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ギャル親父は壁になりたい
05.壁
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「うー…ん、あの年代はやはり難しいな…」
風呂上がりに銀麦を喉に流し込み、俺は青い鳥こと、アオッターの返信に精を出していた。俺に声を掛けてくれた人が、皆気さくな感じだったから、俺はそのまま『澄』として返事を書いた。
それを書きながら昼間の事を思う。
固まってしまった矢田だったが、何やらぼそぼそと呟くとベンチに座り直し、猛然とパンを食べ始めた。何か、やけ食いみたいな勢いだったから『落ち着いて食べろ。そんな勢いで食べたら味が解らないだろう。好きなんだろう? 総菜パン』と、言えば『…別に…好きじゃねーし…家じゃ食えなかったから…』と、ぼそぼそとした返事が返って来た。
あ。と俺は思った。地雷を踏んでしまったかも、と。
この学校は、特に名門と云う訳では無い。一学年に三クラスしかないしな。
それなのに、こんな山の中にある、街の喧騒から切り離された田舎の、不便と言っても差し支えない場所に来るのは…俺みたいに物好きも居るだろうが…大体が、家庭が…まあ、親から見放されたり、所謂毒親から逃げたい…そんな事情を抱えた者達だ。因みに、ここは男子校だが、姉妹校として女子校もある。
矢田の今の言葉から察するに、彼の親は所謂、毒、なんだろう。抑圧された食生活だったのか? それが爆発して、ここに来たのか…? その辺の詳しい事情は、俺達には知らされない。どうしても、同情や憐憫、そんな目で見てしまうからだ。そんな物を、ここに来る子達は求めてはいない。ただ、普通に学生生活を過ごしたいだけだ。周りと同じ様に。
『…そうか』と、頭を撫でれば『…子供じゃねーし…叔父と甥なら結婚出来るし…』と、ブツブツと言い出した。が、頭はそのまま俺の手の下だ。
『ん? 叔父と甥は三親等だから結婚は出来ないぞ? そもそも男同士…いや、今はパートナーシップ制度があるか』
「って言ったら"馬鹿っ"て怒って、食べ掛けで行ってしまったんだよなあ…」
片手で頭を掻いて、銀麦を再び流し込む。
「余計な事を言ってしまった…」
ずぅんと落ち込んでしまう。
俺は矢田の地雷を踏み、更に追い討ちを掛けてしまったのだろう。
彼はきっと、その複雑な家庭環境で、その叔父が救いだったのだろう。そうして、自然とその叔父に惹かれ、惚れた…のだろうな。俺に懐くのも、きっとそのせいなのだろう。
「…前世でも、何故か現役ヤンキーや元ヤンキーに懐かれたりしてたからな…そう云う方面だとは思わなかったなあ…叔父の影か…」
まあ、髪色と煙草だけでそう決めつけるのは危険だが。
「いや、煙草は止めた様だし、髪も地毛が見えていたな…う~ん…っと…」
そうだ。
こんな時のSNSなのじゃないか?
一人でああだこうだ考えていると、気が滅入る方向に行ってしまう。
言葉にして発信して消化しよう。
別に反応が無くても良い。
ただ、それで気分転換になれば良い。
明日、何事も無く矢田と話しが出来ればそれで良いんだ。
◇
「…何で、またこんなに通知があるんだ…」
スマホのアラームで目覚めた俺は、それを片手に頭を押さえていた。
「えぇと…『何、その禁断の愛!?』、『壁よ! 壁になるのよ!!』、『続報よろ!』、『澄さんって先生だったんですね! 叫びからは想像もつかないです!』、『そのネタ、使っても良いか?』…って、まだあるのか…皆、好きだな…流石腐女子…って、壁って何だ? 前世ではそんなのは無かった…よな? っと…」
これを全部見ていたら時間が溶けてしまう。先に朝ご飯を食べて、弁当を作って、身支度を整えて…。
「壁になりたい…成程…まあ、優しい気持ちで推しカプを見守る…そんな感じ、か? 奥が深いな…」
全ての支度を終えて、パソコンの画面を見て俺は腕を組んで唸った。
自分を感じさせず、決して邪魔等せず、ただただ無償の愛を推しに捧げる…。
「まるでアガペーだな…」
そうだな。
俺なんて…教師なんて、生徒が卒業すれば、そこから先の世界には必要無い。学校と云う、限られた世界だけの存在だ。その時だけの、季節の様に過ぎて行く存在だ。そんな俺が矢田の恋心に口を出すなんて事をしてはいけない。矢田の方から相談されれば話は変わるが…。
「うん。俺は壁になろう。壁になって、そっと見守ろう。ここに、BLカプに割り込む女子は滅ぶべし、とも書いてあるしな。まあ、俺は女子ではないが」
天井を見上げて腕を伸ばした後、パソコンの電源を落とし、出勤をすべく俺は立ちあがった。
風呂上がりに銀麦を喉に流し込み、俺は青い鳥こと、アオッターの返信に精を出していた。俺に声を掛けてくれた人が、皆気さくな感じだったから、俺はそのまま『澄』として返事を書いた。
それを書きながら昼間の事を思う。
固まってしまった矢田だったが、何やらぼそぼそと呟くとベンチに座り直し、猛然とパンを食べ始めた。何か、やけ食いみたいな勢いだったから『落ち着いて食べろ。そんな勢いで食べたら味が解らないだろう。好きなんだろう? 総菜パン』と、言えば『…別に…好きじゃねーし…家じゃ食えなかったから…』と、ぼそぼそとした返事が返って来た。
あ。と俺は思った。地雷を踏んでしまったかも、と。
この学校は、特に名門と云う訳では無い。一学年に三クラスしかないしな。
それなのに、こんな山の中にある、街の喧騒から切り離された田舎の、不便と言っても差し支えない場所に来るのは…俺みたいに物好きも居るだろうが…大体が、家庭が…まあ、親から見放されたり、所謂毒親から逃げたい…そんな事情を抱えた者達だ。因みに、ここは男子校だが、姉妹校として女子校もある。
矢田の今の言葉から察するに、彼の親は所謂、毒、なんだろう。抑圧された食生活だったのか? それが爆発して、ここに来たのか…? その辺の詳しい事情は、俺達には知らされない。どうしても、同情や憐憫、そんな目で見てしまうからだ。そんな物を、ここに来る子達は求めてはいない。ただ、普通に学生生活を過ごしたいだけだ。周りと同じ様に。
『…そうか』と、頭を撫でれば『…子供じゃねーし…叔父と甥なら結婚出来るし…』と、ブツブツと言い出した。が、頭はそのまま俺の手の下だ。
『ん? 叔父と甥は三親等だから結婚は出来ないぞ? そもそも男同士…いや、今はパートナーシップ制度があるか』
「って言ったら"馬鹿っ"て怒って、食べ掛けで行ってしまったんだよなあ…」
片手で頭を掻いて、銀麦を再び流し込む。
「余計な事を言ってしまった…」
ずぅんと落ち込んでしまう。
俺は矢田の地雷を踏み、更に追い討ちを掛けてしまったのだろう。
彼はきっと、その複雑な家庭環境で、その叔父が救いだったのだろう。そうして、自然とその叔父に惹かれ、惚れた…のだろうな。俺に懐くのも、きっとそのせいなのだろう。
「…前世でも、何故か現役ヤンキーや元ヤンキーに懐かれたりしてたからな…そう云う方面だとは思わなかったなあ…叔父の影か…」
まあ、髪色と煙草だけでそう決めつけるのは危険だが。
「いや、煙草は止めた様だし、髪も地毛が見えていたな…う~ん…っと…」
そうだ。
こんな時のSNSなのじゃないか?
一人でああだこうだ考えていると、気が滅入る方向に行ってしまう。
言葉にして発信して消化しよう。
別に反応が無くても良い。
ただ、それで気分転換になれば良い。
明日、何事も無く矢田と話しが出来ればそれで良いんだ。
◇
「…何で、またこんなに通知があるんだ…」
スマホのアラームで目覚めた俺は、それを片手に頭を押さえていた。
「えぇと…『何、その禁断の愛!?』、『壁よ! 壁になるのよ!!』、『続報よろ!』、『澄さんって先生だったんですね! 叫びからは想像もつかないです!』、『そのネタ、使っても良いか?』…って、まだあるのか…皆、好きだな…流石腐女子…って、壁って何だ? 前世ではそんなのは無かった…よな? っと…」
これを全部見ていたら時間が溶けてしまう。先に朝ご飯を食べて、弁当を作って、身支度を整えて…。
「壁になりたい…成程…まあ、優しい気持ちで推しカプを見守る…そんな感じ、か? 奥が深いな…」
全ての支度を終えて、パソコンの画面を見て俺は腕を組んで唸った。
自分を感じさせず、決して邪魔等せず、ただただ無償の愛を推しに捧げる…。
「まるでアガペーだな…」
そうだな。
俺なんて…教師なんて、生徒が卒業すれば、そこから先の世界には必要無い。学校と云う、限られた世界だけの存在だ。その時だけの、季節の様に過ぎて行く存在だ。そんな俺が矢田の恋心に口を出すなんて事をしてはいけない。矢田の方から相談されれば話は変わるが…。
「うん。俺は壁になろう。壁になって、そっと見守ろう。ここに、BLカプに割り込む女子は滅ぶべし、とも書いてあるしな。まあ、俺は女子ではないが」
天井を見上げて腕を伸ばした後、パソコンの電源を落とし、出勤をすべく俺は立ちあがった。
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