キミの次に愛してる

Motoki

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「浩次君の方から連絡すればいい。引っ越す前に、会いに行けばいい。これで最後なんて嫌だと、想いを伝えればいい」

 背を向けて言った裕文さんに、「そうなんですけど」と僕は俯いた。

「僕の腕は、2本しかないから……」



 振り向いた裕文さんの視線を感じる。僕は濡れたタオルを膝に置いて、広げた自分の両手を見つめた。



「大切なものは、あっけなく僕の前から、居なくなってしまうから……。この両手で掴まえて、しっかり握っていないと……僕の前から、消えてしまうから」

 僕の両手には、姉さんの顔が浮かんでいた。

 僕の見ているものに気づいたらしい裕文さんが、再び僕の前に跪いてくれる。

「浩次君……」



 心配そうな声に、顔を、見られない。



「だけど。僕の、この、両手は――。……っ……あなたに……伸ばしたいんです。あなたを、失いたくないんです。あなた、だけは――……」



 だから、先輩には伸ばせなかった。

 先輩に、何も、言うことさえ出来なくて――。



 僕は――……。



 握った両手で、顔を覆う。



 何を言っているのか、自分でも解らない。

 全然頭が、まわってくれなくて――。



 上手く、言えない。






「浩次君……」



 心配そうな声がして、僕の腕を、裕文さんが握った。

「ごめんなさい。……何を、言ってるんですかね、僕。訳、わかんないですよね……。――もう、やだな。先輩が、あんなこと言うから。僕にキスなんて、するから……」



 ――違う。先輩のせいじゃない。

 先輩のせいなんかじゃない。



 だけど。今まで懸命に留めていた想いが、溢れてしまって――。





「……キス、されたの?」



 低く、吐き出された裕文さんの声に、ハッとする。

 あ、違う――と言いかけた僕の腕を強く引いて、顔から手を剥がした。



 見つめ合った裕文さんの目が、怒っている。



「あの……」

 続こうとした僕の言葉を遮るように、裕文さんの唇が僕の口を塞いだ。



「風邪……うつっちゃ……」



 押しやって、離したのに。

 引いた僕を、唇が追いかけてきた。



 角度を変えて、強さを変えて、何度も口付けられる。



「ダメだよ。――もう、逃がしてあげない」



 僕を、胸に抱いて。

 頭上からは、裕文さんの声が降り注ぐ。



「ごめんね。俺、嫉妬深かったみたいだ……」


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