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Ⅲ
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しおりを挟む「浩次君の方から連絡すればいい。引っ越す前に、会いに行けばいい。これで最後なんて嫌だと、想いを伝えればいい」
背を向けて言った裕文さんに、「そうなんですけど」と僕は俯いた。
「僕の腕は、2本しかないから……」
振り向いた裕文さんの視線を感じる。僕は濡れたタオルを膝に置いて、広げた自分の両手を見つめた。
「大切なものは、あっけなく僕の前から、居なくなってしまうから……。この両手で掴まえて、しっかり握っていないと……僕の前から、消えてしまうから」
僕の両手には、姉さんの顔が浮かんでいた。
僕の見ているものに気づいたらしい裕文さんが、再び僕の前に跪いてくれる。
「浩次君……」
心配そうな声に、顔を、見られない。
「だけど。僕の、この、両手は――。……っ……あなたに……伸ばしたいんです。あなたを、失いたくないんです。あなた、だけは――……」
だから、先輩には伸ばせなかった。
先輩に、何も、言うことさえ出来なくて――。
僕は――……。
握った両手で、顔を覆う。
何を言っているのか、自分でも解らない。
全然頭が、まわってくれなくて――。
上手く、言えない。
「浩次君……」
心配そうな声がして、僕の腕を、裕文さんが握った。
「ごめんなさい。……何を、言ってるんですかね、僕。訳、わかんないですよね……。――もう、やだな。先輩が、あんなこと言うから。僕にキスなんて、するから……」
――違う。先輩のせいじゃない。
先輩のせいなんかじゃない。
だけど。今まで懸命に留めていた想いが、溢れてしまって――。
「……キス、されたの?」
低く、吐き出された裕文さんの声に、ハッとする。
あ、違う――と言いかけた僕の腕を強く引いて、顔から手を剥がした。
見つめ合った裕文さんの目が、怒っている。
「あの……」
続こうとした僕の言葉を遮るように、裕文さんの唇が僕の口を塞いだ。
「風邪……うつっちゃ……」
押しやって、離したのに。
引いた僕を、唇が追いかけてきた。
角度を変えて、強さを変えて、何度も口付けられる。
「ダメだよ。――もう、逃がしてあげない」
僕を、胸に抱いて。
頭上からは、裕文さんの声が降り注ぐ。
「ごめんね。俺、嫉妬深かったみたいだ……」
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