矢は的を射る

三冬月マヨ

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青い春の嵐

07.人肌が恋しい季節ですね

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 …うん、これは覗きじゃない。

「っん! あ、あ、あぐっ!?」

「あ、結腸行ったかも?」

 俺は背中を向けているから、これは覗き見じゃなくて、覗き耳?
 
「…あー…空が青いなあ…」

 遠い目をして、俺はぼそっと呟いた。
 俺の後ろ…喫煙所…じゃないけど、そこは真夏みたいに熱気がムンムンしてるけどな…。
 …しっぽりぬっぽりって、こんな時に使うんだろうな…。

「ふふ…見られていると、興奮する、ね?」

「っそ、矢田! てめぇ、煙草やめ…っ…!!」

 止めたよ。
 止めましたよ。
 全部、お前にあげたじゃん。
 煙草止めたらここに来たら駄目、なんて話はしてないから、先生が変わった事を話したくて来たら…何でヤってんだよっ!?
 松重まつしげ先生が胡座をかいてさ! そこに、羽間はざまがいた! 乗ってた! 開けたシャツ一枚で!! 背中を松重先生に押し付けて、脚をおっぴろげて濡れたちんこ勃てて、乳首いじられてたっ!!
 いたいけな青少年に、なんてもん見せ付けんだよ!?
 こいつら、年中外でヤってんのかよ!?
 人間はいつでも発情期って言うけど、本当にその通りだな!?

 ◇

「…あ? 的場が…変わった理由…? 知るかよ…」

「斬って捨てないであげて下さいよ」

 一戦を終えて…つか、一戦なのかは知らないけど…服を着込んだ羽間と松重先生に、俺はここに来た理由を話した。三人仲良く円を描いて、地べたにべったりと座って。
 先生の様子がおかしいから、何か知ってたら教えてくれって言った。先生達の間で、先生はどんな風に見えているのか、とか。
 気だるそうに煙草を吸う羽間は、ズバッと俺の質問を捨てたけど、松重先生はフォローしてくれた。

「まあ、雰囲気は変わりましたよね…あれだけだらしなかっ…いえ、ズボラ…いえ、くたびれ…」

 …フォロー…してんのか、これ?

「…いや…正直に言っていいから…」

 片手で額を押さえて言う俺に、松重先生はにっこりと笑った。

「ああ、そうですか? 確かに、元が元なだけに、身嗜みを整えただけですが、随分と見られる様になりましたね。同じ年代として、恥ずかしかったんですよね。おや? 矢田君、地面に両手をついて、どうかしましたか?」

 こいつ、わざとか。わざとだな?
 お前、先生に何か恨みがあるのか?
 てか、さりげに同じ年代って爆弾ブッ込まなかったか?
 え? 見えねえ…妖怪か、こいつ…。

「…別に…悪い変化じゃあねぇだろ? 連れて歩いて恥ずかしくなくなったんだろ? なら、良かったじゃねぇか」

 ぷっはーと、煙を吐きながら言った羽間を俺は睨んで叫んだ。

「今までだって恥ずかしくねーよ! 髪ボサボサでも、髭の剃り残しがあっても、便所サンダルでも、靴下があべこべでも、ゴムが緩んでずり落ちてても、ズボンの裾がほつれてても、そんなの気にしねーよ!! どこでも連れて歩いて行けるよ!」

「いや、気にしろよ…」

 何で可哀想な子を見るみたいな目で、俺を見るんだよ!?
 味があっていいじゃねーかよ!!

「羽間先生の言う通りに悪い変化では無いですよね? 何が不満なんですか?」

「周りのヤツらが、先生の事を好きになる!! 俺よりずっと一緒にいたくせに、今頃良さに気付いている!! 外面で判断してムカつく!!」

 う~んと、首を傾げる松重先生に向かって拳を握って力説したら。

「ただの独り占めしたいガキか」

「うぐ…っ…!」

 って、羽間が呆れたように言って来た。

「まあまあ。素直で可愛いじゃないですか。拗らせるよりは良いでしょう?」

「…てめぇがそれ言うか…」

 ん? んん?
 にっこりだけど、何か意味有り気に笑う松重先生を、羽間がうんざりしたように見て、る?

「…今更だけどさ…二人って、好きで付き合ってんだよ、な?」

「ええ、そうですよ」

「違う」

 恐る恐る聞いた俺に、笑顔で答える松重先生と、吐き捨てるように言う羽間。何だ、この温度差。

 んんんんんんんんんんん?
 好きじゃねえのか?
 好きだからヤるんじゃないのか?
 好きでもないヤツと出来るものなのか? 男同士で?
 まさか、噂に聞くセ、セ、セ…フ、レ…とかってヤツなのか?
 マジか…大人ってこえぇ…。

「ああ、そうです」

 頭の上に大量にはてなマークを浮かべる俺に、松重先生がパンと両手を合わせて言う。

「これから寒くなって来ますから、放課後は保健室には来ないで下さいね」

「は…?」

「ごはっ!!」

 何だそれ? 別に保健室に用はないって、俺が言う前に羽間が思い切り咽た。

「……」

 無言で羽間を見れば、じとりと睨まれた。

 あ~…、うん…。
 …何となく…解りたくないけど、解ってしまった俺は虚ろな目で空を見上げた。

「…あー…空が青いなあ…」

 ちょっとオレンジがかかってるけど…まあ、いいか…。
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