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神獣国

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 ファシャール国までの移動は魔導飛行船を勧められたが、あんな巨大な飛行船をたった二人の為に動かすのは気が引けて馬車移動を希望する。
 朝早くに出発をして、一晩野宿を挟み翌日正午ごろ神獣国の入り口となる山麓に到着した。
 洞窟の入り口には門番が二名と、白の軍服を纏い、横分けされたパステルカラーの虹色の髪を横に撫で付け、前頭に立派な角が生えているユニコーンの獣人が立っていた。

「遥々、遠くのネルザンドからお越し下さりありがとうございます。案内を勤めますアレクシスと申します、どうぞお見知りおきを」

「私はネルザンド第15王子セオドールと申します。こちらは妃のルカになります、お世話になります」

 セオに紹介され、右足を引いて会釈をする。洞窟を進むと魔法陣の描かれた場所に案内された。

 ファシャール国は標高10.000mの山頂にあって、この転移装置で移動できるそうだ。
 何を隠そう、この転移装置はネルザンドの頭脳と呼ばれるヒネク博士の発明品で、以前は何ヶ月かおきに魔法陣を組み直したりと手間がかかったそうで、大昔は魔導エレベーターやペガサスの馬車で他国の来賓を運んだこともあった。
 神獣国の民は魔力が強いので酸素濃度が低くても生活できるらしいが、他国の人種には難境らしい。今は常時酸素を送るネルザンド産の装置が稼働していて不都合はないそうだ。

 なんでも陸地に都を築いていた頃は、神獣の民の魔力を狙ってか人攫いが頻発して、仕方なくこの地に移ったと教えてくれた。

 魔法陣に三人が入ると、アレクシスが呪文を唱えた。辺りが光に包まれたその刹那、景色が一変した。

 小さなほこらの近くに転移されて周りを見渡すと。

 見たことのないような草木と花々が咲き乱れ、遠くにみえる建物はパステルカラーで統一されているように見えた。

 まるでキ◯ララのような配色だ!全体にもやがかかっている感じがキキ◯ラのもくもくの輪郭をイメージさせる。

 琴線に触れる景色のなか、春先のような心地よい風が吹いている。
 セオの黒髪が靡いて、紺青色の瞳はいつもより穏やかに見える。

「今日は霧が出ているんですね」

「この国は霧の都と言われ、一年の殆どが霧に包まれます。高所であるがゆえの水蒸気の他に、神獣の魔力が膨大で魔素(魔力の元)が溢れだしたものが混ざっています」

 へぇー、と感心していると。

「このまま来賓の間にご案内致します。ランチは女王陛下と共に昼食会を予定しております。食後休憩後、王都内観光へ赴くのはいかがでしょうか?大きな動植物園もございますよ」

 セオと顔を見合わせて頷きあう。

「ぜひお願い致します」

 アレクシスは感じのいい人だと思った。女王陛下はメス鹿の獣人で華美で厳威ある美しさを放っている。会話も投げかけてくださり、和やかな雰囲気だった。昼食会の短い時間の謁見も、僕らに気を使わせない配慮だと思う。

       ☆

 食休み後三人は、宮殿や各省庁、大聖堂等を見学し博物館ではこの国の歴史について教授された。それらの建物はインドの宮殿のような大きく立派な玉葱のようなドーム状の屋根を乗せていて、当然パステルカラーだ。

 民も国民登録をすると魔法で髪色や服装等の見た目がパステルカラーに見えるらしい、外部からの侵入者をすぐに判断する為だとか……。観光者は、国の紋章が入った胸章を着用する。

 街には空を飛んでいるパステルピンク色のハーピー(女面鳥身)、ミントブルー色のペガサス、地上にはパステルグリーン色のカラドリオスの群れが列にならって歩いている、首袋はパステルパープル色だ。

 一行は植物園へ。

 入り口のアーチにはミニ薔薇が咲いていて、天使の……飾りじゃなく本物がいる!ウインクで迎え入れてくれる。巨大な温室を入れば見たことがないような草木、花が咲き誇っている。

「この国には神獣、聖獣以外にも幻獣、魔獣の類も生息してします。修行で山間に行く機会がありますので、この動植物園で危険な個体について少し説明致しますね……」

 ぼーっ、とアレクシスの話を聞いて歩くと、バナナのような木があった。良く見ると先端にある青い部分が横縞状に何本も入っていた。しっかりと太く実っていて美味しそうだなと思いながら見やると、バナナの房から一本手の届く範囲まで伸びてきた。

 え!食べて良いってことかな?手を伸ばそうとした瞬間。

「触れてはだめです!その実は食べたら幻覚を見ます!看板に書いてあるでしょ?」

 少し前まで穏やかに話していたアレクシスの態度が一変する。
 看板をよく見ると『触れると危険……』と書かれていた。

 猫耳を伏せて「ごめんなさい」としょんぼりする。
 そんな僕を見てセオは吹き出しそうになるのを堪えている。



 中央の広場には、花壇がまるでシャンパンタワーのように高く整然と並べられ、咲き乱れた花達は噴水のごとく吹き出しそうなほど色鮮やかで生き生きしている。

 セオと繋いでいた手を引き、魅入られるよう近づくと、大輪の花の花弁の先に蝶々が止まっていたのでよく良く眺めていると……蝶々ではなく小さな妖精だった。
 その刹那、妖精は大輪に包み込まれ。食虫花か!?と驚愕していると、中から妖精が出てきて「心配させてごめんなさい、この子いたずら好きなの」と鈴が鳴るような可憐な声で微笑んだ。その様子を見てセオは目を瞠り、僕は、ほっと胸を撫で下ろした。

 隣接している動物園には8000種の動物が展示されているという。野鳥園には大きなフェニックスがおり、パステルカラーの虹色の羽を広げ、ひときわ威光を放っていた。
 ドラゴン、キマイラ、ヒドラなど上級の魔獣は厳重な檻の中に展示され、生態の説明をアレクシスから受ける。山間に生息しているので遭遇しても交戦はせずに逃げ切るよう律せられた。
 他にどうしても気になる事があり尋ねてみる。
 
「この国では飼い猫は存在しますか?」

「勿論おります。猫は神と讃える者もいて、アビシニアン、エジプシャンマウといった種の猫が飼われています」

 二ヶ月ほど、この国に滞在するので街角で猫に会えたら嬉しいなと思いを馳せながら帰途につく。

 


 

 


 
  
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