流星痕

サヤ

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承の星々

頑なまでに

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 夜の帳が完全に降りた頃、グラフィアスは大衆食堂からほど近い所にある宿屋に身を寄せていた。
 隣に、不愉快な存在を添えて。
「なー、おい坊主。さっきからなんで無視すんだよ?」
「……」
 人の寝室に入り浸っている男とは一切顔を合わせず、机に向かう。
 たしか名前は、ベナトシュといったか。
 昼間の騒動で別れてから、皮肉にもこの宿屋で再会してしまった、あの女の仲間。
 ポエニーキスの出身と言う割には妙な格好をしており、シンボルカラーである赤の配色も、無いに等しい。
 よほど身分が低いか、あるいは異端や犯罪を犯した者か。
 どちらにせよ、不愉快な存在だ。
「ここは俺の部屋だぞ」
 苛ただしげに言うが、ベナトシュはお構いなしだ。
「いーじゃんよ別に。隣同士なんだし、一人でいてもつまらないだろ?つーかそれ、直さなかったのか?」
 グラフィアスの後方に目線を送るベナトシュ。
「良い鉄が無かったんだ」
 机の上に並んで置かれているのは、折れたままの大剣。
 鍛冶屋には行ったものの、気に入った鉄を使う事が出来ず、そのまま持ち帰ったのだ。
「だったら俺のを分けてやろうか?けっこう良いの持ってるんだ」
「誰がお前の手など借りるものか。だいたい、馴れ馴れしいぞ」
 にべもなく彼の好意を跳ね返す。
 彼に、こんな風に友好的にされる理由が無い。
 むしろ、敵のはずだ。
 しかし当の本人は相変わらずの口ぶり。
「あ~、なんでかねえ。お前みたいなの見ると放っとけないんだよな。ま、性分だな。……あ、あとあれだ。お前似てるんだよ、初めて会った時のアリスと」
「あいつと?」
「そ。いかにも近付くなオーラ出してツンツンしちゃってさ。そんなんじゃ、まともな成長は出来ないぞ、少年」
「……」
 ガタ、と音を建てて立ち上がり、荷物を纏め始める。
「何やってんだ?」
「出て行くんだ。あんたが出て行きそうにないからな」
「何怒ってんだよ?」
 完全な子供扱いで、気に入らない。
 理由なんてそれだけで十分だ。
 俺があいつと同じだと?舐めやがって。そんなに自分は強いというのか。
「まさかお前、宿取っておきながら野宿するってんじゃないだろ?」
 ベナトシュの声が背中越しに聞こえるが、応える気などさらさら無い。
「これ以上あんたと一緒にいるくらいなら、そっちの方が何十倍もマシだ」
 そしてドアノブに手を掛けようと手を伸ばした途端、
「―ベナト兄!」
「っ!?」
 緊迫した若い声と共に、反対側からドアが思いきり開けられた。
 そのせいでグラフィアスは、手と額をドアに強打した。
 もしこれが角だったら流血ものだ。
「うわっ。ごめんなさい」
 片手で額を押さえ悶絶するグラフィアスに、あまり心の籠もっていない謝罪が投げかけられる。
 指の隙間からその人物を見ると、またも知った顔だ。
 若草色のボサボサ髪に、新芽のような色をした瞳を持つ少年。
 名前は知らないが、昼間に暴れていたらしい『台風小僧』
 こいつも、あの女の連れだ。
 クソ、あいつと関わってからロクな事がない。
 心の中で毒づくグラフィアスとは違って、ベナトシュが明るい口調で声を掛ける。
「うわ、痛そうだな。大丈夫か?んでルク坊。そんな急いでどうしたんだ?アリスは一緒じゃないのか?」
 その言葉で用事を思い出したようで、ルク坊と呼ばれた少年は再び慌てだす。
「そうだベナト兄!そのアリスが大変なんだよ」
「だからどうした?」
「蒼竜を見つけたって、一人で出て行っちゃったんだ」
 蒼竜?
「はっ?蒼竜って、あの?どーせガセだろ?」
「ウソじゃないよ!さっき鷹が教えてくれて、それでアリス、その鷹について行っちゃったんだから」
 必死な訴え。デタラメでないとしたら、あの蒼竜が近くに、いる?
 ベナトシュも真剣な顔付きになり、窓を開けて外を見つめる。
「……確かに、動物達も騒がしいな。ルク坊、アリスがどっちに行ったか分かるか?」
 そこへきて、少年は申し訳なさそうに肩を落とした。
「そ、それが……すぐに行っちゃったから分からないんだ。オレはまだ空を飛べないから、追いかける事も出来ないし」
「そうか。ん~、となるとまずは、協会に報告して……ておい?何してんだ、坊主」
 無言のまま、武器を手に部屋を出て行こうとしたらベナトシュに気付かれてしまった。
「まさかお前、行く気じゃないだろうな?」
「だったら何だ?」
「そんな壊れた武器持ってか?死にに行くようなもんだぞ」
 確かに。グラフィアスの大剣は折れたまま。
 このまま蒼竜に立ち向かっても、勝てるとは思えない。
 それでも。
「うるせえ!いちいちガキ扱いするな!」
「うわっ」
 グラフィアスはベナトシュの衣服に火を放ち、その場を飛び出す。
「てめ、いきなり何しやがる!おいルク坊、早く消せ!てバカっ、風起こしてどーすんだ!あちゃちゃちゃ……」
 ベナトシュの悲鳴が聞こえるが、構わず走る。
 バカにしやがって!俺にはまだこの火がある。相手が風なら、俺だって!


『グラフィアス。お前はまだ子供だ。それに、火の扱いも剣の技も、まだまだ未熟だ。大人しく待っていなさい』
 風の王国グルミウム襲撃の際、自分も連れて行くよう頼んだ時に言われた、父の言葉。
 確かに、あの時のグラフィアスはまだ幼く、何もかもが未熟だった。
 しかしあれから五年もの月日が経ち、武器も一人で作れるようになった今なら……。
 今の俺なら、やれる。さっきは負けたが、次こそは……!
 風を倒す。
 その思いを胸に、グラフィアスはただ真っ直ぐ前だけを見据え、夜の街中を駆け抜ける。
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