有しているか。

 ならばこうして押し黙るのも当然だ。
 魔剣使いの力は言われた通り、たった今世界が渇望する力で。

 それと同時に―――大きな軍事力とも成り得るから。

 だからこそ下手に公開すれば、他国との軋轢さえ生みかねない。
 政治の手段カードとしては実に危険な存在なのだ。 
 日本の様に不戦を掲げている国だからこそ開示出来るのだと言えよう。

「故に、先に述べた四勢力を討伐するに至れた、という訳なのです」

「では、これから残りの勢力の掃討を行うと?」

 しかし事実を知らなかった国にとっては違う。
 彼等にとっての魔剣使いとは突然現れた、希望だ。
 ならこうしてつい質問してしまう程に興奮もするだろう。

 ただ鷹峰はその質問に、首を横で振って応えていたが。

「その可能性が無いとは言い切れません。 ですが、敵意を持った魔者でも我々との交渉を受けて戦うに至らなかった勢力が存在します。 彼等に関しては現状維持が必要と考えています。 何事も問答無用に討伐では、我々の方が野蛮だと言われかねませんから」

 全て戦って倒してしまえば、確かに万事解決だ。
 けれど魔者も知能があり、人間と大して変わらない。
 そんな者達を一方的に殺し尽くすのは、正史に刻まれた非道行為と同じになってしまう。
 恐らく、類を見ない大虐殺となるだろう。

 それだけはやってはいけない。
 少なくとも、倫理を重んじる現代人ならば。

 故に代表者達は皆、静かに頷きを見せる。
 彼等も興奮していようと、やはり賢人である事に変わりは無いのだから。

 だがその間も無く、そんな賢人達が更なる驚きを見せる事に。
 それも、場に居る多くの者達が。
 先進国であろうとなかろうと拘らず。

「しかし、何事も例外とはあるものでして。 実は彼等魔者の中には、人間への敵意を持たぬ友好な種族も存在するのです。 昔の人間と同じ様に、自然と共に生き、戦いとは無縁のまま過ごす温和な者達が。 我々はそんな彼等の集落を『隠れ里』と呼称しております」

 こればかりは驚かずを得なかったのだろう。

 人間が転移して来た例もあるからこそ、訪れた全てが敵とは限らない。
 でもまさか友好的な魔者が存在するなどとは。

「彼等は魔法の様な壁の中に隠れ、外界との関係を断って生活していたのだそうです。 だから人間とも他の魔者とも関係を持たず、敵意も無かったと。 最初は驚かれましたが、今ではすっかりと打ち解けました。 そう、我々は彼等と友好関係を結べたのです。 これはつまり、魔者が知的生命体であり、交渉の余地がある存在としての証拠が確立されたと言っても相違ありません!」

 そしてその友好さのわかる画像が、遂に画面へと表示される。
 そう、勇達とアルライ族の交流する写真や動画が一挙に流れたのだ。
 各国人の下に用意されたディスプレイにも同様に。

 まるでホームビデオの様に温和で、でも映る者達がどう見ても人ではなくて。
 けれど、その中で笑い合う勇達と魔者達の姿は本当に楽しそう。
 文化交流会の様子から、一緒に遊んだりご飯を食べ合う姿も何もかも。
 どれもが微笑ましくて、心温かい。

 動画を観た各国人達も、これには微笑まずに居られない。
 中には、アルライの子供達の愛くるしい姿に喜びを見せる者達だって。

 賢人であろうとも人間だ。
 動物らしい姿の子供達を前にすれば、こうして頬を緩ませる事だってあるだろう。
 つまりこうして気をやれるという事が、友好を結べる証拠となる。
 ならば、敵意を持った魔者にも同様の事が出来るかも知れない。

 故に、決して戦いだけが解決策であるとは限らない、という訳なのである。

「とはいえ、今現在は友好などと言っていられる状況では無いでしょう。 ですから、そこで我々日本国は本会議を機に一つの提案を皆様へ提示しようと思います。 魔者の存在を公表すると決めた今こそ、その対策と友好が叶う手段を! そして民衆の混乱を最小限に留める為にも、是非とも聞いて頂きたい!!」

 戦いを望まないからこそ、戦いだけで全てを終わらさない。
 この世界に起きた未曽有の事件を、ただマイナスという形で終わらせる訳にはいかない。
 その選択肢、可能性を手に入れたからこそ。

 鷹峰の声が今、熱を帯びる。
 各国人達がその眼その耳を凝らして刮目する。

 世界の悲劇をプラスへと導く為に。
 急激な変化を迎えた世界を在るべき形に進ませる為に。
 


「我が国日本は今ここに宣言します! 諸問題を解決したのち、魔剣使いを各国へと派遣する事を! 各々の魔者問題の解決する為の団体、【対魔者特殊戦闘部隊ABSTF】の設立を!!」



 その期待を寄せるものこそが【対魔者特殊戦闘部隊】。
 通称、【魔特隊】である。

「その主目的は、魔者との交渉。 戦う必要が無い事を示し、融和を促すという役目です。 もしそれでも相手の敵対心が取れない場合は討伐も視野に入れております。 魔者達の生殺与奪を担うという厳しい役目ですが、彼等ならきっと良き方向で成し遂げてくれるでしょう」

「「「おおぉ!!」」」

 この大々的な発表を前にして、全ての代表者達が興奮を露わに。
 今の発表がそれだけ衝撃的センセーショナルだったからこそ。
 中には席立ちスタンドアップして拍手する者もおり、その期待の大きさはもはや計り知れない。

 大画面にも既に変化が訪れている。
 『対魔者特殊戦闘部隊』 、『Anti Beast Special Task Force』 という文字が表示されていて。
 中央にはトレードマークまでもが刻まれており、その本気さを物語るかのよう。

 しかし鷹峰の仕込みもこれだけでは済まされない。

「この『対魔者特殊戦闘部隊』の概要ですが―――まず、我々日本国が受け取るペイ報酬は有りません。 つまり部隊派遣による契約等に報酬は発生しない事となります」
「「「無償!?」」」
「気は確かか!?」

 そう、日本は―――鷹峰は【魔特隊】を私物化するつもりなど無い。
 お金稼ぎの道具にするつもりなど毛頭無いと言うのだ。

 本来なら、どんな機会もビジネスチャンスとするのが世界の常識。
 ただでさえ世界問題となのだから、もし有効に立ち回ればたちまち大儲け出来る事だろう。

 でも鷹峰は敢えてその機会を棄てた。
 目的はあくまでも世界平和と安定の為だからこそ。

 その為に、魔剣使いという個人を目先の国益で縛る訳にはいかないのだと。

「その意図としましては、『魔剣使い』と呼ばれる協力者を政府所属ではなく個人として扱う為です。 彼等は非常に強力な力を持っており、もし国そのものに所属すれば軍事力と成り得るでしょう。 ですが彼等は兵器ではありません。 そして今は有事ですが戦争ではありません。 ならば彼等にも当然、生活を送る権利があります。 我々はそれを守りたい」

「つまり、魔剣使いを日本固有の戦力にするつもりは無いと?」

「その通りです。 よって支払われるべきペイはきっと、彼等の口座へと言い値で直接支払われる事になるでしょう。 『よく頑張ったね、お駄賃をあげよう』、と。 ―――あ、でも移動などにより我が国に費用が発生した場合は別ですがね。 せめてファーストクラス席への加算金は支払って頂きたい所です。 エコノミークラスはいささか窮屈かもしれませんからね」

 つまり、鷹峰は今の勇の様な状況を維持させるつもりなのだろう。
 個人の生活ありきで、戦いが〝次いで〟という状況を。
 それは魔剣使いが精神面で強さを左右される存在だから。
 日常生活という精神安定メンタルヘルスを図る事で、効果も最大限に発揮出来るだろうと。

 その例えを航空座席で示したのは存分に受けた様だ。
 たちまち傍聴席からは笑い声が飛び交う事に。
 やはり彼等も空の便をよく使うから、座席の大切さが身に染みているのだろう。 

「意図はまだあります。 彼等の存在はいわば極秘。 秘匿され保護されるべき立場と言えるでしょう。 もし世間に存在が公表されてしまえば、居場所が無くなる可能性が大いに有り得るからです」

「つまり、彼等のプライベートを派遣元が保護するという事ですね」

「はい、その通りです。 また当地の状況説明等も現地の責任で行って頂きます。 日本はあくまで仲介・後ろ盾に過ぎません。 実際は斡旋国と魔剣使いとの直接契約となるでしょう。 そうする事で各国に義務が生じますから。 協力相手の保護という義務が。 それが果たせないと判断した場合はまず援助対象とするつもりもありません。 国際社会は信用が基礎である事はご存知でしょう?」

 しかし、そんな座席代すら支払わない国を助ける義理など無い。
 人to人たすけあいの世界では当然の答えだ。
 助けて貰って義務を果たさないという事は、信用を蔑ろにするという事なのだから。
 世界はそんな不条理を許しはしない。

 故に、各所からは「なるほど」といった声がちらほらと上がる。
 魔剣使いを個人として扱う理由としては最もらしいと理解した様だ。

「彼等はあくまでも協力者であり、一市民でもあります。 故に国柄等に固執せず、〝自分達の為に力を貸してくれる勇者〟として扱って頂きたい。 そこに日本国に対する感謝は不要です。 これが我が国の抱く強い願いであります」

「そうであれば願っても無い事だ」

「感謝致します。  現在、我が国では【対魔者特殊戦闘部隊】の設立に向けて設備や環境の整備を行っており、早い段階では来年にもその活動を始めたいと考えております」

 もしかしたら、生ぬるいと思っている国があるかもしれない。
 兵器として扱い、使い潰すべきだと思う者も居るかもしれない。

 でも平和を望む世界ならばそれを許さないだろう
 魔剣使いもまた人間であると充分理解出来たから。
 そして、魔者が人間に近しい存在である事も同様に。

 煩わしくとも、それを基礎にしなければ文明の理は消える。
 決して切り分ける事の出来ない問題だからこそ。
 先ずは対話を、人として扱う事を。

 極論は、それが成せなくなった時に考えればいい。

「今すぐは無理という事か。 早く解決して頂きたい案件が複数あるのだが……」

「えぇ、存じております。 緊急度の高い案件に関しては出来うる限り早めに対処したいと。 その為の議論をここで交わしたいと思っております。 そうですね、後は例えば―――我が国と同様に魔剣使いを囲っているであろう御国に追従して頂く為にも」

 そう、魔剣使いを保有しているのは日本だけではないと鷹峰は気付いている。
 ただ公にしていないだけで。

 だからこそ促したのだ。
 日本の四人による解決ではなく、そんな各国の魔剣使いとの共同解決を。
 皆で力を合わせ、より早い問題終息を図る為に。

 その為にも鷹峰は続き熱意を迸らせる。
 多くの国々が耳を傾ける中、議論を重ねながら。

 どうやら、この熱意はしばらく冷めそうにない。
 未来へ向けた話し合いは、それだけ膨大な時間を欲している様だ。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

剣神と魔神の息子

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:1,809

テイマー勇者~強制ハーレム世界で、俺はとことん抵抗します~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:142

魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:428

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:1,324pt お気に入り:2,427

中途半端なソウルスティール受けたけど質問ある?

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:14

不死王はスローライフを希望します

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:13,596pt お気に入り:17,513

面倒くさがり屋の異世界転生

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:986pt お気に入り:5,163

処理中です...