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番外編

2 因果応報 アレックス視点

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(チッ……何で俺がこんなこと……)


翌日から、俺は王都から遠く離れた田舎にあるパン屋で働くことになった。
俺のやる仕事は主に接客だ。
オーナーの作ったパンを客に販売するというものである。


「ありがとうございました……」


が、ハッキリ言ってやる気はゼロだ。


当然、俺は好きでこんなことをしているわけではない。
ただ自分が生きていくために必要だからしているのだ。


「ハァ……」


仕事中だというのにまた一つため息が零れた。
勇者として輝かしい人生を歩んできた俺がこんなにも落ちぶれてしまうだなんて、正直に言えば今にも心が壊れそうだった。


これまで磨いてきた剣のスキルも、持ち前の美貌も何もかも意味を成さない職場。
俺が今までやってきたことは何だったのだろうか。
こんなはずでは無かったのに。


そんな思いを抱きながらも、俺はせっせと働いていた。
ここを追い出されてしまえばいよいよ終わりだから、本当に仕方なくだ。
そして心のどこかでは未だに都会への憧れを捨てきれずにいた。


(絶対返り咲いてやる……この国がダメなら他国でもかまわない……金を貯めて必ず都会へ戻ってやるぞ)


しかし俺はこれまで労働なんてしたこと無かったからか、どうもうまくいかなかった。


「アレク!もっと愛想良くしなさい!」
「へーい……」


このパン屋の主人であるイレおばさんはかなり口うるさい人で、何かと俺の接客に文句をつけてきた。
路頭に迷っていた俺を受け入れてくれたのはありがたいが、こうも注意ばかりされると嫌になってしまう。


(何だよ……ちゃんとやってるだろ……)


最初は金のために仕方ないと耐えることが出来た。
しかし元々短気だった俺はとうとう我慢の限界を迎えてしまった。


「アレク!お客様から苦情が来てるよ!アンタが怖いって!」
「……」
「何とか言ったらどうなんだ!大体アンタやる気が……」
「ああ、もううるさいな!」


俺は勤務中であるにもかかわらず、店を飛び出した。


「ちょっとアレク!待ちな!」


後ろでイレおばさんの引き留める声がしたが、振り返ることは無かった。




***



結局俺はおばさんのパン屋を辞めてしまった。
残された金は残り僅か。


(どうやって生活していこう……)


流石にマズいと思い、俺は様々な仕事に挑戦することにした。
たくさんの仕事をしているうちに自分にとっての天職に出会えると思っていたが、そう上手くはいかなかった。


結局どれも長続きせずに辞めた。
傭兵の仕事は身体がキツくてついていけなかった。
接客業は前働いていたパン屋のように愛想が悪いことを咎められて全て辞めてしまった。
それ以外となると特別なスキルを求められる仕事ばかり。


(腹減ったなぁ……)


以前と比べるとかなり痩せたような気がする。
もう二日は何も食べていない。


そこでようやく俺はお金を稼ぐということがどれほど大変なことだったかを身を持って知った。
幼い頃から勉強もせず、好きなことばかりやってきた自分が身を粉にして働くことなど出来るはずもなかったのだ。


高みを目指して自分の利益だけを優先し続けた結果、周りには誰もいなくなってしまった。
あれほど俺を持ち上げていた貴族や国民たちも、優しかった両親も、いつだって自分を一番に考えてくれたソフィアでさえ最後は離れていった。


(これが報いか……)


今さらそう思ったところで手を差し伸べてくれる人間は誰もいない。


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