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ギャル親父は壁になりたい
02.ケタる
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「…"ケタる"…? 何だこれは…?」
ピンクのマーカーを持つ俺の手が止まる。
「えぇと…"直ぐに死ぬ事。語源は、成人向けゲーム『君色の風』(後にシナリオライターにより、小説化された)の"…」
『ピロリロピロリロ♪』
「っと、もうそんな時間か」
スマホのアラームを止めて、俺は両腕を頭の上に上げるついでに背筋も伸ばした。ついつい猫背になってしまうから気を付けないとな。ストレートネックは危険、駄目、絶対だ。
今日は土曜日で休みだが、俺は何処へも出掛けずに、自宅アパートに引き篭もっている。
不健康と云う勿れ、通勤で毎日徒歩十分歩いて居るのだ。雨の日も、風の日も、雪の日も。車を使うのは、買い物に行く時だけ。どうだ、エコだろう?
アパートと言っても、学校が職員寮にと借り上げた物件(いや、学校に近過ぎるから建てた?)だから、家賃はすこぶる安い。1LDKで一万五千円だ。風呂とトイレは別。エアコン付き、駐車場有りで、それ込みの値段だ。食い付くしかないだろう。お蔭で、その分趣味に回せる。俺がここの採用試験を受けた理由の一つだ。あと、静かな環境で読書が出来ると思ったのもある。まあ、田植えの時期になると、蛙の大合唱が聴こえるが…夏は蝉が五月蠅いが…いや、今の時期は、コオロギや鈴虫の鳴き声が聴ける。実家に居た頃に聴こえて来るのは、車の走る音ばかりだったからな。ある意味贅沢と言えよう。
休みの日の日課で、俺は趣味の辞書引きをしていた。
先週は、ようやく"く"行を制覇して"け"行に突入出来た。今日は、その続きからを引いている。マーカーを片手に、気になった言葉にチェックを入れ、チェックを入れたページに付箋を貼って行く。
しかし、嬉しい、いや、困った事に、辞書引きをすると、あっと云う間に時間が過ぎて行く。だから、スマホでアラームをセットして、やり過ぎない様に気を付けている。
それが、これまでの俺の休日の過ごし方だったが、今は違う。四日前に前世を思い出した俺の、今の休日の過ごし方は違う。
素晴らしい重さの某辞苑を脇にやり、俺はパソコンを起ち上げつつ、キッチンへ行き、冷蔵庫から缶ビールを取り出す。ツマミは、昨夜の残りのバナナチーズ揚げと鶏の唐揚げだ。それをチンして万年コタツへと戻る。バナナチーズ揚げは、前世を思い出した日の夜に、早速食材を買いに行って作った。懐かしい味に少し泣いたのは秘密だ。
「お。時間通りに更新されている。流石だな」
プシュッと音を立ててプルタブを押し込めば、白い泡が吹き出したから、俺は慌ててそれに唇を寄せた。
お気に入りの銀麦を片手に俺が見ているのは、無料小説投稿サイトの"雪華幻影"だ。十八歳未満お断りのBL専門サイトの。
前世の俺は、本を読むのが好きだった。…特に、男同士の、友情を超えたドデカ感情の物が。
もう、お解り戴けただろうか?
そう、前世の俺は、所謂腐女子だったのだ。
当時は、腐女子と云う言葉があったかどうかは解らないが、とにかく、そうだった。
「…あの頃は作品も少なくて、それ専のレーベルも少なかったが…」
時代は変わる物だと、しみじみと思う。
インターネットだって、今や小学生だって精通している時代だ。まあ、それにより様々な問題もあるが、今は野暮な事は脇に捨てて置こう。
今は、更新されたお気に入りの作品に全集中だ。
「…本当に、こんなに素晴らしい物を読ませてくれてありがとう。良かったな、前世の俺」
パソコンの前で両手を合わせて、深々とおじぎをする俺の姿は、傍から見たら滑稽に見えるだろう。だが、本当に感謝しかないのだから、仕方が無い。
そして、早速読了した事を告げる為に、青い鳥のアイコンをクリックする。
感想フォームがあるが…無理だっ!!
前世の記憶が俺の邪魔をする。
前世で感想を送るには、アンケート葉書か、直筆手紙しか無かったのだ。
それが、作者に直接感想を送る? 即見られる? 馬鹿も休み休み言え。そんな神の所業、誰が信じられる?
…と、前世の俺が頭の中で喚いている。
だが、感想を言いたい、何か一言伝えたいと、目に留まらなくて良い、ただ叫びたい。
そう悶々としていた時に気付いたのが、この青い鳥だ。
『作者に直接伝えるのが無理なら、これを使えば良いじゃない』
とばかりに、上に下にご丁寧に配置されてある、青い鳥アイコン。
そうだ。
俺はこれまでに何度も読んだ純文学について語って来た(誰も見向きもしなかったが)。
『今こそ、これを最大限に活用する時なのでは!?』
そう思った俺は、新たにアカウントを作った(流石に、純文学で使ってる本名は抵抗があった)。
そんな訳で、俺は今日も前世の名前『澄』を使い、ネットの海で叫ぶ。
『うををををををををををををおををwいっ!! 何でここですれ違うんじゃ、こりゃああああっ!? ああん!? どう考えても、自分に惚れtるやろがああ!? 鼻の穴、指突っ込んで文字数』
打ち仕損じ等、前世の俺は気にしないだろう。だから、このまま送信する。
ありがとう、前世の俺。
ピンクのマーカーを持つ俺の手が止まる。
「えぇと…"直ぐに死ぬ事。語源は、成人向けゲーム『君色の風』(後にシナリオライターにより、小説化された)の"…」
『ピロリロピロリロ♪』
「っと、もうそんな時間か」
スマホのアラームを止めて、俺は両腕を頭の上に上げるついでに背筋も伸ばした。ついつい猫背になってしまうから気を付けないとな。ストレートネックは危険、駄目、絶対だ。
今日は土曜日で休みだが、俺は何処へも出掛けずに、自宅アパートに引き篭もっている。
不健康と云う勿れ、通勤で毎日徒歩十分歩いて居るのだ。雨の日も、風の日も、雪の日も。車を使うのは、買い物に行く時だけ。どうだ、エコだろう?
アパートと言っても、学校が職員寮にと借り上げた物件(いや、学校に近過ぎるから建てた?)だから、家賃はすこぶる安い。1LDKで一万五千円だ。風呂とトイレは別。エアコン付き、駐車場有りで、それ込みの値段だ。食い付くしかないだろう。お蔭で、その分趣味に回せる。俺がここの採用試験を受けた理由の一つだ。あと、静かな環境で読書が出来ると思ったのもある。まあ、田植えの時期になると、蛙の大合唱が聴こえるが…夏は蝉が五月蠅いが…いや、今の時期は、コオロギや鈴虫の鳴き声が聴ける。実家に居た頃に聴こえて来るのは、車の走る音ばかりだったからな。ある意味贅沢と言えよう。
休みの日の日課で、俺は趣味の辞書引きをしていた。
先週は、ようやく"く"行を制覇して"け"行に突入出来た。今日は、その続きからを引いている。マーカーを片手に、気になった言葉にチェックを入れ、チェックを入れたページに付箋を貼って行く。
しかし、嬉しい、いや、困った事に、辞書引きをすると、あっと云う間に時間が過ぎて行く。だから、スマホでアラームをセットして、やり過ぎない様に気を付けている。
それが、これまでの俺の休日の過ごし方だったが、今は違う。四日前に前世を思い出した俺の、今の休日の過ごし方は違う。
素晴らしい重さの某辞苑を脇にやり、俺はパソコンを起ち上げつつ、キッチンへ行き、冷蔵庫から缶ビールを取り出す。ツマミは、昨夜の残りのバナナチーズ揚げと鶏の唐揚げだ。それをチンして万年コタツへと戻る。バナナチーズ揚げは、前世を思い出した日の夜に、早速食材を買いに行って作った。懐かしい味に少し泣いたのは秘密だ。
「お。時間通りに更新されている。流石だな」
プシュッと音を立ててプルタブを押し込めば、白い泡が吹き出したから、俺は慌ててそれに唇を寄せた。
お気に入りの銀麦を片手に俺が見ているのは、無料小説投稿サイトの"雪華幻影"だ。十八歳未満お断りのBL専門サイトの。
前世の俺は、本を読むのが好きだった。…特に、男同士の、友情を超えたドデカ感情の物が。
もう、お解り戴けただろうか?
そう、前世の俺は、所謂腐女子だったのだ。
当時は、腐女子と云う言葉があったかどうかは解らないが、とにかく、そうだった。
「…あの頃は作品も少なくて、それ専のレーベルも少なかったが…」
時代は変わる物だと、しみじみと思う。
インターネットだって、今や小学生だって精通している時代だ。まあ、それにより様々な問題もあるが、今は野暮な事は脇に捨てて置こう。
今は、更新されたお気に入りの作品に全集中だ。
「…本当に、こんなに素晴らしい物を読ませてくれてありがとう。良かったな、前世の俺」
パソコンの前で両手を合わせて、深々とおじぎをする俺の姿は、傍から見たら滑稽に見えるだろう。だが、本当に感謝しかないのだから、仕方が無い。
そして、早速読了した事を告げる為に、青い鳥のアイコンをクリックする。
感想フォームがあるが…無理だっ!!
前世の記憶が俺の邪魔をする。
前世で感想を送るには、アンケート葉書か、直筆手紙しか無かったのだ。
それが、作者に直接感想を送る? 即見られる? 馬鹿も休み休み言え。そんな神の所業、誰が信じられる?
…と、前世の俺が頭の中で喚いている。
だが、感想を言いたい、何か一言伝えたいと、目に留まらなくて良い、ただ叫びたい。
そう悶々としていた時に気付いたのが、この青い鳥だ。
『作者に直接伝えるのが無理なら、これを使えば良いじゃない』
とばかりに、上に下にご丁寧に配置されてある、青い鳥アイコン。
そうだ。
俺はこれまでに何度も読んだ純文学について語って来た(誰も見向きもしなかったが)。
『今こそ、これを最大限に活用する時なのでは!?』
そう思った俺は、新たにアカウントを作った(流石に、純文学で使ってる本名は抵抗があった)。
そんな訳で、俺は今日も前世の名前『澄』を使い、ネットの海で叫ぶ。
『うををををををををををををおををwいっ!! 何でここですれ違うんじゃ、こりゃああああっ!? ああん!? どう考えても、自分に惚れtるやろがああ!? 鼻の穴、指突っ込んで文字数』
打ち仕損じ等、前世の俺は気にしないだろう。だから、このまま送信する。
ありがとう、前世の俺。
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