上 下
76 / 79
番外編

1 大切なもの アレックス視点

しおりを挟む
「ソフィア……」


俺はこの日、全てを失った。
勇者としての輝かしい地位も、憧れだった都会での生活も…………ソフィアも。


――何故、ずっと気付けなかったんだろうか。


馬車に揺られながらずっと考えていた。
俺は今日、王都を追放される。
そして二度と足を踏み入れることは叶わない。


つまり、二度とソフィアにも会えないということだ。


「ソフィア……最後に一度だけで良いから会わせてくれよ……」
「ダメだ、あの方は既に国王陛下の婚約者であらせられるのだぞ!勇者の地位も失ったお前が会えるわけないだろう」
「そんな……」


何故こうなってしまったのか。
俺は一体どこで間違えてしまったのか。


(俺があのときソフィアを裏切ったからか?だからこんなことに……)


今さら後悔したところでもう遅かった。
彼女が戻ってくることは永遠に無い。


(俺はソフィアさえいれば……勇者の地位なんてどうでもいいんだよ……)


もし勇者の地位や贅沢な暮らしと引き換えにソフィアが戻って来るのであれば俺は間違いなく彼女を選んでいるだろう。
それほどに、俺の人生において必要な人だった。


考え込んでいるうちに馬車が停まった。
どうやら王都の外に着いたようだ。


「ここからは一人で行け。これは聖女様の最後の温情だ」
「金……?」


監視としてついていた騎士から金貨の入った小袋を手渡された。
これがあればおそらく一ヶ月は暮らせていけるだろう。
ソフィアの優しさを改めて痛感した。
裏切って傷付けた俺にこんなことまでしてくれるだなんて。


(それにしても……どこへ行けばいいか……)


行く当てなんて無い。
本音を言えば王都に戻りたかったが、それをすれば今度こそ一生牢屋から出られなくなってしまうだろう。


「ハァ……」


悩みに悩んだ末、私は故郷へ帰ることにした。
両親ならきっと温かく迎えてくれるだろうと思ってのことだった。
が、しかし――


「この恥さらし!!!」


顔を見せてすぐ、母親からは罵倒された。


「ソフィアちゃんを裏切るだなんて、お前はもうウチの息子じゃない!すぐに出て行け!」


父親も同じように俺を罵った。
結局俺は、数日間かけてようやくたどり着いた家を追い出されてしまった。


(そんな……嘘だろう……?)


俺の両親は二人とも穏やかで優しい人だった。
あんな風に怒鳴られたのは初めてだったからか、ショックを隠しきれない。


(俺、これからどこに行けばいいんだよ……)


お金はまだ残っている。
しかしこんな生活を続けていれば尽きてしまうのは時間の問題だ。


(プライドを捨てるしか無い……か)


覚悟を決めた俺は近くにあった建物の扉をトントンとノックした。


「はい、どなた?」
「あの……突然すみません……俺をここで働かせてもらえませんか……」


これが俺にとって人生初めての労働だった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫

紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。 スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。 そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。 捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。

俺はお前ではなく、彼女を一生涯愛し護り続けると決めたんだ! そう仰られた元婚約者様へ。貴方が愛する人が、夜会で大問題を起こしたようですよ?

柚木ゆず
恋愛
※9月20日、本編完結いたしました。明日21日より番外編として、ジェラール親子とマリエット親子の、最後のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。  お前の家ティレア家は、財の力で爵位を得た新興貴族だ! そんな歴史も品もない家に生まれた女が、名家に生まれた俺に相応しいはずがない! 俺はどうして気付かなかったんだ――。  婚約中に心変わりをされたクレランズ伯爵家のジェラール様は、沢山の暴言を口にしたあと、一方的に婚約の解消を宣言しました。  そうしてジェラール様はわたしのもとを去り、曰く『お前と違って貴族然とした女性』であり『気品溢れる女性』な方と新たに婚約を結ばれたのですが――  ジェラール様。貴方の婚約者であるマリエット様が、侯爵家主催の夜会で大問題を起こしてしまったみたいですよ?

「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう

天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。 侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。 その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。 ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。

それでも、私は幸せです~二番目にすらなれない妖精姫の結婚~

柵空いとま
恋愛
家族のために、婚約者である第二王子のために。政治的な理由で選ばれただけだと、ちゃんとわかっている。 大好きな人達に恥をかかせないために、侯爵令嬢シエラは幼い頃からひたすら努力した。六年間も苦手な妃教育、周りからの心無い言葉に耐えた結果、いよいよ来月、婚約者と結婚する……はずだった。そんな彼女を待ち受けたのは他の女性と仲睦まじく歩いている婚約者の姿と一方的な婚約解消。それだけではなく、シエラの新しい嫁ぎ先が既に決まったという事実も告げられた。その相手は、悪名高い隣国の英雄であるが――。 これは、どんなに頑張っても大好きな人の一番目どころか二番目にすらなれなかった少女が自分の「幸せ」の形を見つめ直す物語。 ※他のサイトにも投稿しています

私は王妃になりません! ~王子に婚約解消された公爵令嬢、街外れの魔道具店に就職する~

瑠美るみ子
恋愛
 サリクスは王妃になるため幼少期から虐待紛いな教育をされ、過剰な躾に心を殺された少女だった。  だが彼女が十八歳になったとき、婚約者である第一王子から婚約解消を言い渡されてしまう。サリクスの代わりに妹のヘレナが結婚すると告げられた上、両親から「これからは自由に生きて欲しい」と勝手なことを言われる始末。  今までの人生はなんだったのかとサリクスは思わず自殺してしまうが、精霊達が精霊王に頼んだせいで生き返ってしまう。  好きに死ぬこともできないなんてと嘆くサリクスに、流石の精霊王も酷なことをしたと反省し、「弟子であるユーカリの様子を見にいってほしい」と彼女に仕事を与えた。  王国で有数の魔法使いであるユーカリの下で働いているうちに、サリクスは殺してきた己の心を取り戻していく。  一方で、サリクスが突然いなくなった公爵家では、両親が悲しみに暮れ、何としてでも見つけ出すとサリクスを探し始め…… *小説家になろう様にても掲載しています。*タイトル少し変えました

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

【完結】冷遇された翡翠の令嬢は二度と貴方と婚約致しません!

ユユ
恋愛
酷い人生だった。 神様なんていないと思った。 死にゆく中、今まで必死に祈っていた自分が愚かに感じた。 苦しみながら意識を失ったはずが、起きたら婚約前だった。 絶対にあの男とは婚約しないと決めた。 そして未来に起きることに向けて対策をすることにした。 * 完結保証あり。 * 作り話です。 * 巻き戻りの話です。 * 処刑描写あり。 * R18は保険程度。 暇つぶしにどうぞ。

処理中です...