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青年期:帝国編
軍事力
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「エルピス……その、ごめん」
言葉すらも借り物である自分の謝罪など誰が受け取ってくれようか。
感じることのなかった。いや、感じようとしていなかった感情が舌先を乾燥させ心臓を意味もなく何度も何度も動かそうとする。
大木に背を預け、黒髪の間から除く綺麗な両の目でこちらを見るエルピスに対してレネスはそれだけを口にするともう何もできなくなってしまう。
いっそのこと、その右手に杖のようにして支えになっている刀で切り付けてきてくれたらどれほどやりやすいことだろか。
「どうしたんですか師匠……別に構いませんよ。怒って居ませんし、ましてや軽蔑してたり侮ったりしてませんから」
そう口にするエルピスはどこかおびえているように感じられた。
他者の感情が流れ込んでくる感覚に落ち着けないレネスは黙ってそれに頷くと、再び沈黙がお互いの間を過ぎ去っていく。
エルピスがおびえているのは間違いなく先ほど自分が拒絶したから、他者に拒絶されることを嫌がることなどレネスには理解できなったのに今ならばその怖さが痛い程にわかる。
きっといま心の中に渦巻く感情がそれなのだろうという予感が更にレネスの口を堅くさせた。
「中でニルと喋ってきた。今後私は自己性を取り戻すために感情を手に入れていくことにした」
「おめでとうございます師匠! 師匠なら直ぐにでも出来ますよ」
「……ありがとうエルピス。だけど不安なんだ、この口調はニルから借りたもの、いま頭の中を駆け回っていく様々な感情は全部私が置いてきてしまったものだ。それを手に入れるのがたまらなく怖い」
「それも感情ですよ。師匠なら大丈夫です、もし不安な事があったらいつでも来てください。お茶の相手くらいなら出来ますよ」
会話が成り立っているのか、この返答で本当に正しいのか、それだけがずっと怖い。
何を怖がる必要があるというのだろうか、負けたとはいえ関係性が変わることなどないはずなのに。
頭と心の連動がいつまでたっても取れる気がしない。
「ーーありがとう。エルピス」
だから今は感謝の言葉だけを伝えよう。
整理のついていない言葉から無責任に言葉を投げかけてこれ以上彼が傷つくのはレネスの望む結末ではない。
「いえいえ、頑張ってくださいね師匠」
エルピスはそういってにっこりと笑みを浮かべた。
太陽の光よりもまぶしいそんな彼の顔を直視することがなぜか途端にできなくなり、レネスは逃げ出すようにしてその場を後にしてしまうのだった。
/
「それでニル、さっきの特殊技能は?」
それから少し時がたち、どこかへと行ってしまったレネスの事を思い出しながらエルピスはそうニルに確認をとる。
〈神域〉の発動範囲内だからこそ何とか拾えた程度の情報ではあるが、ニルがエルピスの知らない力を行使していたのは間違いない。
隠そうとしていたのであれば触れない方がいいかとも考えたが、ニルが聞かれなかったから話さなかったのではなく自分に対してその技能の存在を隠そうとしていたことにふと興味を覚えたからだ。
「ありゃ、バレちゃってたか」
「これだけ近い距離に居ればね。ニルは隠し事しないから気になって……まぁ俺もニルに全部を話してるわけじゃないから嫌だったら話さなくても良いけど」
「嫌と言うわけじゃ無いんだけれどね。この技能は誰にでも効く、それこそ全力状態のエルピスにだって効く。ただ発動条件が少し特殊でね、相手に事前に知られていると対処が可能なんだよ」
悪そうな笑みを浮かべてそういうニルに対して、エルピスは頭の中で事前に知っていると対処が可能である技能について考えてみる。
多いもので言うと他者に触れるもの、または他者にある一定の条件をこなさせることだろうか。
喋ったら封印するというようなものがあるとセラに教えてもらったことがあったように思うが、そういった類の能力であるのならば確かに防ぐことは可能だろう。
いや、そんな事より――
「なるほど…なるほど? それを使って俺に何をしようと?」
「そりゃもうあんなことやこんな事をーー冗談だから距離取らないでよ、泣くよ?」
自分相手にそんなわけのわからない効果の技能を使われてはかなわない。
ニルの愛情を信頼しているが、だからこそニルの危険度は初めて会った時から下がることはなくエルピスの中で常に要注意人物である。
「レネスの感情の発露にはこの技能が必要不可欠だったんだよ。早くも効果は出ているしね」
「確かにあれはニルの口調とはちょっと違ったかも」
「最初は微妙な差でいいんだよ。後から少しずつ変わってくる、案外本当の彼女はクールだけど冗談が好きで偶にやらかすくらいの女の子なのかもーー言って思ったけどアウローラと姉さんとエラに属性丸かぶりじゃん、エルピスそう言う子好きなの?」
ふと思いついたようにそういったニルに対してエルピスは言葉を返そうとして詰まる。
エルピスが今まで出会ってきた女性の特徴的に言えばニルのようなタイプが異質で、お互いに距離をとりお互いを支えあうような関係に慣れてしまっていた。
それは恋愛感情が絡んでいようといまいと同じことで、だからエルピスは一人で生きていける力を持つ彼女たちに対して好意を抱いているのかもしれない。
「そこで好きかどうか問わないでよ、返答しずらい。ただ確かにきっかけにはなってるのかも?」
「彼女に聞かれて返答しずらいってもはやそれが答えな気もするけれど、まぁ私もレネスに対してなら寛容だよ。彼女がその感情に気づくかどうかはまた別としてだけれど」
ニルの言葉の意味はつまりレネスであれば彼女にしてもいい、浮気でもなく愛人でもなく正式に同じ立場の人間として迎え入れようということだろう。
その意味を数秒かけて理解したエルピスは苦笑いを浮かべながらそれを否定する。
「別にそんなんじゃーー」
「ーーいいよ隠さなくても。と言うより僕相手に嘘つくの? エルピス」
「……ごめん。確かに師匠のことは好きだよ」
あの目はだめだ。
ニルの黒い目が自分の目と視線を交換したその瞬間、エルピスには隠し事などできなくなってしまう。
恐怖からではなく純粋にその目の奥にある彼女の心の悲しみが透けて見えてしまうからだ。
いまだにエルピス本人ですら好きと言っていいかわからない感情、アウローラ達と比べるまでもない程にエルピスの心のほんの少しの隙間を占領している尊敬の気持ちをニルは愛情だという。
これが相手がニルやセラでなければ否定の言葉も浮かぶのだろうが、そんなタラればは少しの間しかエルピスを現実から遠ざけてはくれなかった。
「それで良いんだよ。レネスもエルピスも、もっと自分の感情に素直になるべきなんだよ、恋愛感情なんて不確かなものは契約がなければ安心感を得られないんだから」
ただし自分以外はであるが。
そういいたいのだろう、ニルを見るエルピスの視線に反応するようにして微笑を浮かべるニルの顔にはそう書いてあるようだった。
「ただレネスの場合心配事が一つあるんだよねぇ」
「心配事?」
「彼女に記憶の洗い直しをしてもらって感情再獲得の為の新たなトリガーを作ってる真っ最中なんだけど、もし彼女がエルピスに対しての好意を――まあ好意じゃなくてもそれに近いものだったらなんでもいいんだけど――この一年間で抱いているとしたら――」
「――したら?」
「新しい記憶なだけに頭に強烈に焼き付くだろうし、下手したら僕並みのが出てきちゃうかも」
僕並みの、とはエルピスに普段見せているニルの方かはたまた腹の奥底で隠している本性の方か。
もし後者であったとしたらエルピスに受け止められるかどうか分からないが、感情を手に入れた彼女からの想いであるならばなんとしてでも受け取らないわけにはいかない。
「そうなったら受け止めるよ…うん、受け止める……受け止められるかなぁ」
「まぁそこはおいおいだね。多分その内仙桜種の里に向かうことになるだろうから、それだけよろしく」
「分かった。とりあえず師匠はニルに任せる、俺はまた明日から軍略会議があるから」
本当はしたくもない作戦会議ではあるが、少しでも作業を進めておかなければいけないので仕方がない。
本来は自分でこなしたい仕事だが、自分の頭でどうにか出来ないとエルピスは思っているし、ニルならばそれをなんとかできるとも思っている。
「任せなよ。僕は君の頼れる彼女だからね」
「ありがとうニル。それじゃあ行ってくるよ、今日の夜は一緒にご飯食べよう」
「もちろん。喜んで」
そう言って微笑む彼女はきっと何よりも美しい。
かつて父と母もこうして仕事に赴いて居たのかと思うと一瞬気持ちが軽くなり、いつもよりほんの少しだけ早足でエルピスは会議の場へと向かうのだった。
/
会議が始まって三時間。
長く続いた各国の連携についてようやくまとまりを見せ、会議が終わり始めるとようやくエルピスの出番である。
「ーー以上が龍の谷と締結した停戦協定の概要です。何か質問は?」
帝国から直接の依頼として最高位冒険者、エルピス・アルヘオ宛に出された竜の谷に住まう龍との交渉は無事完了できている。
プライドが高く、誰に屈することもない龍種の中でもトップクラスに凶暴な者達が集まる龍の谷。
そんな所に出向き停戦協定を結ばせる事はもはやそれ自体が偉業だ。
「この短期間の間にどうやってあの獰猛な龍達を?」
「短期間といっても二月もかかってしまいました、不甲斐ない限りです。方法はもちろん拳で、頭を使う生物よりわかりやすくて楽でしたよ」
言葉を交わし続けてのらりくらりと逃げ延びる人に対しての嫌味だろう。
エルピスの言葉に対して幾人かが不機嫌そうに鼻を鳴らすがそれを機にするような素振りはない。
「戦力になってはくれんものかのぅ」
「それはこちらの積む物次第でしょうね」
「そこも武力でどうにかならんのか」
「それを武力で解決してしまうのであれば、私は先に今回の戦争で物資を出し渋る国に武力を向けた方が早そうですね」
人類に対しての宣戦布告とも取れる言葉だが、龍の谷と契約を結べるエルピスと喧嘩ができる余裕などどこの国にもありはしない。
忌々しげにエルピスの事を見つめるが当人から帰ってくるのは微笑のみであり、あまりにも無礼な態度に怒りを込み上げる王達だがそれを口にするわけにもいかずなんとか堪える。
「では帝国の方はそのように。法国からは聖人の派遣用意ができております」
「ほう……!」
「聖人ですか、これはまた法国も本腰を入れてきて居ますね」
聖人とは人類の進化形態の一種である。
エルピスがセラから聞いた話によれば、聖人の発生条件は完全なランダムであり、生まれた時から聖人としての力と称号を持って生まれてくるとのことだ。
偉業を成し遂げなければ得られない勇者や英雄などとは違い、聖人は冒険者にでもならない限りこれといって目立った活動を見せないので、法国としてなるべく伏せておきたかった人物達だろう。
それを表に出してきたという事は余程今回の戦争に力を入れているらしい。
「法国といたしましては人類救済はこなすべき責務、であればこの程度の出兵は許容範囲ないです」
「王国からはアルキゴスとマギアを。兵団もある程度は確保できて居ます」
「評議国は黒姫を国土防衛に当てる代わりに、全体の半数に近い兵団を出兵させる用意があります」
アルキゴスとマギアは言うまでもなく準最高位冒険者級、もし初代国王ヴァスィリオのF式装備着用を許されているのであれば最高位冒険者にも到達しうる実力がある。
評議国に関して言えばあの黒姫が国土を防衛するとしても、兵団の半数を国外の防衛の為に当てるというのはすごい賭けであると言えた。
おそらくはあの黒姫からの指示か黒姫の後ろにいる人物からの指示だろうが、相当な力の入れ込み用である。
「連合国からは最高位冒険者を二名、また補給物資や消費物資の補給などを行います」
「共和国は加盟国からそれぞれ準最高位冒険者クラスの兵士を一人選出するよう手配しております」
「国土防衛ラインの提出も既に完了して居ます、エルピス殿、他に必要なことは?」
これで今日行うべき事は全て終わった。
国土防衛網の構築、資材運搬ルートの確保、戦時中の資材の賃金問題に冒険者への依頼者の張り出し、まだまだしなければいけない事は山のようにある。
出された書類の山を眺めながら、周りから突き刺さる視線に対してエルピスは言葉を返す。
「作戦共有に物資の実際の運搬、各国間の敵対意識の改善に転移者や転生者の洗い出し、やらなければいけないことは山のように積まれて居ます」
「全ては時間……か」
「幸いな事にみなさんのおかげで想定通りに進んでいます。これから先もこのまま進めばいいのですが」
エルピスの懸念は今回ここで決められた事が、絶対にそのまま各国では通用しないという確信があるからだ。
国王達ですら利権と秘匿情報をなんとか折衷しながらここまでやってきたが、商人や末端の貴族まで同じことができるとは到底思えない。
一旦これで国王達は国に帰るとして、残された課題は未だに山積みだ。
「それでは今回の議題はここで終了だ。報告書はいつもの通りに」
/
夕焼けが差し込む部屋の一室。
綺麗な黒髪をたなびかせ、書類に目を通すのは懐かしい人物である。
「ーーそろそろかしら?」
ふと呟くようにして黒髪の女性はそう口にする。
視線の先にあるカレンダーには一年振りに出会う彼との記念日が刻まれており、ひっそりと書かれたその印はけれど確かにこの一年間で彼女が最も待ち遠しく感じていた日である。
「早く会えたら良いわねエルピス」
アウローラはそう呟いてまた作業を開始する。
それほど長い時間はかからないだろう、だけれどカレンダーの日にちはどれだけ見つめても進んでくれず、アウローラは小さくため息をつくのだった。
言葉すらも借り物である自分の謝罪など誰が受け取ってくれようか。
感じることのなかった。いや、感じようとしていなかった感情が舌先を乾燥させ心臓を意味もなく何度も何度も動かそうとする。
大木に背を預け、黒髪の間から除く綺麗な両の目でこちらを見るエルピスに対してレネスはそれだけを口にするともう何もできなくなってしまう。
いっそのこと、その右手に杖のようにして支えになっている刀で切り付けてきてくれたらどれほどやりやすいことだろか。
「どうしたんですか師匠……別に構いませんよ。怒って居ませんし、ましてや軽蔑してたり侮ったりしてませんから」
そう口にするエルピスはどこかおびえているように感じられた。
他者の感情が流れ込んでくる感覚に落ち着けないレネスは黙ってそれに頷くと、再び沈黙がお互いの間を過ぎ去っていく。
エルピスがおびえているのは間違いなく先ほど自分が拒絶したから、他者に拒絶されることを嫌がることなどレネスには理解できなったのに今ならばその怖さが痛い程にわかる。
きっといま心の中に渦巻く感情がそれなのだろうという予感が更にレネスの口を堅くさせた。
「中でニルと喋ってきた。今後私は自己性を取り戻すために感情を手に入れていくことにした」
「おめでとうございます師匠! 師匠なら直ぐにでも出来ますよ」
「……ありがとうエルピス。だけど不安なんだ、この口調はニルから借りたもの、いま頭の中を駆け回っていく様々な感情は全部私が置いてきてしまったものだ。それを手に入れるのがたまらなく怖い」
「それも感情ですよ。師匠なら大丈夫です、もし不安な事があったらいつでも来てください。お茶の相手くらいなら出来ますよ」
会話が成り立っているのか、この返答で本当に正しいのか、それだけがずっと怖い。
何を怖がる必要があるというのだろうか、負けたとはいえ関係性が変わることなどないはずなのに。
頭と心の連動がいつまでたっても取れる気がしない。
「ーーありがとう。エルピス」
だから今は感謝の言葉だけを伝えよう。
整理のついていない言葉から無責任に言葉を投げかけてこれ以上彼が傷つくのはレネスの望む結末ではない。
「いえいえ、頑張ってくださいね師匠」
エルピスはそういってにっこりと笑みを浮かべた。
太陽の光よりもまぶしいそんな彼の顔を直視することがなぜか途端にできなくなり、レネスは逃げ出すようにしてその場を後にしてしまうのだった。
/
「それでニル、さっきの特殊技能は?」
それから少し時がたち、どこかへと行ってしまったレネスの事を思い出しながらエルピスはそうニルに確認をとる。
〈神域〉の発動範囲内だからこそ何とか拾えた程度の情報ではあるが、ニルがエルピスの知らない力を行使していたのは間違いない。
隠そうとしていたのであれば触れない方がいいかとも考えたが、ニルが聞かれなかったから話さなかったのではなく自分に対してその技能の存在を隠そうとしていたことにふと興味を覚えたからだ。
「ありゃ、バレちゃってたか」
「これだけ近い距離に居ればね。ニルは隠し事しないから気になって……まぁ俺もニルに全部を話してるわけじゃないから嫌だったら話さなくても良いけど」
「嫌と言うわけじゃ無いんだけれどね。この技能は誰にでも効く、それこそ全力状態のエルピスにだって効く。ただ発動条件が少し特殊でね、相手に事前に知られていると対処が可能なんだよ」
悪そうな笑みを浮かべてそういうニルに対して、エルピスは頭の中で事前に知っていると対処が可能である技能について考えてみる。
多いもので言うと他者に触れるもの、または他者にある一定の条件をこなさせることだろうか。
喋ったら封印するというようなものがあるとセラに教えてもらったことがあったように思うが、そういった類の能力であるのならば確かに防ぐことは可能だろう。
いや、そんな事より――
「なるほど…なるほど? それを使って俺に何をしようと?」
「そりゃもうあんなことやこんな事をーー冗談だから距離取らないでよ、泣くよ?」
自分相手にそんなわけのわからない効果の技能を使われてはかなわない。
ニルの愛情を信頼しているが、だからこそニルの危険度は初めて会った時から下がることはなくエルピスの中で常に要注意人物である。
「レネスの感情の発露にはこの技能が必要不可欠だったんだよ。早くも効果は出ているしね」
「確かにあれはニルの口調とはちょっと違ったかも」
「最初は微妙な差でいいんだよ。後から少しずつ変わってくる、案外本当の彼女はクールだけど冗談が好きで偶にやらかすくらいの女の子なのかもーー言って思ったけどアウローラと姉さんとエラに属性丸かぶりじゃん、エルピスそう言う子好きなの?」
ふと思いついたようにそういったニルに対してエルピスは言葉を返そうとして詰まる。
エルピスが今まで出会ってきた女性の特徴的に言えばニルのようなタイプが異質で、お互いに距離をとりお互いを支えあうような関係に慣れてしまっていた。
それは恋愛感情が絡んでいようといまいと同じことで、だからエルピスは一人で生きていける力を持つ彼女たちに対して好意を抱いているのかもしれない。
「そこで好きかどうか問わないでよ、返答しずらい。ただ確かにきっかけにはなってるのかも?」
「彼女に聞かれて返答しずらいってもはやそれが答えな気もするけれど、まぁ私もレネスに対してなら寛容だよ。彼女がその感情に気づくかどうかはまた別としてだけれど」
ニルの言葉の意味はつまりレネスであれば彼女にしてもいい、浮気でもなく愛人でもなく正式に同じ立場の人間として迎え入れようということだろう。
その意味を数秒かけて理解したエルピスは苦笑いを浮かべながらそれを否定する。
「別にそんなんじゃーー」
「ーーいいよ隠さなくても。と言うより僕相手に嘘つくの? エルピス」
「……ごめん。確かに師匠のことは好きだよ」
あの目はだめだ。
ニルの黒い目が自分の目と視線を交換したその瞬間、エルピスには隠し事などできなくなってしまう。
恐怖からではなく純粋にその目の奥にある彼女の心の悲しみが透けて見えてしまうからだ。
いまだにエルピス本人ですら好きと言っていいかわからない感情、アウローラ達と比べるまでもない程にエルピスの心のほんの少しの隙間を占領している尊敬の気持ちをニルは愛情だという。
これが相手がニルやセラでなければ否定の言葉も浮かぶのだろうが、そんなタラればは少しの間しかエルピスを現実から遠ざけてはくれなかった。
「それで良いんだよ。レネスもエルピスも、もっと自分の感情に素直になるべきなんだよ、恋愛感情なんて不確かなものは契約がなければ安心感を得られないんだから」
ただし自分以外はであるが。
そういいたいのだろう、ニルを見るエルピスの視線に反応するようにして微笑を浮かべるニルの顔にはそう書いてあるようだった。
「ただレネスの場合心配事が一つあるんだよねぇ」
「心配事?」
「彼女に記憶の洗い直しをしてもらって感情再獲得の為の新たなトリガーを作ってる真っ最中なんだけど、もし彼女がエルピスに対しての好意を――まあ好意じゃなくてもそれに近いものだったらなんでもいいんだけど――この一年間で抱いているとしたら――」
「――したら?」
「新しい記憶なだけに頭に強烈に焼き付くだろうし、下手したら僕並みのが出てきちゃうかも」
僕並みの、とはエルピスに普段見せているニルの方かはたまた腹の奥底で隠している本性の方か。
もし後者であったとしたらエルピスに受け止められるかどうか分からないが、感情を手に入れた彼女からの想いであるならばなんとしてでも受け取らないわけにはいかない。
「そうなったら受け止めるよ…うん、受け止める……受け止められるかなぁ」
「まぁそこはおいおいだね。多分その内仙桜種の里に向かうことになるだろうから、それだけよろしく」
「分かった。とりあえず師匠はニルに任せる、俺はまた明日から軍略会議があるから」
本当はしたくもない作戦会議ではあるが、少しでも作業を進めておかなければいけないので仕方がない。
本来は自分でこなしたい仕事だが、自分の頭でどうにか出来ないとエルピスは思っているし、ニルならばそれをなんとかできるとも思っている。
「任せなよ。僕は君の頼れる彼女だからね」
「ありがとうニル。それじゃあ行ってくるよ、今日の夜は一緒にご飯食べよう」
「もちろん。喜んで」
そう言って微笑む彼女はきっと何よりも美しい。
かつて父と母もこうして仕事に赴いて居たのかと思うと一瞬気持ちが軽くなり、いつもよりほんの少しだけ早足でエルピスは会議の場へと向かうのだった。
/
会議が始まって三時間。
長く続いた各国の連携についてようやくまとまりを見せ、会議が終わり始めるとようやくエルピスの出番である。
「ーー以上が龍の谷と締結した停戦協定の概要です。何か質問は?」
帝国から直接の依頼として最高位冒険者、エルピス・アルヘオ宛に出された竜の谷に住まう龍との交渉は無事完了できている。
プライドが高く、誰に屈することもない龍種の中でもトップクラスに凶暴な者達が集まる龍の谷。
そんな所に出向き停戦協定を結ばせる事はもはやそれ自体が偉業だ。
「この短期間の間にどうやってあの獰猛な龍達を?」
「短期間といっても二月もかかってしまいました、不甲斐ない限りです。方法はもちろん拳で、頭を使う生物よりわかりやすくて楽でしたよ」
言葉を交わし続けてのらりくらりと逃げ延びる人に対しての嫌味だろう。
エルピスの言葉に対して幾人かが不機嫌そうに鼻を鳴らすがそれを機にするような素振りはない。
「戦力になってはくれんものかのぅ」
「それはこちらの積む物次第でしょうね」
「そこも武力でどうにかならんのか」
「それを武力で解決してしまうのであれば、私は先に今回の戦争で物資を出し渋る国に武力を向けた方が早そうですね」
人類に対しての宣戦布告とも取れる言葉だが、龍の谷と契約を結べるエルピスと喧嘩ができる余裕などどこの国にもありはしない。
忌々しげにエルピスの事を見つめるが当人から帰ってくるのは微笑のみであり、あまりにも無礼な態度に怒りを込み上げる王達だがそれを口にするわけにもいかずなんとか堪える。
「では帝国の方はそのように。法国からは聖人の派遣用意ができております」
「ほう……!」
「聖人ですか、これはまた法国も本腰を入れてきて居ますね」
聖人とは人類の進化形態の一種である。
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評議国に関して言えばあの黒姫が国土を防衛するとしても、兵団の半数を国外の防衛の為に当てるというのはすごい賭けであると言えた。
おそらくはあの黒姫からの指示か黒姫の後ろにいる人物からの指示だろうが、相当な力の入れ込み用である。
「連合国からは最高位冒険者を二名、また補給物資や消費物資の補給などを行います」
「共和国は加盟国からそれぞれ準最高位冒険者クラスの兵士を一人選出するよう手配しております」
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「ーーそろそろかしら?」
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彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
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