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第335話 ミチナガ、初めてのヨーデルフイト王国

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 魔動装甲車を走らせること1時間。徐々に景色が変わって来た。目の前には綿花畑が広がり始めた。広大な土地で大量の綿花を栽培している。さらにその奥には牧草地帯まで見えて来た。そこには羊の大群が見える。

 まさしく綿花と羊毛で発展して来たヨーデルフイト王国ならではの光景だ。このヨーデルフイト王国の羊毛と綿花は英雄の国でも質が良いと噂されているほどだ。だからこそ英雄の国で大きなシェアを獲得している。

 しかしそんなせいで食糧生産がおろそかになっており、他国から食料と傭兵を買い、国を回しているというなんとも不思議な国でもある。いや、不思議な国であった。そんなヨーデルフイト王国のイメージはもう過去のことだろう。

 ミチナガの視線の先にはこんなのどかな国にはあまりにも似つかわない、巨大なテーマパークが見えた。ミチナガもその実物を肉眼で見るのは初めてのことだ。大きい、あまりにも巨大なテーマパークからはこれだけ離れていても楽しげな音が聞こえて来た。

 やがてそんなテーマパークに近づくと街並みも変わり始めた。多くの商店が立ち並び、人々の姿が多くなる。かつてないほどの活気あるこの国は、今やこの一帯にある国々の中で最も富と権力を手に入れた。

 周辺の国々はヨーデルフイトに金を支払いここに店を出店したがる。なんせここに店を出すだけで普通の数倍の売り上げを叩き出すことができる。それほどまでにヨーデルフイト王国には観光客が増加して来ているのだ。

 そんなヨーデルフイト王国でも一目置かれる商会がある。そんな商会の前にミチナガたちは降り立つとその商会の店員一同でミチナガたちを出迎えた。店の奥では使い魔が手を振っている。

『ヨウ#4・ボス、皆さん、長旅お疲れ様。っと、ここでは商会長と呼んだ方が良かったね。』

「「「ようこそおいでくださいました商会長。」」」

「みんなありがとう。今は仕事の途中だから業務に戻ってくれ。ヨウも出迎えありがとう。それよりも…すごい人だな。以前の報告じゃ人よりも羊の方がはるかに多いって話だったぞ。」

『ヨウ#4・今だって羊の方が数は多いよ。まあ今は人の数もかなり増えたけどね。とりあえずみんなを裏手に案内してあげて。ボスは奥の部屋に来て。簡単に現状報告するから。』

 ミチナガはヨウの眷属に連れられて3階の執務室へ案内され、そこでいくつかの書類を渡され現状の報告会が行われた。普段から報告を聞いて入ればこんな必要はないのだが、店舗数が増えすぎてそこまで把握できる余裕がない。

「ふ~ん…ミチナガ商会に関してはヨーデルフイト王国内で行う商売の全てに関税も税金もかけないのか。かなり大胆だな。」

『ヨウ#4・ミチナガ商会のおかげでここまで発展したからね。他に逃げられたら困るから最大限の歓待だよ。それにミチナガ商会主導で街道の整備、国内道路の舗装もしたからね。本来税金で行うことをやってくれるから税金取らなくても国王のメンツも保たれるんだよ。』

「ほんとだ。売り上げの3割を国内の整備に使っているのか。それに国側と共同開発なんかもしているのか。この国の売り上げは……ほとんどグッズか。」

『ヨウ#4・VMTキャラグッズは飛ぶように売れるからね。食事なんかもキャラ弁みたいにしてあるよ。普通の食事なんかは他の商会に譲っている感じだね。うちで独占しすぎると恨み買うからね。あえて手を出さない場所を作って他の商会と共存しているよ。』

 その後も一通り報告を受けたミチナガは満足げに頷く。まあもともと使い魔たちが変なことをするわけはないと思っていた。ミチナガが聞きたかったのは順調かどうかだけだ。それから楽しくやれているか。その確認さえ取れれば十分であった。

 そして問題ないとの報告を受けたミチナガは長旅の疲れでも癒そうと今日はもう休もうとした。だがそこへヨーデルフイト国王からの使者がやって来た。内容は要約すると夕食でも一緒にどうですかという実に丁寧なものであった。

 ちゃんとミチナガが国王であることも伝えてあるので、高圧的には来ない。疲れていなかったら食事でもしながらこれまでのことをお礼申し上げたいという丁寧な申し出を断るわけにもいかない。とりあえず2時間ほど仮眠を取ってから向かうことを伝えると使者も喜んでいた。

 本当は今すぐにでもヴァルドールの元へ向かいたいところではあるが、明日まで我慢し、朝からVMTランドを満喫させてもらおう。ミチナガは気持ちを落ち着かせ、しばしの眠りについた。




「よくぞおいでくださいましたセキヤ王。今宵は互いに王として語り合うこともしたいところではありますが、是非とも商人ミチナガ様としても語らいたいと思います。」

「お初にお目にかかりますヨーデルフイト王。長い間この国に商会を立ち上げているというのに挨拶するのが今日まで遅れてしまい申し訳ない。」

「なんのなんの、御身がお忙しいのは重々承知。今や飛ぶ鳥を落とす勢いなどという言葉では言い表せぬほどの活躍ぶり。っと、まずは語らいの前に一杯飲みませんか?とは言ってもこの酒はミチナガ商会で仕入れさせてもらったものですが…」

「ああ、道理で嗅ぎ慣れたものだと…やはり飲み慣れた味というのは心が安らぎます。うちをご贔屓くださり感謝します。それでは…」

「ええ、乾杯。」

 ヨーデルフイト王とミチナガの食事会。互いに後ろに控える騎士たちが物々しさを醸し出しているが、それ以外はなんてことはない。それに互いに互いを害するようなことは決してないだろう。なんせ互いに共益関係にあるのだから。

 そんな王同士の話は自然と互いの国についてのことになる。なんの作物に力を入れているか、政治はどのようにしているか。そんな堅い話だというのに意外と話が盛り上がる。なんせヨーデルフイト王国は羊毛に綿花、セキヤ国はコーヒーにサフランといった他国へ輸出するものを主に生産しているからだ。

「外貨獲得のために生産を偏らせましたが案外これが一番うまくいく。周辺国に輸出しているおかげで他国同士でこの国には手を出さないという暗黙の掟ができるほどですから。それに侵略しても食料がないから兵士たちの食料が足りなくなって飢えるものが出る。ただ問題は周辺国全てが飢饉に見舞われた時が問題でした。輸出する食料が無くなりますからな。まあ我が国は英雄の国と結びつきがあるおかげでそんな問題は起きませんが。」

「やはり英雄の国との結びつきは利が大きいですよね。うちも国を立ち上げる際にはだいぶ支援してもらいました。それに世界貴族ということで周辺国にも一歩牽制できましたし。」

「ええ、本当に世界貴族になれてよかった。うちもそれで他国を牽制できたところはあります。そういえばセキヤ王は今回は世界貴族の更新のための謁見に英雄の国に向かわれるとか。」

「ええ、随分時間がかかってしまいアレクリアル様から小言を少々…国を作ったりといろいろ忙しかったもので、今まで免除してもらいましたが。ああ、それからミチナガとお呼びください。親しいものにはそう呼ばれておりますので。」

「おお、そうでしたか。それではミチナガ王。改めて礼を言わせていただきたい。我が国はミチナガ商会の、特にあのVMTランドのおかげで大きく成長しました。今では国中をVMTランド仕様にしようと大計画まで建てているのですよ。」

「それは嬉しい。その時はまた寄らせていただきます。」

 終始笑顔で続く食事会。そんな食事会はいつまでも続くと思われたが、あまり遅い時間になる前に切り上げられた。なんせミチナガには翌朝からVMTランドを視察、という名の休暇が待っている。

 そのことも正直に話すとヨーデルフイト王はしっかりと理解し、この食事会が遅くならないように時間を調節してくれた。

「なんとも楽しく有意義な食事でした。ありがとうございますヨーデルフイト王。」

「ええ、こちらもとても楽しかったですよセキヤ王。では明日は十二分にお楽しみください。」

「ええ、それでは。」

 ミチナガは魔動装甲車に乗り込み、宿へと急ぐ。そして宿に着くなりすぐに眠りについた。明日は待ちに待ったVMTランドだ。

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