32 / 57
グリン
しおりを挟む体を包み込む暖かさと、爽やかな香りが鼻をくすぐる。あまりの気持ちよさに全身の力が抜け、つい声が漏れてしまう。
「「あ゙~」」
風呂を考えた人は天才だと思う。二人で湯船にだらしなく寄りかかり、無言で風呂を堪能する。
もちろん、ちゃんと体を洗ってから入ってる。なぜか勇護はシャンプーとリンスを持ってた。この世界来てから初めて会った時も傷薬とタオル持ってたし、多分あの小さな神様にもらったんだろう。あ、そうそう、流す場所も貯める場所もないなら、吸収しちゃえば楽じゃないかと、適当に想像した洗い場はしっかりと機能してくれた。
手持ち無沙汰になってきた僕は、すぐそこでぷかぷかとお湯に浮かぶ果実を揉む。特に意味があったわけじゃないけど、こうすると爽やかな香りが一層強くなった。うん、匂いは完全にレモン。
この果実は、森から街に戻る途中で見つけた。茶色い木が多い中、一際目を引く白い木に、日本人が見たら食べ物じゃないと思うほど、真っ青な実がなっていた。
あまりに毒々しい色、それも見たことない実。好奇心のまま近づこうとして、異世界の毒かもと一応、触る前に鑑定してみたら、毒でもなんでもなかった。ただ酸味の強い果実なだけ。それで、毒がないならといくつか採ってきた。
入浴剤がないし、代わりに何か入れてみようと、試しにこの実を湯に入れてみたんだ。そしたら、なんと無臭だった筈の実が、スッキリとしたレモンの香りがするようになった。窓を開けてたおかげで、今は部屋いっぱいに爽やかな香りが漂っていて、とても落ち着く。
「風呂上がりも、もちろん最高なんですけど、風呂入りながらでもありだと思うんです」
「いきなりなんの話?」
天井をぼーっと眺めてた勇護が急にこちらを向いて話しかけてくる。脈絡がない。風呂上がりといえば、牛乳、コーヒー牛乳、フルーツミックスこの三つしか出てこない。
「アイスクリームですよ」
「あー……そうだね」
忘れてた。
「ということで、今から創って食べません?」
「うん、いいよ」
たしかに勇護の言う通り、湯船に浸かったまま食べるのはありだ。わりと適当でも創れることがわかったのでパパッと想像していく。試しに空中に創ってみる。バグ状態だと浮いたままで、手を鳴らすと、落ちてきた。
あっぶな。スプーン落とすところだった。勇護は大丈夫かなと見てみると、危なげなくキャッチしたみたいだ。落ちて来るまで見えてなかったはずなんだけどなぁ。
「味の保証はしないよ」
「大丈夫です。美味しくなかったら美味しくなるまで創ってもらうので」
えぇ……。それ僕が大丈夫じゃないやつ。
応援ありがとうございます!
20
お気に入りに追加
32
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる