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予測不可能ですから
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「カーティス様に余計な心配をかけさせたくないですし、それにたとえこれが単なる嫌がらせだとしてもカーティス様は傷ついてしまうかもしれませんから……」
カーティスはクリスティーナの死やカイルの痣について呪いの可能性は完全に否定できないと言っていたし、言葉にはしないもののハウエル家が呪われているという心無い噂に傷ついているようでもあった。
だから実害がない限り、極力カーティスには知らせたくなかった。
ローマンやネイトに相談しようかとも思ったが、ローマンに言えば主であるカーティスに報告しないわけにもいかないだろうし、ネイトに至ってはダリルに少しでも身の危険があるなら即刻離婚すべきだと言うのが目に見えている。
「アドレイド辺境伯に相談しようかとも思ったのですが、お忙しそうですし、気楽に相談できる相手ではないですしね」
もちろんアドレイドなら快く相談にのってくれるだろうが、単なる嫌がらせであった場合、多忙の身である辺境伯の手を煩わせるのも申し訳ない。
「それで暇そうな私に相談したというわけですね?」
いたずらっぽく目を細めて言うレイラに、ダリルは慌てて手を横に振った。
「いえっ、決してそういう意味ではありません! ただ、レイラ様とは気楽に相談できる関係だと、思っていまして……」
言いながら、厚かましかっただろうかと急に恥ずかしくなり、俯いて肩をすぼめた。
今回の件は、少し思うところはあるものの、カーティスに好意を寄せる者による自分への嫌がらせという可能性が極めて高い。
嫌がらせの手紙くらいなら自分一人が耐えればいいだけだ。大ごとにしてみんなを心配させたくはない。
だが、実害はなくともこうも執拗に繰り返されると滅入ってしまうのも事実で、胸の内に溜まったものを吐き出したくなるのも至極当然のことだった。
だから、歳も近く気さくで、契約結婚等の事情も知っているレイラは相談相手としてうってつけだった。
お茶会を通して仲も深まったとダリルは思っていたのだが、思い上がりだっただろうかと不安に思っていると、
「……ふふっ、嬉しい」
レイラが可憐に口元を綻ばせた。
「私のことをそのように思ってくれてたんですね。すごく嬉しいです。こういう関係を友達って言うんでしょうか。……友達なんてずっといなかったから、嬉しい」
頬を仄かに染めて、喜びを噛みしめるようにしてレイラが言うので、ダリルの方まで嬉しくなった。
「あ、でも、お兄様には秘密にしておかないとですね。きっとヤキモチ焼いてしまいますわ」
冗談めかして言うレイラに、ダリルは小さく笑った。
「まさか、大事な妹にまでヤキモチ焼きませんよ」
「分かりませんわよ。恋するお兄様の言動は予測不可能ですから」
茶化すように言って、レイラは紅茶を口に運んだ。
(確かに、契約結婚を延長してからのカーティス様は予測不可能だ)
胸の内でレイラの言葉に苦笑混じりに同意しながら、ダリルも紅茶を飲んだ。
手紙の話をレイラに聞いてもらったおかげで、随分と胸の中がすっきりし、ようやく紅茶の香りに癒やしを感じることができた。
****
執拗に寄越される脅迫じみた手紙がある日、何の前触れもなくぴたりと止んだ。
そのことにホッと胸を撫で下ろす間もなく、さらに大きな悩みがダリルを襲うことになった。
(……今日も来ない)
一人で寝るにはあまりに広すぎる寝室のベッドの上で、ダリルはごろごろと落ち着きなく寝転がっていた。
カーティスはクリスティーナの死やカイルの痣について呪いの可能性は完全に否定できないと言っていたし、言葉にはしないもののハウエル家が呪われているという心無い噂に傷ついているようでもあった。
だから実害がない限り、極力カーティスには知らせたくなかった。
ローマンやネイトに相談しようかとも思ったが、ローマンに言えば主であるカーティスに報告しないわけにもいかないだろうし、ネイトに至ってはダリルに少しでも身の危険があるなら即刻離婚すべきだと言うのが目に見えている。
「アドレイド辺境伯に相談しようかとも思ったのですが、お忙しそうですし、気楽に相談できる相手ではないですしね」
もちろんアドレイドなら快く相談にのってくれるだろうが、単なる嫌がらせであった場合、多忙の身である辺境伯の手を煩わせるのも申し訳ない。
「それで暇そうな私に相談したというわけですね?」
いたずらっぽく目を細めて言うレイラに、ダリルは慌てて手を横に振った。
「いえっ、決してそういう意味ではありません! ただ、レイラ様とは気楽に相談できる関係だと、思っていまして……」
言いながら、厚かましかっただろうかと急に恥ずかしくなり、俯いて肩をすぼめた。
今回の件は、少し思うところはあるものの、カーティスに好意を寄せる者による自分への嫌がらせという可能性が極めて高い。
嫌がらせの手紙くらいなら自分一人が耐えればいいだけだ。大ごとにしてみんなを心配させたくはない。
だが、実害はなくともこうも執拗に繰り返されると滅入ってしまうのも事実で、胸の内に溜まったものを吐き出したくなるのも至極当然のことだった。
だから、歳も近く気さくで、契約結婚等の事情も知っているレイラは相談相手としてうってつけだった。
お茶会を通して仲も深まったとダリルは思っていたのだが、思い上がりだっただろうかと不安に思っていると、
「……ふふっ、嬉しい」
レイラが可憐に口元を綻ばせた。
「私のことをそのように思ってくれてたんですね。すごく嬉しいです。こういう関係を友達って言うんでしょうか。……友達なんてずっといなかったから、嬉しい」
頬を仄かに染めて、喜びを噛みしめるようにしてレイラが言うので、ダリルの方まで嬉しくなった。
「あ、でも、お兄様には秘密にしておかないとですね。きっとヤキモチ焼いてしまいますわ」
冗談めかして言うレイラに、ダリルは小さく笑った。
「まさか、大事な妹にまでヤキモチ焼きませんよ」
「分かりませんわよ。恋するお兄様の言動は予測不可能ですから」
茶化すように言って、レイラは紅茶を口に運んだ。
(確かに、契約結婚を延長してからのカーティス様は予測不可能だ)
胸の内でレイラの言葉に苦笑混じりに同意しながら、ダリルも紅茶を飲んだ。
手紙の話をレイラに聞いてもらったおかげで、随分と胸の中がすっきりし、ようやく紅茶の香りに癒やしを感じることができた。
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執拗に寄越される脅迫じみた手紙がある日、何の前触れもなくぴたりと止んだ。
そのことにホッと胸を撫で下ろす間もなく、さらに大きな悩みがダリルを襲うことになった。
(……今日も来ない)
一人で寝るにはあまりに広すぎる寝室のベッドの上で、ダリルはごろごろと落ち着きなく寝転がっていた。
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