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第239話 1年後のミチナガたちと急報

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 あれから1年余りがたった。こちらの世界に来てすでに3年が経とうとしている。地球換算ではもう5年近くだ。今やミチナガ商会の地位は盤石だ。全店舗の売り上げは高い水準で落ち着いている。着々と地位を向上させ、各国でミチナガ商会は大商会として知られている。

 それにセキヤ国の建国も順調だ。ヂュリーム国での話し合いののちに周辺国にも赴き話をしたのだが、ヂュリーム国が同意したという実績が強く効いてトントン拍子に話が進んだ。おかげで計画通り国土を広げることができた上に資金援助も受けることができた。

 今やセキヤ国は避難民10万人以上を抱える一大国家となりつつある。ただしまだ国としては住居建設が間に合っておらず、1年経った今も建設作業に追われている。かなり急ピッチでやっているのであと半年もあればなんとか全員分の居住区は完成するだろう。

 それから火の国に対しての防衛拠点としての役割を果たすため、巨大な城壁を建設しているのだがこれはかなり時間がかかりそうだ。なんせ全長10キロを余裕で超すほどの巨大な城壁だ。高さだってかなりのものだ。これだけのものを完成させるのには頑張ってもあと1~2年はかかるだろう。

 ただ素材と城壁に組み込む魔法術式はどれも超一級品だ。完成すれば間違いなく難攻不落の鉄壁要塞となる。それも数百年先まで残り、語り継がれる最高のものだ。そう確信しているため無理に建設速度を早めず、とにかく良いものを作ることだけに重きを置いている。

 これから半年で住居を完成させ、もう半年で道路整備を行いつつ城壁を築く。なんとも忙しいが10万人をフル動員すればすぐにでも可能なのだろう。しかし現実は甘くない。避難民の中で城壁づくりや住居建設に参加できるのは2万か3万人だ。

 本来それでもそんな大人数を指揮し、動かすのはかなり困難だが、使い魔達が的確に指示を出しているおかげでうまく運用できている。正直、使い魔達がいなければこの国の運営は成り立っていない。

 国民の仕事の内訳は約2万人弱が住居建設関連、約5000人が城壁づくり、女性など住居や城壁づくりに参加できない人々のうち、約2万人弱が農耕やミチナガ商会の産業に関わっている。さらに約1万人弱が治安維持部隊や医者、飲食店といった商売を行っている。残りは子供だ。

 改めて分かったことだが避難民の半分近くが16歳以下の子供である。子供のためにここまで逃げて来たという大人がほとんどだ。そしてそんな子供達を働かせるのはミチナガの良心に反してしまい、今では義務教育を始めて毎日学校に通わせている。

 正直13歳か14歳以上の子供を働かせれば労働力がかなり増す。しかし地球での年頃を考えるとまだ中学生だ。そう考えると働かせるのは忍びない。さらに大人達の中にも勉強を教えて欲しいという人々が多く、仕事の休みの日には特別教育を受けられるように大人用の学校も作った。

 正直仕事は山ほどあるので勉強をしている暇はないと言いたいところだが、大人達が勉学を学べば今後の仕事の幅も広がる上に、作業効率も上がる。だから国民全員に勉学は必須だろう。

 しかし勉学を必須にしてしまうと大人達に仕事と学校とは別に休みを設ける必要がある。つまり仕事の1週間あたりの作業日数が減ってしまうのだ。さすがに国民全員分の住居も完成していないのにそれはできないということで大人達の学校の必須化はしばらく先延ばしにさせてもらっている。

 それから農業に関して、サフランやコーヒー以外にも麦や野菜のような国民が消費する食物も生産し始めている。現状では自給率2割か3割程度だが、自分たちの食べるものを自分たちで作るという行為はそれだけで国民の意欲向上に繋がったらしい。とりあえずもう1年後には自給率5割を超えることを目標にしている。

 それから猫森以外に国を作ったので猫達の治安維持というものがなくなってしまった。そのため、猫森の中で働いていた戦える信用できる人々を主とした治安維持部隊も設立した。当初は数百人程度しかおらず、10万人の避難民に対して実に少なかった。

 しかし使い魔達が国中を見張っていたおかげで、少数での迅速な行動で治安を維持できた。今では1000人以上いるので治安は問題なく維持できている。

 それから飲食店を開いた人々もいるのだが、全員火の国からの避難民ということで、多種多様な飲食店ができている。この国にいるだけで本場の火の国のご当地グルメが全て味わえそうだ。ちなみに一番人気はこの国で生産した食材を使った料理らしい。特に何料理が人気だとかはないようだ。

 きっと住居建設や城壁づくりが終われば今以上に飲食店も増えていくのだろう。しかし今後のことを考えれば10万人の人々のために仕事を用意しなければならない。数年後、住居建設の人々などの仕事がなくて困らないように考えることは盛りだくさんだ。

『アルファ1・お疲れ様ですボス。今週の報告書です。確認してもらえますか?』

「ん、どれどれ…逮捕者23人か、異種族間での問題が絶えないな。ただ死者が出てないのが幸いだ。治安維持部隊は頑張っているみたいだね。今後もよろしく頼むよアルファ部隊。」

『アルファ1・お任せください!それでは失礼します。』

 今やって来たのはアルファ部隊というアルファ1からアルファ100までの名前をつけられたレア度ノーマルの使い魔達だ。いつまでも名無しの使い魔のままだと住民達が混乱してしまうのでなんとか名前をつけたのだ。

 現在、使い魔達は1100人まで増えた。さすがにここまで増えてくると一人一人全く違う名前をつけるのは困難だ。だからアルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、イプシロンといった名前に100までの数字を組み合わせた部隊を作り上げた。現在総勢500名のこの部隊の総称は通称ナンバーズ。

 最初は数字で区別されるのに対して文句を言っていた使い魔達だったが、このナンバーズという特殊部隊を作ると言った時に賛同した。特殊部隊とかそういった言葉になんともすぐに騙されてしまう単純な使い魔達である。

 それからそれと似たような感じで黒之壱から黒之伍拾までの50人をひとまとまりにした部隊を白、紅、蒼、翠、黄、紫、橙の8種類作り上げた。この部隊の総称はカラーズ。そこだけ英語かよ、という批判が来たので「じゃあ色々部隊?」とミチナガが言ったところ、黙って受け入れたという。

 ちなみにこのナンバーズとカラーズの両部隊だが、それぞれの特色に合わせた仕事をしている、というわけではない。皆それぞれやりたいことをやっている。本当に名前を考えるのが面倒になっただけでつけられた名前なのでそこまで深くは考えていない。

 しかしカラーズとナンバーズで名前をひとまとまりにしたことによって仕事の割り振りが楽になった。今までは手の空いている使い魔を探し出して任せていたが、その労力は無くなりそうだ。

 今ではミチナガの仕事はほとんどなくなり、ベッドでゴロゴロしたり街へ散策する時間も随分増えてきた。ここまで随分時間がかかったがようやくミチナガの至福の毎日である。しかし、もっとここでゆっくりとしていたいが色々とやらなくてはいけないことが出てきた。

 まずは英雄の国へ出向くこと。英雄の国で伯爵の位を授かってから1年以上が経ったのでこれまでの成果を報告しなくてはいけないらしい。ちなみにシンドバル商会のラルドは1年間の成果報告をして伯爵の地位を授かった。1年間でかなりの成果を残したらしい。

 それから白獣であり、ミチナガの護衛であるミラルたちとも合流しなければならない。今ではアンドリュー子爵と合流したのだが、法国の手の者がいる可能性がある火の国に近づけるのはまずい。そのためこの1年間アンドリュー子爵に同行してもらい、釣り映像の撮影に協力してもらっている。

 そのおかげでアンドリュー子爵も様々な場所で釣りを行い、撮影ができている。今では各国に熱心なアンドリュー子爵ファンがいる。まあなかなかに年齢層の高いオジ様向けの映像になっているようだ。

 1年間でそんな様々な進展を見せたミチナガたちであった。そしてこれからもしばらくはこんな日々が続くのだろう。もう少しセキヤ国の建設業務に力を入れないといけないのでまだここを動くわけにはいかない、という建前のもとミチナガはまだまだゴロゴロしている。

 こんな楽しい日々が続けば良いのに、そう思うミチナガは今日もスマホをいじる。ただ最近は課金要素全てに課金してしまったため、少し物足りなくも感じている。

 とりあえずアプリ、バベルの塔をクリアして今日もクリア報酬を受け取る。階数が上がっていくにつれてかなり難易度が上がっているのだが、ミチナガにはまだまだ問題なくクリアできてしまうレベルだ。

 そしてまた他のスマホアプリで遊ぼうとした時、スマホの中から1人の使い魔が飛び出してきた。その使い魔は随分と見覚えのない使い魔であったが、ミチナガは記憶を思い返しその使い魔のことを思い出した。

「お前…ヘカテか?なんでお前がここに…お前はマクベスに付いて行ったはずだよな。拠点から戻って…ていう割にはなんでそんなに焦って…」

『ヘカテ・そ、それは…その…ああ…でも…』

 ものすごく焦っているようだが、何も話そうとしない。なんだか要領を得ない使い魔のことを見ていたミチナガは一つのことを思い出した。そしてそれから連想される最悪な状況。ミチナガの表情は徐々に険しいものに変わり、やがて血の気が引いていく。

「おい…まさか……マクベスに何かあったのか?もしかして…」

『ヘカテ・そ、その…ご、ごめんなさい!ボスと約束したのに…ゴタゴタで拠点が破壊されて…復活地点がスマホに戻っちゃって…それで……』

「…正直に話せ。隠し事はなしだ。わかったな?…何が起きた。…いや、何が起きようとしている。」

『ヘカテ・……まだ…その……わかったよボス。……正直に言います。マクベスの故郷を侵略しようと隣国が襲いかかってきて…』

『ヘカテ・戦争が始まったんだ。』
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