中2女子が夏休みに、異世界を救うことになりました!〜RPGにようこそ〜

さこゼロ

文字の大きさ
上 下
65 / 98
第3章

ヨーケバ城跡の悪魔 6

しおりを挟む
ヨーケバ城跡には城だったころの面影は殆どない。大きな石を積み上げた基礎の部分や石造りの厩舎などによって、かつての名残りが伺えるだけである。

ウジル川と並走しながら、荷馬車は次の橋を目指して進む。

ヨーケバ城跡のある小高い丘の麓に、目指す橋の姿が見え始めた。

「上空に魔物を検知。火炎鴉3体です」

ミーコは遠慮せずに声を出した。既にバレたのなら隠しても仕方がない。

火炎鴉。石撃鴉よりも一回り大きな黒い鳥の魔物である。

一同が空を見上げると、火炎鴉3体が同一円状でゆっくりと旋回を続けていた。

恐らくはこちらに気付いているが、現在は高みの見物でもしているのだろうか。一向に攻撃をしてくる気配はない。

ターニャの指示に従い、荷馬車を川辺の樹の下に停めると、全員で馬車を降りた。

「ひとつ、大事なことを言うぞ」

ターニャが真剣な表情で皆の顔を見回す。

「さすがのオレも空は飛べない」

「……え?」

アイたちは虚をつかれポカンとした。

「ま、ソコはなんとかするけどな」

そう言ってターニャは、八重歯を見せて「ニカッ」と笑った。

   ~~~

「カタパルトを使えば、空にも攻撃出来るよね?」

おキクがミーコに顔を向けた。

「空中でのカタパルトは移動に制約が付きます。相手が複数いる場合は賛成しかねます」

「う…」

ミーコの返答に、おキクは言葉に詰まる。

「攻撃きます!」

その直後に、ミーコが警告を発した。

3体の火炎鴉が1列に隊列を組んで降下を始める。そのまま一定距離まで近付くと、石撃鴉と同様に口から火炎弾を吐き出した。

フランが咄嗟に前に出て、盾で全弾受け止めるが、あまりの衝撃に後ろに尻もちをついてしまう。撃ち終えた火炎鴉は、再び上空に舞い上がっていった。

火炎鴉は綺麗な一列編隊を組んでいるため、全ての攻撃が一箇所に集中する。さらに石撃鴉よりも身体が大きいため、撃ち出される火炎弾も比例して大きくなる。フランは何とか全てを弾いたが、その衝撃は計り知れない。

そのうえ弾かれた火炎弾の炎は、すぐには消えずに燃え上がっている。この地が剥き出しの地面であったのが幸いした。緑豊かな草原であったなら、一度燃え移ると地獄と化していたに違いない。

「こんなの何発も受けきれない!」

フランの悲鳴のような声が痛々しく響く。

「いやいや、充分だ」

そのときターニャが、フランの頭を軽くポンポンとはたいた。

「なかなかいい盾だな。あれだけ受けて傷ひとつ付いてない」

そう言ってターニャは、足元の火炎弾のひとつを川の浅瀬に蹴り込んだ。それから火の消えた石飛礫を拾い上げる。

剛雷ガンボルト!」

ターニャが唱えると、握った両手に稲妻が迸った。続いて「瞬雷シエンボルト」を唱えると、両足に電流が駆け巡る。それから野球の投球フォームよろしく、オーバースローで石の飛礫を投げつけた。

電流を帯びた石弾は、空気を切り裂いて真っ直ぐに突き進み、躱す隙も与えずに1体の火炎鴉に命中する。「ゴアッ!」という呻き声とともに、その1体はキリ揉みしながら墜落を始めた。

次の瞬間、ターニャはグッと身を屈めると、稲妻の余韻を残し一瞬で消え去った。同時に墜落していた火炎鴉がバンと弾け飛ぶ。

しかし飛べないターニャは、直後に自由落下に突入した。

2体の火炎鴉は空中で大きく旋回すると、ターニャを攻撃目標に見定める。

「ま、そー来るわな」

ターニャは両手の手のひらを前に突き出すと、電撃を集中させた。すると両手の放電が激しくなり、バチバチと稲妻が迸る。

2体の火炎鴉がターニャに向けて火炎弾を撃ち出したその瞬間、両者の間にフランの盾が割って入り2発の火炎弾を弾き返した。

「ふーーん」

落下するターニャに合わせるように、フランの大盾が付いて来る。それから少し身体を捻って、共に戦うC級冒険者に視線を向けた。

…どうやら思っていたよりも、ずっと役に立ちそうだ。

   ~~~

「フラン」

アイが何かを思い付いたように、ターニャに右手を向けているフランに声をかけた。

「その盾でターニャさんの足場を作れない?」

「…え?」

フランは一瞬戸惑ったが、すぐに意図を理解する。

「乗せて動かすのは無理でも、ただ支えるだけなら出来るかも…」

言いながら、大盾をターニャの足下に移動させた。

   ~~~

「ははっ!」

ターニャは大盾によって突然出来た足場の意図を一瞬で理解した。

「前言撤回。お前らサイコーだ!」

ターニャは身を屈めると再び跳ねた。同時に旋回途中の火炎鴉の1体が弾け飛ぶ。ターニャは再び自由落下に入りながら、最後の1体に目を向けた。

「ここまでヤルとは、全然思ってなかったわ」

ターニャの瞳に映るのは、最後の1体を斬り裂いたおキクの姿であった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

なろう390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑
ファンタジー
〜 報酬は未定・リスクは不明? のんきな雇われ勇者は旅の日々を送る 〜 魔獣や魔物を討伐する専門のハンター『破邪』として遍歴修行の旅を続けていた青年、ライノ・クライスは、ある日ふたりの大精霊と出会った。 大精霊は、この世界を支える力の源泉であり、止まること無く世界を巡り続けている『魔力の奔流』が徐々に乱れつつあることを彼に教え、同時に、そのバランスを補正すべく『勇者』の役割を請け負うよう求める。 それも破邪の役目の延長と考え、気軽に『勇者の仕事』を引き受けたライノは、エルフの少女として顕現した大精霊の一人と共に魔力の乱れの原因を辿って旅を続けていくうちに、そこに思いも寄らぬ背景が潜んでいることに気づく・・・ ひょんなことから勇者になった青年の、ちょっと冒険っぽい旅の日々。 < 小説家になろう・カクヨム・エブリスタでも同名義、同タイトルで連載中です >

処理中です...