寝癖と塩と金平糖

三冬月マヨ

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幼馴染み

【六】食後のデザート

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「ん、まあ、おいらも悪かった。けど、次から気をつけろ。それに、ゆかりんたいちょの前では絶対に言うなよ」

 と、三枚目のいちごクレープを食べながらベンチに座ったせいが言う。

「ボクも大人気無かったです。でも、次からは気を付けて下さい。雪兄様は、ボクが親父殿と星兄様の次に尊敬する人で憧れの人なのです」

 と、三枚目のチョコバナナクレープをちびちびと食べながら、星の隣に座る月兎つきとが頷く。二枚目までは星と同じ早さで食べて居たのに、何故かチョコのそれになった途端にゆっくりとなった。

 そんな二人に愛想笑いを浮かべながら、瑞樹みずき優士ゆうじはそれぞれ手にしたクレープをもそもそと食べて行く。そして何処か遠くを見ながら思うのだ。

 …どうしてこうなった…。

 と。

 ◇

 星と月兎が食事を終えて店から出て来た処を捕まえて、瑞樹と優士は『すみませんでした』と、頭を下げた。
 そんな二人に星と月兎は互いに顔を見合わせて、ぽっこりと出た腹を擦りながら言ったのだ。

『何が?』

 と。
 二人は全身から力が抜けて、床に膝を付いてがくりと肩を落とした。
 あの刺す様な冴え冴えとした冷たさの欠片すら、今の星には残って居なかった。
 そこで二人は、雪緒ゆきおの事を知りもしないで悪く言ってしまい申し訳無かったと、再び頭を下げてから、支障が無ければ雪緒の人となりを聞かせて欲しいと願い出たのだ。
 それに対する星の返事が。

『んじゃ、食後のデザートをご馳走になろっかな。腹八分目って言うけどデザートは別腹だもんな。な、つきと!』

『はい! ボク、クレープが好きです! お二人も食べて下さい!』

 ぽっこりと出た腹を擦りながらにっかりと笑う星と月兎に、瑞樹と優士の二人は遠い目をして『腹八分目』の意味を考えていた。

 ◇

「…で、ゆきおはぽかぽかでぽかぽかしてぽかぽかしたぽかぽかなんだ」

 誰か通訳して欲しい。
 星はぽかぽかしか言わない。
 ぽかぽかは誉め言葉なのだろうか?

「雪兄様はぽかぽかと強い人なのです。ぽかぽかでぽかぽかなのですけど、ぽかぽかとした強さを持つ人なのです。そんなぽかぽかしたぽかぽかにボクもなりたいのです」

 頼むから翻訳者を紹介して欲しい。
 月兎も主にぽかぽかしか言わない。
 ぽかぽかは誉め言葉で良いのだろうか?
 自分達が知らないだけで、ぽかぽかには様々な意味があるのだろうか?

「あ、星兄様、お口の周りにクリームが付いています」

「お? もったいない。何処だ?」

 今にも白目を剥きそうな二人の耳に、月兎の高い声が届く。見れば星の口の右端にクリームが少し付着していた。

「ああ、お手が汚れてしまいます」

 星がそれを指で拭おうとするよりも早く、月兎がベンチから立ち上がり、星の前で僅かに腰を屈めて顔を寄せてそのクリームを舐め取った。と同時に、何時の間にやら出来ていたクレープ屋の行列から黄色い悲鳴が上がった。

「…っ!?」

「なっ…!?」

 余りにも余りの事に、瑞樹と優士の二人がクレープを取り落としそうになり、慌てて握り直した。

「ん~。おいらのクリーム横取りすんなあ」

「ごめんなさい。ボク、お腹がきつくなったので、これ食べて欲しいです」

 唇を尖らせる星に、月兎は眉を下げて笑い、食べ掛けのクレープを星の手に握らせた。
 更に沸き起こる悲鳴、いや、歓声に瑞樹と優士の二人はもうこの場から逃げたくなったが、クレープを手にしたまま移動するのも躊躇われたので、やたらと甘いクレープをもそもそと食べたのだった。
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