役目を終えた悪役令息は、第二の人生で呪われた冷徹公爵に見初められました

綺沙きさき(きさきさき)

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なんて不届き者なのかしら

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 夜会の日から数週間後、ダリルはレイラの屋敷の庭園にいた。
 紅茶や庭園の花の香りにいつもなら癒されるところだが、ある悩みのせいでそれらを楽しめないでいた。
 レイラが淹れてくれた紅茶を口に運びながら互いに近況報告をしていると、

「……ところで相談があると手紙に書かれていましたけど、どうかなさったのですか?」

 レイラが気遣わしげに話を切り出した。
 ダリルは惑うように視線を漂わせてから「実は……」と持参したあるものをテーブルに出した。

「これは……」

 レイラは目を見開いて、テーブルの上に並べられたダリルの最近の悩みの種であるそれらを凝視した。

「脅迫文……、ですわね」

 手紙のひとつを手に取り、レイラが確認する。ダリルは沈鬱な表情で頷いた。

「夜会の後から届くようになったんです」

 夜会の翌日、ダリル宛に差出人不明の手紙が届いた。
 その内容は毎回同じだった。

『いずれまた呪いはハウエル公爵家に降りかかる。命が惜しければ、直ちにハウエル公爵家から立ち去れ』

 荒々しい文字で書かれたそれは、まるでその手紙自体が呪いかのように禍々しい雰囲気を放っていた。
 一度だけなら単なるいたずらということで片付けられるが、こうも執拗に何度も寄越されては不気味だ。
 絶対にダリルをハウエル家から追い出そうとする執着じみた強い意志がそこには感じられた。

「夜会の後から、ということは、夜会でお兄様とダリル様の仲睦まじい様子を見て嫉妬した誰かが嫌がらせで送ってきているというのが一番可能性としては考えられますわね」
「私もそう思いました。カーティス様はすごくモテるみたいでしたから……」

 カーティスについて話す令嬢令息たちの熱のこもった瞳を思い出して苦笑する。
 皆、表面上は好意的に接してくれていたものの、中にはオメガらしさの欠片もない、カーティスと不釣り合いなダリルをよく思っていない者もいたのかもしれない。

「……ただ、そうだとするとこの手紙、少し違和感があるんですよね」
「違和感?」

 レイラが首を傾げる。ダリルは頷き返した。

「もし私がカーティス様の伴侶ということが気に食わず、ハウエル家から追い出したいなら、『ハウエル家から出ていかなければお前を呪い殺す!』とかもっと私に身の危険を感じさせるようなものの方が効果があると思うんですよね。なのに、呪いの対象についてはぼかしてる……。見ようによっては、脅迫というより忠告にも見えるんです」

 確かに、手紙からはダリルに対する憎悪や悪意がひしひしと感じられる。だが一方で、呪いの手からダリルを逃がそうとする忠告めいたものにも感じられ、果たしてこれを単なる嫌がらせで片付けていいものか、迷うところがあった。

「確かにそういう風にも見えますわね」

 レイラはまじまじと手紙を読み直しながら同意した。

「ですが、ダリル様をハウエル家から追い出そうとしていることには変わりませんわ。なんて不届き者なのかしら。許せない」

 憤然と言って、レイラは手に持った手紙をテーブルに放った。
 自分のことのように怒ってくれるレイラに、これまで張り詰めていたものが少し緩んだ気がして、ダリルは目元を和らげた。

「ちなみにこのことはお兄様や他の人には相談されたのですか」
「いえ、していません」

 ダリルは首を横に振った。
 この手紙について話したのは、レイラが初めてだ。
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