3 / 57
ギャル親父は壁になりたい
03.次男です
しおりを挟む
「あれ…?」
休みが明けて月曜日。何時ものベンチで、風がいい加減冷たくなったと思いながら昼を食べ終え、スマホを見たら、何だかエライ事になっていた。
「何だ? この人型アイコンにハートマークに矢印は?」
ほうじ茶が入っている水筒を横に置き、空いた右手でアイコンをタップすると、青い鳥が起動する。そこにあるアイコンは『バナナチーズ揚げ』前世の俺、澄を示す物だ。
「…は…?」
俺の目は、今、間違いなく点になった事だろう。それ程の衝撃だった。
起動された青い鳥のベルアイコンの処に、数字が表示されていた。その数36。
「な、何だこれ?」
これまでに見た事の無い現象に、俺は戸惑うしかない。
そのベルをタップすれば『通知』と書かれた画面に移動した。
「成程。お知らせって事か。えーと…"しまあつさんが〇件のツイをよっしゃしました"、"しまあつさんが〇件の発言を拡散しました"、"しまあつさんがあなたをフォローしました"、"田中征爾さんが…"って、田中!?」
田中征爾は、昨日読んだ小説を書いた人だ。昨日、澄の感情のまま、叫んだあの…。
「は? フォローされた!? え? 何か返信(?)が来てる!? え、何時の間に!? って、他にも来てる!?」
朝、スマホを見た時は何も無かった。
平日の俺のスマホは、基本的に朝の目覚めのアラームでしか、ない。たまに昼休みに、気になった事を調べる以外は放置だ。
「朝5時にアラームを止めて、それから約7時間の間に…SNS…いや、ネットは怖いな…純文学の方は何も無いから知らなかった…えーと…『率直な意見感謝する。これからも気になった事があれば叫んでくれ。過去の~』、『あんた面白いからフォローした! あ、眼鏡の、魔王勇者シリーズは止めておけ! 脳みそ破壊されるから!』、『澄さん初めまして~。しまあつ君がフォローしたから、私もフォローしちゃった』、『その叫び、良く解るわ! 私もおっくんと同じで、しまあつ君がフォローしたからフォローしたった♡ よろしくね!』って、ええと…どうすれば良いんだ? って、新しい発言を表示? 何だこれは!?」
「…おい…」
落ち着け、落ち着け俺。
貰ったメッセージに返信をしなければ。
「おい」
こんな時、前世の俺ならどう返す?
澄なら…。
「的場っ!!」
「うおっ!?」
ガンッとベンチに衝撃が走り、俺の身体が揺れた。
驚いてスマホから顔を上げれば、俺の目の前には不機嫌そうな矢田が、相変わらず購買のパンとペットボトルの烏龍茶を持ち、右足をベンチの背凭れに乗せて居た。
「びっ…くりしたぞ。行儀が悪いぞ足を下ろせ。って、声を掛けるなら普通に掛けてくれ。あと『先生』を忘れているぞ」
「…声は掛けたし。スマホに夢中で気付かなかったのは的場だろ」
俺が内心で冷や汗を掻きながらそう言えば、矢田はむすっと面白く無さそうな顔と声で、隣に腰掛けた。
「え? あ、そうだったのか。悪いな。昔から集中すると周りの声が聞こえなくなってなあ、良く親や…って、こら」
そう。読むのに集中すると、周りの声が聞こえなくなるのだ。それで、何度怒られたのか解らない。と、言おうとした処で俺の手からスマホが消えた。
「何を熱心に見てたんだよ? まさか、噂の恋人と遣り取り…って、アオッター? …澄? 何だこの名前? 的場の下の名前、次郎太だろ? 何だよ、誰の名前だよ? やっぱ恋人か? あれか? 最近変わったのは恋人が出来たからって本当なのか? 恋人なんて何時出来たんだよ?」
「おい、そんなに目くじら立てて矢継ぎ早に訊いて来るな。落ち着け」
スマホの画面を俺に向けて、目を吊り上げた矢田がグイグイと身体を寄せて聞いて来るから、俺は開いた両手を肩の高さまで上げて、降参のポーズを取って仰け反ってしまう。ただでさえ、眼光が鋭いこいつに睨まれたら堪らない。気の弱い奴なら、裸足で逃げ出す事請け合いだ。
いや、待て。
矢田は何て言った?
恋人? 俺が変わった? 何だ、それは? そんなの俺は知らんぞ? 恋人なんて、ここに来る事になった時に振られて、それっきり出来た事なんかない、ゼロだ。強いて言えば、本が恋人か? って、何でこんなに怒っているんだ?
「…っそ…身だしなみさえ整えなけりゃ…」
目を丸くする俺をじっと睨んだ後、矢田はがくりと肩を落として俯き、ついでに俺の膝の上にスマホをポトリと落とした。
「な、何だ? いきなり落ち込むなよ? 青少年の情緒は激しいな?」
返されたスマホをトートバックに仕舞いながら、俺は矢田の頭にポンと左手を置いた。その下で、矢田がもぞもぞと頭を動かす。
「…落ち込んでねーし…そりゃ的場は大人だし…」
「大人? それが何か関係あるのか? それより、俺が変わったって…恋人って、噂って何だ?」
「そんなの、的場が一番良く知ってんだろ」
「いや、全く知らないし、身に覚えが無いから訊いているんだが?」
「…髪…」
「髪?」
言われて俺は左手を置いている矢田の頭を見る。
「ん? 根元が大分黒くなっているぞ? 染めなくて良いのか? あ、太い毛が出ているな? 煙草止めたのか?」
「俺じゃねーっ!!」
休みが明けて月曜日。何時ものベンチで、風がいい加減冷たくなったと思いながら昼を食べ終え、スマホを見たら、何だかエライ事になっていた。
「何だ? この人型アイコンにハートマークに矢印は?」
ほうじ茶が入っている水筒を横に置き、空いた右手でアイコンをタップすると、青い鳥が起動する。そこにあるアイコンは『バナナチーズ揚げ』前世の俺、澄を示す物だ。
「…は…?」
俺の目は、今、間違いなく点になった事だろう。それ程の衝撃だった。
起動された青い鳥のベルアイコンの処に、数字が表示されていた。その数36。
「な、何だこれ?」
これまでに見た事の無い現象に、俺は戸惑うしかない。
そのベルをタップすれば『通知』と書かれた画面に移動した。
「成程。お知らせって事か。えーと…"しまあつさんが〇件のツイをよっしゃしました"、"しまあつさんが〇件の発言を拡散しました"、"しまあつさんがあなたをフォローしました"、"田中征爾さんが…"って、田中!?」
田中征爾は、昨日読んだ小説を書いた人だ。昨日、澄の感情のまま、叫んだあの…。
「は? フォローされた!? え? 何か返信(?)が来てる!? え、何時の間に!? って、他にも来てる!?」
朝、スマホを見た時は何も無かった。
平日の俺のスマホは、基本的に朝の目覚めのアラームでしか、ない。たまに昼休みに、気になった事を調べる以外は放置だ。
「朝5時にアラームを止めて、それから約7時間の間に…SNS…いや、ネットは怖いな…純文学の方は何も無いから知らなかった…えーと…『率直な意見感謝する。これからも気になった事があれば叫んでくれ。過去の~』、『あんた面白いからフォローした! あ、眼鏡の、魔王勇者シリーズは止めておけ! 脳みそ破壊されるから!』、『澄さん初めまして~。しまあつ君がフォローしたから、私もフォローしちゃった』、『その叫び、良く解るわ! 私もおっくんと同じで、しまあつ君がフォローしたからフォローしたった♡ よろしくね!』って、ええと…どうすれば良いんだ? って、新しい発言を表示? 何だこれは!?」
「…おい…」
落ち着け、落ち着け俺。
貰ったメッセージに返信をしなければ。
「おい」
こんな時、前世の俺ならどう返す?
澄なら…。
「的場っ!!」
「うおっ!?」
ガンッとベンチに衝撃が走り、俺の身体が揺れた。
驚いてスマホから顔を上げれば、俺の目の前には不機嫌そうな矢田が、相変わらず購買のパンとペットボトルの烏龍茶を持ち、右足をベンチの背凭れに乗せて居た。
「びっ…くりしたぞ。行儀が悪いぞ足を下ろせ。って、声を掛けるなら普通に掛けてくれ。あと『先生』を忘れているぞ」
「…声は掛けたし。スマホに夢中で気付かなかったのは的場だろ」
俺が内心で冷や汗を掻きながらそう言えば、矢田はむすっと面白く無さそうな顔と声で、隣に腰掛けた。
「え? あ、そうだったのか。悪いな。昔から集中すると周りの声が聞こえなくなってなあ、良く親や…って、こら」
そう。読むのに集中すると、周りの声が聞こえなくなるのだ。それで、何度怒られたのか解らない。と、言おうとした処で俺の手からスマホが消えた。
「何を熱心に見てたんだよ? まさか、噂の恋人と遣り取り…って、アオッター? …澄? 何だこの名前? 的場の下の名前、次郎太だろ? 何だよ、誰の名前だよ? やっぱ恋人か? あれか? 最近変わったのは恋人が出来たからって本当なのか? 恋人なんて何時出来たんだよ?」
「おい、そんなに目くじら立てて矢継ぎ早に訊いて来るな。落ち着け」
スマホの画面を俺に向けて、目を吊り上げた矢田がグイグイと身体を寄せて聞いて来るから、俺は開いた両手を肩の高さまで上げて、降参のポーズを取って仰け反ってしまう。ただでさえ、眼光が鋭いこいつに睨まれたら堪らない。気の弱い奴なら、裸足で逃げ出す事請け合いだ。
いや、待て。
矢田は何て言った?
恋人? 俺が変わった? 何だ、それは? そんなの俺は知らんぞ? 恋人なんて、ここに来る事になった時に振られて、それっきり出来た事なんかない、ゼロだ。強いて言えば、本が恋人か? って、何でこんなに怒っているんだ?
「…っそ…身だしなみさえ整えなけりゃ…」
目を丸くする俺をじっと睨んだ後、矢田はがくりと肩を落として俯き、ついでに俺の膝の上にスマホをポトリと落とした。
「な、何だ? いきなり落ち込むなよ? 青少年の情緒は激しいな?」
返されたスマホをトートバックに仕舞いながら、俺は矢田の頭にポンと左手を置いた。その下で、矢田がもぞもぞと頭を動かす。
「…落ち込んでねーし…そりゃ的場は大人だし…」
「大人? それが何か関係あるのか? それより、俺が変わったって…恋人って、噂って何だ?」
「そんなの、的場が一番良く知ってんだろ」
「いや、全く知らないし、身に覚えが無いから訊いているんだが?」
「…髪…」
「髪?」
言われて俺は左手を置いている矢田の頭を見る。
「ん? 根元が大分黒くなっているぞ? 染めなくて良いのか? あ、太い毛が出ているな? 煙草止めたのか?」
「俺じゃねーっ!!」
0
あなたにおすすめの小説
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
「普通を探した彼の二年間の物語」
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています
八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。
そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる