矢は的を射る

三冬月マヨ

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青い春の嵐

10.気になる事は調べましょう

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「恋人じゃなくても…」

 学校が終わって、晩飯も風呂も終わって、俺は寮の部屋でベッドに寝っ転がってスマホをいじっていた。
 先生は『恋人は居ない』って言ったけど『好きなヤツは居ない』って、言ってはなかった。
 クラスでアオッターやってるヤツらに、何の為にやってるのか聞いたら『気になるあの子の呟きを見る為』とか『このアニメ好きだから、原作者の嘆きとか制作の裏側とか』とか『ガムプラ!! 転売ヤー死ね!!』とか『ババギフ今度こそ当ててやる!!』とか『石の為!!』とか、何か訳が解らなくなったけど…。
 まあ、やる原動力は『好き』なんだろな。

「って"澄"いっぱい居すぎだろ…どれが先生が見てた澄なんだ…」

 スマホ画面にズラ~っと並ぶ検索結果に、俺は頭を抱えた。
 
「あんだけ熱心に見てたんだから、すげー好き…なんだろな…クソ…」

 スマホ取り上げた時は頭に血が昇ってたから、あの澄が何を呟いていたのか、どんなヤツなのかさっぱりだ。

「でも、名前からして女…だよな…」

 そうだよな。
 普通は女が好きだよな。
 
「…俺だって、女が好きだし…」

 …でも。

「…先生が好きなんだ…」

 結局、昼休み終わって謝ろうと思いつつも、もだもだして謝る事が出来ないで終わった。
 授業中、羽間が意味ありげに見て来て、ウザかったから中指立てたら、教科書読みながら、俺の席を通り抜けざまに足を踏んで来た。

 どっちがガキだ!!

 放課後に文句を言ってやろうとしたら、保健室に行きやがったから諦めた。

 オレ、モウ覗キ見シナイ。

「あ~あ…」

 ごろんと寝返りを打って、白い天井を見上げる。

「…先生が俺を好きになってくれたら良いのに」

 男だからとか、女だからとか、じゃなくて。

「俺を好きになって欲しい」

 矢田穂稀ほまれを。

「…どうしたら好きになって貰えるんだろ…」

 …まあ…身内認定されて、バカって言い逃げしてるようなヤツじゃ、好きになるも何もないよな…。
 家から、親から逃げて、学校に…先生に守られてる子供じゃ…。

 何だか白い天井が眩しくて、俺は目を閉じた。

 ◇

「バッカやろおおおおおおっ!!」

 で、今ココ。
 俺はまた、ダメージを喰らって、それを誤魔化す様に叫んで逃げた。

「せっかく先生が誘ってくれたのに、俺のバカーっ!!」

 で、半泣きになりながら保健室に逃げ込んだら、やっぱりまた羽間はざまが居るし。好きじゃないなら、何で一緒に居るんだよ、チクショー。

「だから、何でいちいちこっちに来るんだ」

 ベッドに座って叫ぶ俺を、回転椅子に座る羽間が冷たい目で睨む。

「まあまあ、可愛いじゃないですか。青春って感じで良いですね」

 松重先生は、また優しく笑いながらトポトポとお茶をいれてくれてる。

「あんたらは良いよな、何時でもズコバコ出来て」

 セ…フレとか大人の事情なんか知らねーけど、つい、そんな言葉が出てしまった。
 
「ああん? ガキが何言ってやがる。欲求不満か」

したら、羽間がゆらりと椅子から立ちあがって、俺の前まで歩いて来た。

「あだだだだだだだ! 暴力反対っ!!」

 ウメボシ痛い、マジ痛い、てか、何でこれウメボシって言うんだろ? じゃなくて、ゲンコツで挟まれてこめかみグリグリは、本当に痛い。

「…全く…」

「お"あ"っ"!?」

 ん?

「可愛いのは解りますけどねぇ…」

「ってめ…っ…!」

 な、何だ?
 松重先生が羽間の後ろに立っただけ、だよな…?
 何で、羽間の身体震えてんだ?
 まあ、ゲンコツ解かれたからラッキー?

「人の話はちゃんと聞いてあげましょう?」

「…こ、の…っ…」

 するっと、羽間の後ろから松重先生の手が伸びて来て、腹を触れば羽間がうめきながら前屈みになった。
 そしたらベッドに座る俺の肩に羽間の頭が乗って来た。

「うご…」

 重いし、痛い。
 何だ? 松重先生、何かしてるのか?
 てか、何で、羽間はこんな熱い息吐いてんだ?
 
「…って…何か…ヴヴヴ…って、低い音が…スマホのアラーム? マナーにしてんのか?」

「ええ、そうですよ」

 俺の疑問に、羽間の後ろからニコニコと、松重先生が顔を覗かせるのは良いんだけど…何だろ…何か…怖い笑いだな…?

「止めなくていいのか?」

 何でか知らないけど、じとっと手に汗かいて来たぞ…何だこれ…。

「どうしましょうか? ねえ?」

「…っ…!」

 いや? 何で羽間に聞くんだ? てか、何で羽間の耳に息吹き掛けるんだ? 羽間の顔赤いし、涙目になってるし。
 てか、これ、どんな状況なんだ?
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