色褪せない幸福を

三冬月マヨ

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【十】

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 何がいけないとか考えている場合ではありませんね。僕は大丈夫ですから、どうか旦那様が気に病む事だけはありませんようにと、きちんとお伝えしなければなりません。

『そうは申されましても、比較となる物が他には無く…ふが…』

 ですが、返そうとした言葉は鼻を摘まれた事で消えてしまいました。
 旦那様、手が早いですよ?
 と云いますか、鼻を摘まむ為に動いたせいで、熱の塊がずぬっと更に侵入して来ました。
 常ならば、排出の為に動いている器官です。それが、排出しようとした物が中へと戻される様な感覚は、中々に身震いがしますね。

『もう喋るな! いや、お前に色事のいろはなんぞ期待はしていないがっ!』

 くわっと目を見開いた旦那様のお言葉に、僕も軽く目を瞠ります。
 いろは。
 何という事でしょう。
 その様な物があるだなんて、僕は知りませんでした。倫太郎様にお願いしましたら、そちらの書物をお借り出来るのでしょうか?

『……………何か、変な事を考えてはいまいな?』

『ひひへ』

 おかしな事等考えてはいません。真っ当な事です。ですが、考え事をしていたのは間違い無いですね。それより、鼻を摘まむ手を離して戴けないでしょうか? これでは、まともにお話しする事が出来ません。

『あのたわけの事だろう?』

『はへ、ひょわきゃりひ!?』

 やはり、旦那様は心の読める物の怪なのでは!?

『………お前な…いや、お前だからな…』

 その間は何なのですか!?
 何故、溜め息を吐かれるのですか!?
 僕は、至って普通に真っ当な事を思っただけですよ!?

『こんな時に、他の男を…俺以外の事を考えるな』

『ひょ』

 それは心外です。
 旦那様が仰った事を加味して、その答えを導き出しそうな手掛かりを考えていただけです。
 僕は、何時だって旦那様が一番なのですよ?

『そう睨んでくれるな。…まあ、言いたい事は解るが、良い気はせん』

『ふぁっ!』

 漸く鼻から手が離れたと思いましたら、また更に中に…奥に、旦那様の熱が侵入して来ました。
 
『あ…あ…』

『今、お前の中に居るのは誰だ?』

 熱い息を吐きながら、絡めた指に力を籠めて旦那様が囁きます。
 手を布団に磔にされた様な気分です。いえ、これ以上力を籠められたら、布団を突き抜けて畳に刺さるかも知れません。そうしましたら、お布団に畳の修繕をしなければなりませんね。
 等と云う考えは、旦那様が腰を進めた事によって、考えた傍から消えて行きます。

『う、あ…だ、旦那様、です…』

 熱い熱い旦那様の手と、吐息と、胎内の熱で、せっかく鼻が自由になりましたのに、僕は息も絶え絶えになっています。また、酸素欠乏症になるかも知れません。

『…そうだ。俺の事だけを見ていろ。いいな?』

『ふぁ、い…』

 ゆっくりとですが、徐々に徐々にと奥へ奥へと旦那様が入って来ます。熱い熱い熱を伴って。
 身体の内側から焼かれている様で、熱くて熱くて、少しでも空気を取り込んで、胎内を冷ませましょうと開いた口はそのままで、息を吸っているのか、吐いているのかは解りません。
 この様なみっともない姿を見せられて、旦那様は幻滅したりはしないのでしょうか?
 開いた脚の片方は、何時の間にか旦那様の肩から落ちていて、これは、股関節がどうにかなってしまったのでしょうかと、不安にもなります。
 また、旦那様は全裸でありますが、僕は浴衣を開けたままなのです。熱くて熱くて、汗も掻いています。明日のお洗濯が大変そうです。
 それですのに。

『ふえっ!?』

『こちらでは、未だ苦しいだけだろう』

 旦那様は自由な方の手を使って、僕のおちんちんを弄りだしたのです。
 
『だっ、いけませんっ! あ、明日のお洗濯が…っ…!』

 汗だけならともかく、精液までも浴衣や敷布に付着したら大変です。

『……俺が洗う。ここに来て、何の心配をしているんだ、お前は』

 何処か呆れた様な旦那様の申し出に、僕は咄嗟に叫んでしまいました。

『旦那様には無理ですっ!!』

 だって、文明の利器を使用していますのに、旦那様は手拭いを穴だらけにした事があるではないですか。
 それが、着物や敷布になりましたら、目もあてられません。

『…雪緒ゆきお…』

 ひくひくと、旦那様のこめかみと頬が動いています。何故なのでしょう? 人間には、向き不向きがあります。僕は、正直にそれを口にしただけです。旦那様は、そろそろご自身が、あまり器用ではないと云う事実と向き合うべきなのだと思います。

『お前は、要らん事を考えるな! こちらに集中しろっ!!』

 それですのに、旦那様はおちんちんから手を離して、再び僕の鼻を摘まむではありませんか。

『ふが~っ!?』

 それだけではありません。
 馴染んだと、云うのでしょうか?
 きつかった筈の旦那様の熱の塊が、ゆるゆると抜けて行くかと思いましたら、ずんっと、また奥まで戻って来たのです。

『ふがっ!』

 苦しさはありますが、最初に侵入して来た時とは違います。肌がぞわりと粟立つ様な、この感じは何なのでしょう? 臓腑を引っ張られ、また押し込められる様な、この感覚に慄いているのでしょうか?

『ふがっ、ふがっ、ふがっ!!』

 ただでさえ熱くて息苦しいのに、鼻を摘まれていては呼吸もままなりません。お願いですから、手を離して下さいと、自由な方の手を使い、鼻を摘まむ旦那様の手をぺしぺしと叩きます。

『あ、すまん!』
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