64 / 98
第3章
ヨーケバ城跡の悪魔 5
しおりを挟む
ヨーケバ城跡を目指す荷馬車が、一番南を流れるキーツ川の橋を渡りしばらく進んだころ、おキクの座る横で丸くなっていたミーコが、おキクの肩にひょいと飛び乗った。
「魔物を検知。灰色狼5体です」
ミーコがおキクの耳元でこっそりと告げる。
「なかなか有能なネコだな」
ミーコの警告におキクが反応するより早く、ターニャがおキクを見ながら笑いかけた。
「え?」
おキクが驚いたように振り返る。
「馬車を停めてくれ。どうやらお出迎えのようだ」
言いながらターニャは、荷車の縁を乗り越えてサッと飛び降りた。
「まずはオレの戦い方を見せる。本番までにフォローの仕方を各自考えておくように」
ターニャは荷馬車に残るアイたちに、右手の親指を立てながら笑いかける。それから左足を前に足を前後に開くと、上半身を前に傾けた。
「瞬雷!」
声と同時に、ターニャの足下に魔法陣がパッと広がる。その瞬間、ターニャの両足からパリッと電流が迸った。
「剛雷!」
続いて発したターニャの声に、両手の手のひらの上に魔法陣が浮かびあがる。その魔法陣を握りこむように拳を握ると、ターニャの拳からバチバチと稲妻が弾けた。
「まばたき厳禁、よーく見とけよ!」
パリッと稲妻の余韻だけを残して、ターニャの姿が一瞬で消え去った。
~~~
荷馬車は再びヨーケバ城跡を目指して進み出す。
ターニャの戦いは、正直目で追えなかった。
視界の向こうに姿を現した5体の灰色狼の元に一瞬でたどり着くと、最初の一撃で1体の灰色狼の身体が消滅する。
残りの4体がターニャ目掛けて襲いかかるが、突然その姿を見失った。灰色狼は困惑したようにキョロキョロとするが、直後にもう1体が影と化す。
警戒した灰色狼は後方に飛び退いて散開する。しかしそのうちの1体は、着地をする暇もなく空中で弾けとんだ。
攻撃の瞬間だけ、まるでコマ送りのようにターニャの姿が現れる。
アイもおキクもフランも、援護はおろか、声を発する事さえ出来なかった。
残った2体の灰色狼が逃走を開始する。好戦的な魔物が逃走することなんて殆ど無い。魔物の本能を持ってしても、ターニャの存在は恐怖であった。
しかし2体の逃走先に既に回りこんでいたターニャによって、半ばカウンター気味に強烈な打撃を入れられる。
2体の灰色狼の身体は、なすすべも無く一瞬で消しとんだ。
(この人に…フォローなんているのだろうか?)
アイたちは口をポカンと開けたまま、只々呆然とその戦闘を眺めていた。
~~~
「あの、ターニャさんの職業は何ですか?」
再び荷馬車に揺られながら、アイがターニャに質問する。
「ああ、オレは魔拳士だ」
「魔拳士?」
「そーだなぁ、分かりやすく言うと、魔法で肉体を強化して戦う格闘家だな」
「え?じゃあ、武器は持ってないんですか?」
「オレの武器はコイツだけだ!」
そう言って拳を握りしめると、ターニャは口を開いて「ニカっ」と笑った。トレードマークの八重歯が可愛くのぞく。
「はー、カッコいい」
ターニャを見るアイの瞳がキラキラと輝いた。
「まあ、お前らに無茶をさせるつもりなんか全く無いけど、何があるか分かんねーから気持ちだけは切らすなよ」
「はい、師匠!」
アイがビシッと敬礼する。
「お、いいねー」
ターニャはアイのおデコをコツンと小突くと「期待してるぜ」と楽しそうに笑った。
前の席で一連のやりとりを聞いていたおキクとフランは、顔を見合わせるとやれやれと苦笑いした。
荷馬車の進むその先に、2本目の川「ウジル川」が姿を現す。
その川向こうにある小高い丘の上に、ヨーケバ城の廃墟が徐々に見え始めていた。
「魔物を検知。灰色狼5体です」
ミーコがおキクの耳元でこっそりと告げる。
「なかなか有能なネコだな」
ミーコの警告におキクが反応するより早く、ターニャがおキクを見ながら笑いかけた。
「え?」
おキクが驚いたように振り返る。
「馬車を停めてくれ。どうやらお出迎えのようだ」
言いながらターニャは、荷車の縁を乗り越えてサッと飛び降りた。
「まずはオレの戦い方を見せる。本番までにフォローの仕方を各自考えておくように」
ターニャは荷馬車に残るアイたちに、右手の親指を立てながら笑いかける。それから左足を前に足を前後に開くと、上半身を前に傾けた。
「瞬雷!」
声と同時に、ターニャの足下に魔法陣がパッと広がる。その瞬間、ターニャの両足からパリッと電流が迸った。
「剛雷!」
続いて発したターニャの声に、両手の手のひらの上に魔法陣が浮かびあがる。その魔法陣を握りこむように拳を握ると、ターニャの拳からバチバチと稲妻が弾けた。
「まばたき厳禁、よーく見とけよ!」
パリッと稲妻の余韻だけを残して、ターニャの姿が一瞬で消え去った。
~~~
荷馬車は再びヨーケバ城跡を目指して進み出す。
ターニャの戦いは、正直目で追えなかった。
視界の向こうに姿を現した5体の灰色狼の元に一瞬でたどり着くと、最初の一撃で1体の灰色狼の身体が消滅する。
残りの4体がターニャ目掛けて襲いかかるが、突然その姿を見失った。灰色狼は困惑したようにキョロキョロとするが、直後にもう1体が影と化す。
警戒した灰色狼は後方に飛び退いて散開する。しかしそのうちの1体は、着地をする暇もなく空中で弾けとんだ。
攻撃の瞬間だけ、まるでコマ送りのようにターニャの姿が現れる。
アイもおキクもフランも、援護はおろか、声を発する事さえ出来なかった。
残った2体の灰色狼が逃走を開始する。好戦的な魔物が逃走することなんて殆ど無い。魔物の本能を持ってしても、ターニャの存在は恐怖であった。
しかし2体の逃走先に既に回りこんでいたターニャによって、半ばカウンター気味に強烈な打撃を入れられる。
2体の灰色狼の身体は、なすすべも無く一瞬で消しとんだ。
(この人に…フォローなんているのだろうか?)
アイたちは口をポカンと開けたまま、只々呆然とその戦闘を眺めていた。
~~~
「あの、ターニャさんの職業は何ですか?」
再び荷馬車に揺られながら、アイがターニャに質問する。
「ああ、オレは魔拳士だ」
「魔拳士?」
「そーだなぁ、分かりやすく言うと、魔法で肉体を強化して戦う格闘家だな」
「え?じゃあ、武器は持ってないんですか?」
「オレの武器はコイツだけだ!」
そう言って拳を握りしめると、ターニャは口を開いて「ニカっ」と笑った。トレードマークの八重歯が可愛くのぞく。
「はー、カッコいい」
ターニャを見るアイの瞳がキラキラと輝いた。
「まあ、お前らに無茶をさせるつもりなんか全く無いけど、何があるか分かんねーから気持ちだけは切らすなよ」
「はい、師匠!」
アイがビシッと敬礼する。
「お、いいねー」
ターニャはアイのおデコをコツンと小突くと「期待してるぜ」と楽しそうに笑った。
前の席で一連のやりとりを聞いていたおキクとフランは、顔を見合わせるとやれやれと苦笑いした。
荷馬車の進むその先に、2本目の川「ウジル川」が姿を現す。
その川向こうにある小高い丘の上に、ヨーケバ城の廃墟が徐々に見え始めていた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます
tera
ファンタジー
※まだまだまだまだ更新継続中!
※書籍の詳細はteraのツイッターまで!@tera_father
※第1巻〜7巻まで好評発売中!コミックス1巻も発売中!
※書影など、公開中!
ある日、秋野冬至は異世界召喚に巻き込まれてしまった。
勇者召喚に巻き込まれた結果、チートの恩恵は無しだった。
スキルも何もない秋野冬至は一般人として生きていくことになる。
途方に暮れていた秋野冬至だが、手に持っていたアイテムの詳細が見えたり、インベントリが使えたりすることに気づく。
なんと、召喚前にやっていたゲームシステムをそっくりそのまま持っていたのだった。
その世界で秋野冬至にだけドロップアイテムとして誰かが倒した魔物の素材が拾え、お金も拾え、さらに秋野冬至だけが自由に装備を強化したり、錬金したり、ゲームのいいとこ取りみたいな事をできてしまう。
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
辺境の最強魔導師 ~魔術大学を13歳で首席卒業した私が辺境に6年引きこもっていたら最強になってた~
日の丸
ファンタジー
ウィーラ大陸にある大国アクセリア帝国は大陸の約4割の国土を持つ大国である。
アクセリア帝国の帝都アクセリアにある魔術大学セルストーレ・・・・そこは魔術師を目指す誰もが憧れそして目指す大学・・・・その大学に13歳で首席をとるほどの天才がいた。
その天才がセレストーレを卒業する時から物語が始まる。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる