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再十四話 夢見る乙女は誰?

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「やっぱり治せないんですかぁ?」

(はぅっ!)

 ヤバイ! 悲しそうな目でペトラが尋ねてきた。明らかにシュンと落ち込んでいる。
 絶対に心の中で『この見習い女使えねえなあー! 期待させんじゃねえよ! ブチ殺すぞ!』とか思ってる。

「で、でも妖精の薬草ならいいんですよね⁉︎ 魔力消したら駄目なのに、何でそれはいいんですか!」

 考えるな、諦めるな、だ。
 何か喋らないとこの重い空気は生きた心地がしない。
 私の方法が駄目なのに、妖精の薬草なら良い理由があるなら教えてほしい。
 ペトラに嘘ついた仲間の灰色前髪に急いで訊いた。

「妖精の薬草か……私は一度も見た事ないけど、それは妖精の薬草が『聖属性』だと言われているからだよ。聖なる力なら、何の副作用も無く魔力を消せると信じられているからだ。夢か幻か。何とも夢みたいな話だね」

 駄目駄目。IKKOじゃないんだから『幻ぃ~♪』は通用しない。
 他人事みたいに明るく話す灰色前髪を強い口調で問いただした。

「夢みたいな話してって。そんな夢みたいな話をペトラに話したんですか! ペトラが信じて森に探しに行って、熊に襲われたらどうするんですか!」
「んっ? ちょっと何を言ってるのか分かんないけど、ペトラさんに妖精の薬草の話をした事ないよ。そうだよね?」
「あっ、はい。隣のナヨンおばさんから聞きました」
「なっ⁉︎」

 犯人は灰色前髪じゃなかった!
 バンダナさんがまさかの夢見る乙女だとは思わなかった。
 ペトラに完全に『やっぱり見習いは使えねえな。ブチ殺すぞ!』と思われてしまった。

「よ、余命一日なんです! 何でもいいから治せる可能性はないんですか!」

 もう手段も言葉も選んでいられない。
 必死は絶対駄目だけど、否定ばかりする否定おじさんに必死に訊いた。
 他力本願だけど何でもいい。この否定おじさんが私の信用をガタ落ちさせたのが悪いんだ。
 
「えっ、余命一日‼︎ ペトラさん、それは聞いてないよ‼︎ 何で言ってくれなかったの‼︎」

 なんか馴れ馴れしいと思ったら、ペトラ行きつけのお店みたいだ。
 私よりも否定おじさんの方が必死に訊いている。

「それは……」

 あっ、ペトラがなんって言っていいのか困っている。
 私が助けないと!

「そんなこと今はどうでもいいじゃないですか! 時間がないんですよ!」

 責任転嫁、責任転嫁だ。
 この否定おじさんにやっぱり悪者になってもらうしかない。

「あ、ああ、そうだったね。……そうだねぇー、あるとしたら聖属性の武器で魔力を作る部位を切り刻むとか。でも、それだとラナさんの身体も無事じゃすまない。身体を切らずに魔力だけを切れればいいんだけど。それは不可能だろうし……」

 左手を顎に当てて、否定おじさんが何やら考えている。でも、何も良い手は思いつかないみたいだ。
 そもそも聖属性の武器が何処にあるのか分からないし、魔力なんて見た事がない。
 とても現実的な方法じゃない。やっぱり魔力消し薬で悪い魔力を消すのが一番早い。

「無いんですね? だったら魔力消し薬ください。それと体力を回復する薬があるならそれもください。二つを混ぜて使えば、少しずつでも魔力を安全に身体から追い出せますよね?」

 私は偽医者見習いの素人かもしれないけど、馬鹿じゃない。学習能力がある。
 前の世界でバンダナさんに薬草は体力を回復させるものだと言われた。
 死ぬと言われた方法を馬鹿みたいにやるわけない。キチンと対処方法を考えた。

「うーん、確かにそれ以外ないか。でも、あまりおすすめ出来ないやり方だよ。それこそ奇跡を願うようなものだ。どう考えても命を縮めるだけかもしれない。それよりも最後の時間を……」
「最後の時間なんてペトラには必要ないです。必要なのはこれから先もお母さんと一緒にいられる時間です」
「ルカ先生……」

 ゆっくりとでしょ。
 これ以上否定おじさんの言葉を聞く必要はない。私にはペトラの気持ちが分かっている。
 ありがとう、否定おじさん。あなたのお陰でペトラの信頼を取り戻せました。
 ペトラの気持ちをハッキリと代弁してあげると、今にも泣きそうな目で見つめてきた。
 私が欲しかったのはこれだ。

「……はぁぁ、仕方ないですね♪ うちで最高の魔力消し薬と回復薬をすぐに用意させてもらいます」
「ありがとうございます」

 ペトラの気持ちが分かったのか、諦めたように否定おじさんが溜め息を吐いた。
 でも、口元が笑っている。薬代はペトラがいるので、コソッと払う事にしよう。
 多分結構高そうだ。

 カラララン~♪

 錠剤タイプの二つの薬を受け取ると、ペトラと二人でお店を出た。
 大量(四百グラムぐらい)に購入したせいか、お値段は銀貨五枚(五万円ぐらい)と高額だった。
 命の値段としては安い方だけど、これからの生活もあるんだから、もっとまけてよね。
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