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Ⅲ
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しおりを挟む――ひやり。
額の冷たい感触に、目が覚める。
開いた視界の中へ、ひょっこりと義兄の顔が入ってきた。
「あ、起きた?」
「おはよう……ございます」
状況を把握するのに、数分かかった。
「すみません、僕、寝込んでしまってたみたいで……」
明るくなっている窓の外に目を向けて、「昨日は晩御飯食べれましたか?」と義兄に訊く。
「うん。大丈夫大丈夫」
にっこり笑う裕文さんが、とっても怪しい。
枕元に置いたスマホで、時間を確認した。
――まだ、5時半。
今から用意したら、裕文さんに普段よりは栄養のある朝食が作れるだろう。
「ダメダメ。今日はゆっくり寝とかないと。俺だってお粥くらいなら作れるんだから」
起き上がろうとした僕の両肩を掴んで、裕文さんがベッドに寝かしつけてくる。
まるで子供みたいだ、と思った。
そうして、裕文さんの手の感触に、眉を寄せる。
「どうしたの?」
訊いてきた裕文さんの顔が、まともに見れない。
「いえ。あの……変な夢、見たみたいで……」
「……へぇ。どんな夢?」
――……言える訳がない。
視線を逸らした僕に、裕文さんがベッドに肘を乗せて頬杖を付く。
そうして、にっこりと笑った。
「ごめんね。――たぶんそれ、夢じゃないよ」
目を見開いて固まった僕に、クスクスと笑う。
「じゃあ。お粥作ってくるから待ってて」
立ち上がった裕文さんの口から、こほっ、と小さく咳が出た。
目を剥いて見上げた僕に、口を押さえる。
「大丈夫大丈夫。俺って頑丈だから」
それに風邪ひいたら看病してもらえるし、と笑って、部屋から出て行った。
1度閉まったドアが開いて、裕文さんが顔を覗かせる。
「風邪ひかなかったら、ご褒美に呼んでくれるかなぁ。『裕文さん』って」
悪戯っぽく笑って、出て行った。
「あぁ、僕……」
どうしようー……と頭を抱える。
姉さんごめんなさい――。
心の中で謝る僕に、「ばかね」と笑う声が聞こえた気がした。
都合が、いいだろうか。
姉さんが、許してくれてると思うのは――。
けれど。如月先輩の声と重なって、耳には優しい声が、聞こえていたんだ。
――ねぇ、姉さん。我儘で、勝手な、甘えた弟だけど。
信じても、いいかな?
これは、姉さんの声だって……。
――浩次。幸せになれ……。
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