流星痕

サヤ

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転の流星

決闘場

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 牢屋から延びる、長い通路の突き当たりにある昇降機に数秒程乗っていると、聖なる祠にある物と同じ材質の、重層な扉が目の前に現れた。
 先行するローマー達に従い近付いていくと、扉はひとりでに開き、来訪者を中へと招き入れる。
 奥に広がっているのは、屋根がドーム状にアーチを描いた巨大な広場。
 その中央には面積いっぱいに広がる舞台があり、そこで死闘が繰り広げられている真っ最中だった。
 かたやほぼ人型、かたや赤龍そのもので、まるでバスターと邪竜の戦いを見ているようだ。
 一見すると、赤龍の方が優勢に見えるが、人型ローマーは身体の小ささを巧く利用して相手を翻弄し、隙を突いて相手の急所に鋭い一撃を喰らわした。
 それだけで勝負はついた。
 そう思われたが、赤龍は絶叫しながらも最期の力を振り絞り、人型ローマーの腸を喰らい裂いた事で、二人は共に絶命した。
 そして二人の身体は雷と炎、それぞれの元素へと還っていった。
 その間、舞台脇に立つお互いのローマーは歓喜する事も、嘆く事もせず、ただ無表情に見つめていた。
「……」
 ボレアリスも何も言えずにその光景を見ていると、すぐに手錠が外された。
 拘束を解かれた直後、身体が軽くなり、抑えられていた魔力が戻るのを感じる。
 しかし、義手の調子は悪いようで、無意識のうちに具現化されていた右腕が不安定にぶれている。
 意識して魔力を込めてみても、それは変わらなかった。
 ……どこか壊れたか?こっちをメインで戦うのは、ちょっと危険かな。
 ぼんやりと腕を眺めていると、ローマーが没収していたエラルドの腰刀を手渡してきた。
「行ケ」
 広場に目を戻すと、舞台中心には新しいローマーが立っている。
 向こうの方が、龍に近い形をしてる。やっぱり、シェアトが言ったとおり、新旧の派閥争いか。……仕方がない。
 ボレアリスは腰刀を受け取り身に付け、広場に立つローマーと向き合うと、重厚なドラの音が鳴り響いた、筈だ。
「―ごぼっ!?」
 ドラの音が耳に届くか届かないかの刹那、視力と聴力が歪んだ。
 一瞬、何が起きたのか理解出来なかったが、自分の口から大量の気泡が漏れ出たのを見て、水中にいる事が分かった。
 どうやら敵は、空気中に含まれる水分を凝縮させて、ボレアリスを閉じ込めたようだ。
 しかも厄介な事に、その水がだんだんと硬く強張ってきている。
 まずいっ!
 危険を察知したボレアリスは、急いで水中の空気を身体に纏う。
 その直後、ボレアリスを囲った水は完全な氷へと変質したが、空気を身体に纏った事で自身は凍る事なく、容易に壊す事が出来た。
「ごほっ、ごほごほ……」
 不意に飲み込んでしまった水で咽せるが、気を抜かずに相手の様子を伺う。
 危なかった……。相手は水使いか。……それなら!
東風こち
 右腕のハルピュイアを解き、腰刀を抜き払い、身体全体を風で包み込む。
 黒竜と戦う時の基本的なスタイルだ。
 黒竜には先のように水の質量を変えるだけでなく、その性質まで変える者も存在する。
 最も厄介なのは毒液で、その効果は千差万別であり、直に触れるのは御法度だ。
 ローマーが相手なら、同じ対処をして注意した方が良い。
 さっきのはただの水だったけど、油断は禁物。次はこっちから仕掛けてみるか。
「お返しだ!」
 ボレアリスは、自分の周りに散らばっていた氷の残骸を風で巻き上げ、ローマー目掛けて撃ち放つ。
 ローマーはそれに毒液を吐きかけて容易く融解させる。
 しかし、ボレアリスが放ち続ける突風によって、自身が吐き出した毒液と、溶けきっていない氷の飛礫を正面から喰らい、少なからずも怯んだ。
 やっぱり毒を使うか。ま、本人には効かないんだろうけど。
 ボレアリスは相手に生まれた隙を見逃さず、一気に間合いを詰める。
清風明月閃せいふうみょうげっせん
 小さな竜巻を纏わせた腰刀を逆手に持ち、三日月を描くように下から上へと斬りつける。
「ガァア!」
「ぐっ……!」
 刀による斬激と、追走する疾風は、確実にダメージを与える。
 しかし同時に、ローマーの傷口から水飛沫があがり、その水滴が東風の隙間を縫ってボレアリスの腕に飛散し、焼け付くような痛みが走った。
 だが、そこで攻撃を止める事はせず、落としそうになった腰刀を順手に持ち替え、腰を低く落とし腕を目一杯引く。
旋風槍せんぷうそう
 刀に帯びた風の回転速度を各段に上げ、腹部に狙いを定めて一突きする。
「ガゥッ!」
 先ほども感じたが、ローマーの肉体は非常に硬く、内面は弾力があり刃を押し返す力が強く貫通する事は無かったが、それでも連撃で相当な深手を負わせる事が出来た。
 もちろん、敵もそれだけでは終わらず、懐にいるボレアリス目掛けて、毒液を滴らせた左腕を振り下ろしてきた。
 ボレアリスは義手で盾を創りそれを防ごうとするが、やはり調子が悪いのか強度が低く、かつ敵の攻撃が想像以上に重かった為、横になぎ倒されてしまう。
「ぐっ」
 おかげで肩を強かに打ち付け、すぐには起き上がれない。
 ローマーの追撃があるかと予想していたが、
それはやって来なかった。
 ローマーの傷もかなり深く、片膝を付き、薄く光る手を傷口に当てていた。
 いくらローマーの回復力が早く、かつ治癒術を施したとしても、完治にはかなりの時間が掛かる筈だ。
「……」
 ボレアリスは、これ以上の戦闘は不要と判断し、腰刀を鞘に納める。
 痛みが走る左腕を見ると、毒液が当たった部分が火傷を負ったように赤く爛れていた。
 たった数滴でこれか。東風を纏っていなかったら、下手したら腕が落ちてたかもな。
 それを想像しただけで震えが走る。
 ボレアリスは右腕の人差し指の部分だけを小型ナイフに変形させ毒抜きをし、簡単な治癒術を掛ける。
「痛みを取り除け。レリーフ」
 緑色の癒やしの光が傷口を包むと、徐々に痛みが引き、爛れていた皮膚が再生する。
 ボレアリスが使えるのは初歩的な治癒術の為、完治には至らないが、それでも持ち前の回復力も合わさって数日もすれば痕も残らず治るだろう。
 ふぅ、と一息つくと、突然、悲痛な叫び声が上がった。
 見ると、今戦っていたローマーが頭を抱えて苦しそうにのた打ち回っており、彼の周りには、幾度か見た、蒼い炎が踊っていた。
 それを作り出していたのは、彼の味方であるローマー達だった。
「あいつら、何を……?」
 止めようと近付こうとしたが時既に遅く、苦しむローマーの瞳は正気を失い、その肉体も恐るべき邪竜へと堕ちていった。
「マダダ。戦エ」
 炎を操るローマーに応えるように、邪竜は大きく咆哮する。
 こうなってしまっては、もう誰も彼を救う事は出来ない。
 ただ一つの方法、死という命の終わりを迎えるまでは……。
「くそっ!」
 歯痒い思いを抱えたまま、ボレアリスは目の前の哀れな邪竜と対峙する……。


 ―邪竜との死闘を終えたボレアリスは、肩で荒く息をしていた。
 目の前で邪竜を産ませてしまった苛立ちと悔しさから、いつもより無茶苦茶な戦い方をしてしまった。
 おかけで、普段は負わないような怪我までして、あちこち出血している。
 今のこの感情は、国や大切な人を失ってしまった、幼いあの日に抱いた物によく似ている。
 そんな思いをする羽目になった相手方のローマーを睨み付けてみるが、彼らは今し方起きた事にはまるで興味が無いようで、次は誰が行くかを淡々と話し合い、新たなローマーが舞台へと上がってきた。
 勝てなければ用無し。敗者は聖霊になる資格すら無いっていうのか?……良いだろう。
 ボレアリスは一つ大きく息を吐き、腰刀を逆手に持ち、右腕は刃を極限まで薄くし、高速回転によって起こる摩擦音がする細長い刀―ハルピュイアを創り構える。
「勝つか死しか選べないのなら、せめて誇り高き戦士のまま、逝ってくれ」
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