怖い日常

赤い瞳のバスタブ

東京都の高級ビジネスホテル、静かな夜｡

サラリーマンの佐藤は仕事の疲れを癒やすべく、ホテルのバスタブに身を委ねる｡

気持ちよく湯船に浸りながら､泡だらけの水面に顔を出す。

しかし､それが彼の悪夢の始まりだった。

泡は徐々に形を変え、佐藤の眼前には異様な微笑みを浮かべた赤い瞳が現れた｡

佐藤は身を震わせながら後ずさり、水面から飛び出す。

泡はすぐに水面から消え、佐藤は呆然とした表情でバスタブを見つめる。

その夜、佐藤は悪夢にうなされ、赤い瞳の泡が彼を追いかけ､ニヤリと笑っていた。

「ふふっ、お前の中に溶け込むよ。もう逃げられないんだぞ」

佐藤は苦しみながら目を覚ました｡

息を荒くしながら、彼は再びベッドに転がった。

しかし､その夜から佐藤は赤い瞳の泡の存在によって悪夢と現実の狭間で揺れ動くことになる｡

佐藤は追う事に、現実と夢の区別がますます曖昧になっていた｡

仕事中でも外出中でも赤い瞳がにやりと笑いかけてくるような錯覚を覚えた。

「いったい何なんだ…なんでこんなことが…」

彼は友人に相田しようとしたが、言葉に詰まり恐怖の中に閉じこもってしまう。

赤い瞳は次第に佐藤の心を侵食していくかのようだ。

悪夢はエスカレートし、夢の中で泡は佐藤のまるで蛇に絡まるようにからまり、その身体をじわりと溶かし始める。

「お前の内側にはもう何も残らない。すぐに私になるんだよ」

佐藤の痛みと苦しみが現実にも波及し､彼の表情は日増しに疲れ、恐怖に歪んでいく｡

赤い瞳の泡の支配がますます強まっていく中、佐藤は絶望の淵に立たされていた｡

佐藤は日ごとに苦しみに耐えながら、赤い瞳の泡が次第に彼の心を支配していくのを感じる｡

「なんなんだよこれは…」

佐藤は夢と現実の境界がますますぼやけ、佐藤は仕事でも友人との交流でも､赤い瞳の泡の姿を見逃すことができなかった。

「やめろ…お前は何者だ?」

泡は佐藤の心に潜み、痛みとともに彼を追い詰めていく。

佐藤はその苦しみに耐えながらも､徐々に正気を失っていった。

「助けてくれ…なんでこんなことに…」

彼の叫び声は空虚なホテルの部屋にただよっていく。

夜毎、佐藤は赤い瞳の泡に追い詰められ、悪夢の中で何度も溶け込まれそうになった。

「なんでこんなにも苦しまなきゃならないんだ…何故…」

しかし、赤い瞳の泡は嘲笑うように佐藤に囁く。

「お前はもう私なんだよ。もはや抗うことはできないんだよ｡これがお前の運命さ」

佐藤の叫び声はますます絶望に染まり、彼の意識は狂気に蝕まれていく｡

部屋中に響く苦悶の声は、赤い瞳の泡の支配下で苦しむ男の絶望の叫びと化していた｡

しかし､その時、佐藤の悲鳴に混じりあった別の声が部屋に響き渡る。

それはホテルの従業員が近寄ってくる音だった｡

「何かお困りですか?」

佐藤の目が泡と一瞬重なるようにして、彼の心の底から絶望の声が漏れ出す。

すると赤い瞳の泡は彼の中に消えてしまったかのように静まり返った。

「大丈夫ですか?お部屋に異常があるとのご連絡がありまして…」

佐藤は呆然とした表情で部屋を見つめ､何が起きたのか理解できないまま､ホテルスタッフに頷く｡

彼の心の奥底には、赤い瞳の泡の存在がまたひとつ深く根付いていくのだった。

ホテルスタッフが去った後､佐藤の部屋は再び静まり返り、彼の心に不気味な静けさが広がっていた。

「もう…もう何なんだろう…」

彼は部屋中を歩き回り、赤い瞳の泡の姿が再び浮かび上がることを恐れながらも、避けることがどうあがいてもできない。

「お前はもう私。抗うことなどできない｡これがお前の運命だ」

佐藤は泡の言葉に頭を抱えながら、どれだけ逃れようとも、その存在から逃れることができないことを痛感していた。

「お前は何者だ?なんでこんな目に遭わなきゃならないんだ?!」

泡は微笑みながら、佐藤の心の中に深く染み込んでいく。

「私はお前の中に住む存在。お前が望んでいたものさ。永遠の安息を」

「安息?こんなのが望みだったら…そんな筈ないだろ!!」

泡は佐藤の周りに渦巻くように姿を変え、彼を取り巻く。

その瞬間部屋の中が一瞬で、恐怖の場所へと変わり、佐藤は悲鳴をあげる。

「お前はもう逃れられないんだよ、絶対に。私がお前の中に住み着いていく。永遠に」

佐藤の意識は急速に混濁していき、彼の姿も見る影もなくなっていく。

ぶくぶくぶく…。

「絶望と安息､どちらを選ぶ?」

佐藤はその問いに応えることもなく､彼の存在は完全に赤い瞳の泡に呑み込まれた。

最後の瞬間、部屋には佐藤の悲鳴と､それを迎え入れるかのような赤い瞳の泡の微笑みだけが響いていた。

そして、ホテルの一室は再び静寂に包まれ、何事もなかったかのように夜が過ぎていく。

その後、佐藤の部屋では赤い瞳の泡が消え去り、ただのホテルの一室に戻るが､誰もがその部屋に近づくことを避け、その閉ざされた空間には地獄のような空間がひっそりと漂い続けた。