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幼馴染み
【五】楽しい食事風景
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「…あ…。何か良く解んないけど、謝らないと…っ…!」
星達が去った後も、暫し呆然と立ち尽くしていた二人だったが、先に動いたのは瑞樹だった。
「…ああ。とにかく、このまま休みを終えるのは拙いな」
その言葉に優士も頷く。星とは同じ職場なのだ。星は若い二人をそれとなく気に掛けてくれていて、良く絡んでくれるし、他の歳の離れた隊員との橋渡し的存在でもあるのだ。まあ、天野も世話を焼いてくれるのだが、天野よりは星の方が二人には有り難かった。
それより何より、やはり、二人の憧れの人でもあり、恩人なのだ。何故、星が、いや月兎もだが、あそこまで怒りを露わにしたのかは二人には解らない。解らないが、間違いなく星達の逆鱗に触れてしまったのだ。同じ失敗を繰り返さない為にも謝り、理由を知らなければ、と思った。飯と言っていたから、食事処へ行けば二人は居る筈だ。そう思った二人は"案内所"の札が置いてある大きな机の傍に立つ女性の元へと急いだ。
◇
「雪兄様は強い方なのに、酷いです」
フォークにぐるぐるとミートソースのスパゲティを巻き付けながら、月兎が言う。
「ん。ゆきおはめいっぱい苦労して来たんだぞ」
これまた梅と大葉のスパゲティをフォークにぐるぐると巻き付けながら、星が頷いた。
雪緒は幼い頃に両親を亡くし、親族の家を転々としていた。ただし、何処からも歓迎される事は無く、下働きの様な扱いを受けていた。着る物も食事も寝床も満足に与えられずに、与えられる物とするのならば、理不尽な折檻だけだった。
そんな雪緒を救ったのが、高梨だったのだ。
何時の頃だったか、それを雪緒から聞かされた星はわんわん泣いた。目が腫れる程に泣いた。そんな星に雪緒は困った様な笑顔を浮かべながら言ったのだ。
『当時は、それが当たり前だと思っていましたので、辛いとは思わなかったのですよ』
と。
それを聞いた星は、畳に額を押し付けて更にわんわん泣いてしまった。
困り果てた雪緒が、星の養父である瑛光に電話をして、彼が迎えに来るまで、星は泣き続けた。
そして、その話を月兎にしたら、月兎もぎゃんぎゃん泣いてしまった。
それから、雪緒は月兎の憧れになった。
そんな過去を持ちながら、雪緒を纏う空気は柔らかく温かく穏やかで。そして、しなやかで強い。星が『きらきらでぽかぽか』だと、雪緒を評するのがストンと胸に落ちたのだ。雪緒の様に強くなりたいと、月兎は思ったのだった。ただ、どうすればそうなれるのか解らなかった月兎は、雪緒の所作を真似る事にしたのだ。まあ、食欲は真似出来なかったが。
とは云え、星も月兎もそれなりに過酷な生い立ちなのだが、自分達の事は見えないらしい。
そんな風に食事をする二人を、これまた二人の人物が店の入口から覗いて見ていた。
あの後、案内所に居た店員に食事処の場所を聞いたのだが、如何にもな愛想笑いで対応され、先の星との遣り取りを見られていて、暴力関係の人と思われているのだと二人は思い、居心地の悪い思いをしたのだ。まあ、あながち間違いでは無いだけに、何とも嫌な空気になってしまった。
「…なあ…あれって遺伝なのか…?」
「…俺に聞かないでくれ…」
瑞樹が隣に立つ優士に声を掛ければ、優士は眉間の皺を指で解しながら呻く様に言った。
二人が見詰める先に、星と月兎が居た。
だが、その空間は異様とも言えた。
四人掛けのテーブルを二つ並べてくっ付けて、八人がテーブルに付けられる様になって居るのだが、そこに座するのは、星と月兎の二人のみ。ただ、そこに置かれた料理の皿の数は八人前以上あったのだ。
「カツカレー大盛り三つとナポリタン大盛り三つとマルガリータピザ二枚、お待たせ致しました。ご注文は以上で宜しいでしょうか!?」
店員の悲鳴の様な声が店内に響いた。
まだ昼前で、しかも平日で店内は閑散としているから、そこまで大きな声を出さずとも良いのだが、店員は声をあげなければやっていられない、と言う様に声を張り上げた。
「ん。後な追加でな、醤油ラーメン特盛り三つと天ざる大盛り三つな!」
「あ、あと、鍋焼きうどん大盛りも二つお願いします!」
「かしこまりましたーっ!!」
店員が返事をして、厨房へと駆け込めば。
「誰か買い出し行ってこいっ!! 一人じゃ無理だ! 二人、いや、三人で!! あの二人に、また食材食い尽くされちまうっ!!」
と、野太い声が聞こえて来た。
瑞樹と優士は何故だかもたれて来た胃を擦りながら、店の入口から離れ、壁に背中を預けて星と月兎が食事を終えるのを待つ事にした。
今、あの場所へ行って食事の邪魔をしたら、殺されるかも知れない、そう思ったのだった。
星達が去った後も、暫し呆然と立ち尽くしていた二人だったが、先に動いたのは瑞樹だった。
「…ああ。とにかく、このまま休みを終えるのは拙いな」
その言葉に優士も頷く。星とは同じ職場なのだ。星は若い二人をそれとなく気に掛けてくれていて、良く絡んでくれるし、他の歳の離れた隊員との橋渡し的存在でもあるのだ。まあ、天野も世話を焼いてくれるのだが、天野よりは星の方が二人には有り難かった。
それより何より、やはり、二人の憧れの人でもあり、恩人なのだ。何故、星が、いや月兎もだが、あそこまで怒りを露わにしたのかは二人には解らない。解らないが、間違いなく星達の逆鱗に触れてしまったのだ。同じ失敗を繰り返さない為にも謝り、理由を知らなければ、と思った。飯と言っていたから、食事処へ行けば二人は居る筈だ。そう思った二人は"案内所"の札が置いてある大きな机の傍に立つ女性の元へと急いだ。
◇
「雪兄様は強い方なのに、酷いです」
フォークにぐるぐるとミートソースのスパゲティを巻き付けながら、月兎が言う。
「ん。ゆきおはめいっぱい苦労して来たんだぞ」
これまた梅と大葉のスパゲティをフォークにぐるぐると巻き付けながら、星が頷いた。
雪緒は幼い頃に両親を亡くし、親族の家を転々としていた。ただし、何処からも歓迎される事は無く、下働きの様な扱いを受けていた。着る物も食事も寝床も満足に与えられずに、与えられる物とするのならば、理不尽な折檻だけだった。
そんな雪緒を救ったのが、高梨だったのだ。
何時の頃だったか、それを雪緒から聞かされた星はわんわん泣いた。目が腫れる程に泣いた。そんな星に雪緒は困った様な笑顔を浮かべながら言ったのだ。
『当時は、それが当たり前だと思っていましたので、辛いとは思わなかったのですよ』
と。
それを聞いた星は、畳に額を押し付けて更にわんわん泣いてしまった。
困り果てた雪緒が、星の養父である瑛光に電話をして、彼が迎えに来るまで、星は泣き続けた。
そして、その話を月兎にしたら、月兎もぎゃんぎゃん泣いてしまった。
それから、雪緒は月兎の憧れになった。
そんな過去を持ちながら、雪緒を纏う空気は柔らかく温かく穏やかで。そして、しなやかで強い。星が『きらきらでぽかぽか』だと、雪緒を評するのがストンと胸に落ちたのだ。雪緒の様に強くなりたいと、月兎は思ったのだった。ただ、どうすればそうなれるのか解らなかった月兎は、雪緒の所作を真似る事にしたのだ。まあ、食欲は真似出来なかったが。
とは云え、星も月兎もそれなりに過酷な生い立ちなのだが、自分達の事は見えないらしい。
そんな風に食事をする二人を、これまた二人の人物が店の入口から覗いて見ていた。
あの後、案内所に居た店員に食事処の場所を聞いたのだが、如何にもな愛想笑いで対応され、先の星との遣り取りを見られていて、暴力関係の人と思われているのだと二人は思い、居心地の悪い思いをしたのだ。まあ、あながち間違いでは無いだけに、何とも嫌な空気になってしまった。
「…なあ…あれって遺伝なのか…?」
「…俺に聞かないでくれ…」
瑞樹が隣に立つ優士に声を掛ければ、優士は眉間の皺を指で解しながら呻く様に言った。
二人が見詰める先に、星と月兎が居た。
だが、その空間は異様とも言えた。
四人掛けのテーブルを二つ並べてくっ付けて、八人がテーブルに付けられる様になって居るのだが、そこに座するのは、星と月兎の二人のみ。ただ、そこに置かれた料理の皿の数は八人前以上あったのだ。
「カツカレー大盛り三つとナポリタン大盛り三つとマルガリータピザ二枚、お待たせ致しました。ご注文は以上で宜しいでしょうか!?」
店員の悲鳴の様な声が店内に響いた。
まだ昼前で、しかも平日で店内は閑散としているから、そこまで大きな声を出さずとも良いのだが、店員は声をあげなければやっていられない、と言う様に声を張り上げた。
「ん。後な追加でな、醤油ラーメン特盛り三つと天ざる大盛り三つな!」
「あ、あと、鍋焼きうどん大盛りも二つお願いします!」
「かしこまりましたーっ!!」
店員が返事をして、厨房へと駆け込めば。
「誰か買い出し行ってこいっ!! 一人じゃ無理だ! 二人、いや、三人で!! あの二人に、また食材食い尽くされちまうっ!!」
と、野太い声が聞こえて来た。
瑞樹と優士は何故だかもたれて来た胃を擦りながら、店の入口から離れ、壁に背中を預けて星と月兎が食事を終えるのを待つ事にした。
今、あの場所へ行って食事の邪魔をしたら、殺されるかも知れない、そう思ったのだった。
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