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本編
64 女公爵の誕生
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それから時間が過ぎ、フィリクス陛下の即位を祝う舞踏会が開催される時間となった。
私はというと陛下から贈られた紫色のドレスに身を包んで彼を待っていた。
(何だかこれ・・・陛下の瞳の色に似てる・・・)
そのことに気付いた私はドキドキと高鳴る胸を抑えることが出来なかった。
しばらくして侍女がノックをして部屋に入ってきた。
「聖女様、国王陛下がいらっしゃいました」
「お通ししてください」
私のその声で陛下が中に入ってくる。もうすっかり王の風格を漂わせている彼は私を見て眩しそうに目を細めた。
「ソフィア・・・」
私はそんな彼に近付いてドレスのお礼を言った。
「陛下、素敵な贈り物をありがとうございます」
「このくらいはどうだってことない。それよりソフィア、本当に綺麗だな」
「・・・!」
陛下の言葉に顔が真っ赤になる。そんな風に言ってくれることを期待していたのは事実だが、いざハッキリとそう言われると何だか恥ずかしくなる。
そんな私を見て陛下はクスリと笑った。
「じゃあそろそろ行こうか。会場で貴族たちが待っているはずだ」
そして彼は私に手を差し出した。
「はい」
私はコクリと頷きながら彼の手を取って隣に並んだ。
◇◆◇◆◇◆
「国王陛下と聖女様です!!!」
その声で私と陛下は会場へと足を踏み入れた。中には既にたくさんの貴族たちが揃っていて、私たちの登場を心待ちにしていたようだ。
会場へ入った私と陛下の周りには一瞬にして人だかりが出来る。
「陛下、御即位おめでとうございます」
「ああ、ありがとう」
そして貴族たちが一人一人陛下に祝いの言葉を述べて行った。
「陛下!聖女様!」
「フローレス公女様!」
次にやってきたのはフローレス公女だった。彼女は私と陛下を見て美しい笑みを浮かべた。
「御即位おめでとうございます。本当にお似合いのお二人ですわ」
「いえいえ、そんなことは・・・」
私の謙遜する様子に、フローレス公女が陛下の方を向いて尋ねた。
「あら?もしかして陛下はまだ聖女様にお伝えしていらっしゃらないのですか?」
「あ、ああ・・・」
陛下は自身を問い詰めるフローレス公女から気まずそうに視線を逸らした。
「まぁ、陛下ってば!王太子としては有能でしたのに、恋愛のことになるととんだヘタレですわね」
「か、返す言葉も無い・・・しかし今日こそは必ず・・・!」
二人が何か言っているような気がしたがよく分からなかった。それからフローレス公女が私たちの前から立ち去り、次にやってきたのは―
「陛下、聖女様」
「・・・ダグラス公子様」
黒い軍服に身を包んだダグラス公子だった。陛下は私たちの目の前に来たダグラス公子をじっと見つめた。そこには以前のような敵対心はもう感じられない。どうやらあの一件で陛下のダグラス公子を見る目は完全に変わったようだ。
「御即位、心からお祝い申し上げます」
彼はそう言いながら胸に手を置いて礼を取った。
「ありがとう、ダグラス公子」
目の前にいるダグラス公子は物凄く疲れているように見えた。顔色が悪く、目の下にはクマが出来ている。
(無理ないよね・・・アンジェリカ王女殿下が亡くなってからまだ日が浅いもん・・・)
私はそんな彼を不安げな眼差しで見つめた。
貴族たちが一通り新しく王となった陛下への挨拶を終えた後、彼は壇上へと上がり私を手招きした。
「聖女ソフィア、こちらへ」
「はい」
私は返事をして壇上へと上がって彼の傍に立った。
(何だろう・・・?)
このとき私は突然の出来事に内心かなり驚いていた。こんなのは聞かされていなかったからだ。不思議そうに陛下を見つめる私に、彼が優しく微笑みながら言った。
「君の今までの聖女としての功績を称えて、公爵位を授けようと思っている」
「・・・・・・・・・・・ええっ!?」
その言葉に私はもちろん、会場にいる貴族たちが驚きを隠せなかった。
もちろん爵位を得ることは私の目標だったので、陛下のその提案は願ってもないことだった。しかし―
(もらえることが出来たとしても男爵位くらいだと思っていたのに・・・!)
まさか公爵位をもらえるとは思ってもみなかった。公爵家はこの国で王家の次に身分が高く、貴族の中だと最も序列が上の爵位だ。その称号を持つ家門はこの国でも二家しかない。そんな重要な地位に私がいていいのだろうか。
「待ってください、陛下!」
「・・・パレス伯爵、何だ?」
そのとき、声を上げたのは有力貴族であるパレス伯爵様だった。彼は納得がいかないという様子を隠すこともせず陛下に訴えた。
「今のは本気で言っているのですか!?」
「本気だ」
陛下のその言葉に伯爵の顔がみるみるうちに青ざめていく。
「・・・ッ!いくら聖女様とはいえ王国で二つしかない公爵位を授けるなど前代未聞です!」
「・・・」
(そ、それは私も思うけど・・・)
たしかに伯爵の言う通りだ。公爵位を授けられたとしても、私に公爵が務まるかどうか・・・
「―私は賛成です」
そのとき、突然前に出てそう言ったのはダグラス公子だった。
「こ、公子様・・・!?」
驚く私をよそに、彼は言葉を続けた。
「私は以前聖女様に命を救われました。それだけではなく、三日間の奉仕活動を経て聖女様に大切なものを教えていただきました。聖女様には本当に感謝してもしきれません」
「ダグラス公子様・・・」
そして彼は今度は伯爵の方をじっと見据えてハッキリと言った。
「―私は、聖女様が公爵位を得ることに賛成いたします」
「・・・!」
あのダグラス公子が、私を庇った。
「―私も賛成ですわ」
「フ、フローレス公女様!?」
ダグラス公子の次に賛成の声を上げたのはフローレス公女だった。
「聖女様は素晴らしい人物です。私自身も聖女様の明るさに何度も救われてきました。私は、聖女様は公爵位を授けるほどの価値のある方だと思っています」
「公女様・・・」
フローレス公女が私を好いてくれていることは知っていたが、そんな風に言われると何だか嬉しくなる。二人の言葉を聞いた陛下は伯爵に尋ねた。
「と、言っているがどうだ?」
「で、ですが・・・」
しかし伯爵はそれでもまだ納得いかないようで悔しそうな顔をしてそう言った。
「王国に二つしかない公爵家の次期当主である二人が賛成しているのに、何が問題だ?」
「う・・・」
陛下のその言葉にパレス伯爵は完全に黙り込んだ。彼の身分は伯爵だった。公爵家の人間であるダグラス公子とフローレス公女相手では彼の立場は非常に弱いものだった。
「決まりだな」
陛下はそんな伯爵の姿を見てニヤリと笑った。
「それでは正式に、聖女ソフィアに公爵位を授けることにする!」
陛下のその声で会場がざわめきだした。
(わ、私・・・公爵になったの・・・?)
怒涛の展開に頭が追い付かなくて何も言えない私をよそに、貴族たちは口々に言った。
「公爵位を賜るということは聖女様は女公爵になるのか・・・」
「良いんじゃないかしら?女公爵だなんてこの国で初めてじゃない?」
「そうね、聖女様なら納得だわ」
思ったより反対の声が少なかったのには驚いた。
そのすぐ後に会場の隅にいた楽団が演奏を始めた。会場にいた貴族たちが曲に合わせて各々のパートナーと踊り始める。その様子を確認した陛下がスッと私に手を差し出した。
「ソフィア、私と一曲踊ってくれないか」
「陛下・・・!」
答えはもちろん決まっている。私は笑顔で彼の差し出した手を取った。
「はい、喜んで」
そうして私は陛下にエスコートされてホールの中央へと移動した。
◇◆◇◆◇◆
陛下とダンスを終えた私は会場である人物を探していた。
(どこに行ったんだろう・・・?)
しかしどうやらその人物は会場の中にはいないようだ。それでもどうしても彼にあのときのお礼を言いたいと思っていた私は近くにいた貴族のご令嬢に尋ねた。
「すみません、ダグラス公子様がどこへ行ったかご存知ありませんか?」
「ダグラス公子ですか?そういえば先ほど会場の外へ向かうのを見ましたわ」
「外・・・ですか?ありがとうございます!」
ご令嬢の話を頼りに、私はすぐに会場を出てダグラス公子を探した。
私はというと陛下から贈られた紫色のドレスに身を包んで彼を待っていた。
(何だかこれ・・・陛下の瞳の色に似てる・・・)
そのことに気付いた私はドキドキと高鳴る胸を抑えることが出来なかった。
しばらくして侍女がノックをして部屋に入ってきた。
「聖女様、国王陛下がいらっしゃいました」
「お通ししてください」
私のその声で陛下が中に入ってくる。もうすっかり王の風格を漂わせている彼は私を見て眩しそうに目を細めた。
「ソフィア・・・」
私はそんな彼に近付いてドレスのお礼を言った。
「陛下、素敵な贈り物をありがとうございます」
「このくらいはどうだってことない。それよりソフィア、本当に綺麗だな」
「・・・!」
陛下の言葉に顔が真っ赤になる。そんな風に言ってくれることを期待していたのは事実だが、いざハッキリとそう言われると何だか恥ずかしくなる。
そんな私を見て陛下はクスリと笑った。
「じゃあそろそろ行こうか。会場で貴族たちが待っているはずだ」
そして彼は私に手を差し出した。
「はい」
私はコクリと頷きながら彼の手を取って隣に並んだ。
◇◆◇◆◇◆
「国王陛下と聖女様です!!!」
その声で私と陛下は会場へと足を踏み入れた。中には既にたくさんの貴族たちが揃っていて、私たちの登場を心待ちにしていたようだ。
会場へ入った私と陛下の周りには一瞬にして人だかりが出来る。
「陛下、御即位おめでとうございます」
「ああ、ありがとう」
そして貴族たちが一人一人陛下に祝いの言葉を述べて行った。
「陛下!聖女様!」
「フローレス公女様!」
次にやってきたのはフローレス公女だった。彼女は私と陛下を見て美しい笑みを浮かべた。
「御即位おめでとうございます。本当にお似合いのお二人ですわ」
「いえいえ、そんなことは・・・」
私の謙遜する様子に、フローレス公女が陛下の方を向いて尋ねた。
「あら?もしかして陛下はまだ聖女様にお伝えしていらっしゃらないのですか?」
「あ、ああ・・・」
陛下は自身を問い詰めるフローレス公女から気まずそうに視線を逸らした。
「まぁ、陛下ってば!王太子としては有能でしたのに、恋愛のことになるととんだヘタレですわね」
「か、返す言葉も無い・・・しかし今日こそは必ず・・・!」
二人が何か言っているような気がしたがよく分からなかった。それからフローレス公女が私たちの前から立ち去り、次にやってきたのは―
「陛下、聖女様」
「・・・ダグラス公子様」
黒い軍服に身を包んだダグラス公子だった。陛下は私たちの目の前に来たダグラス公子をじっと見つめた。そこには以前のような敵対心はもう感じられない。どうやらあの一件で陛下のダグラス公子を見る目は完全に変わったようだ。
「御即位、心からお祝い申し上げます」
彼はそう言いながら胸に手を置いて礼を取った。
「ありがとう、ダグラス公子」
目の前にいるダグラス公子は物凄く疲れているように見えた。顔色が悪く、目の下にはクマが出来ている。
(無理ないよね・・・アンジェリカ王女殿下が亡くなってからまだ日が浅いもん・・・)
私はそんな彼を不安げな眼差しで見つめた。
貴族たちが一通り新しく王となった陛下への挨拶を終えた後、彼は壇上へと上がり私を手招きした。
「聖女ソフィア、こちらへ」
「はい」
私は返事をして壇上へと上がって彼の傍に立った。
(何だろう・・・?)
このとき私は突然の出来事に内心かなり驚いていた。こんなのは聞かされていなかったからだ。不思議そうに陛下を見つめる私に、彼が優しく微笑みながら言った。
「君の今までの聖女としての功績を称えて、公爵位を授けようと思っている」
「・・・・・・・・・・・ええっ!?」
その言葉に私はもちろん、会場にいる貴族たちが驚きを隠せなかった。
もちろん爵位を得ることは私の目標だったので、陛下のその提案は願ってもないことだった。しかし―
(もらえることが出来たとしても男爵位くらいだと思っていたのに・・・!)
まさか公爵位をもらえるとは思ってもみなかった。公爵家はこの国で王家の次に身分が高く、貴族の中だと最も序列が上の爵位だ。その称号を持つ家門はこの国でも二家しかない。そんな重要な地位に私がいていいのだろうか。
「待ってください、陛下!」
「・・・パレス伯爵、何だ?」
そのとき、声を上げたのは有力貴族であるパレス伯爵様だった。彼は納得がいかないという様子を隠すこともせず陛下に訴えた。
「今のは本気で言っているのですか!?」
「本気だ」
陛下のその言葉に伯爵の顔がみるみるうちに青ざめていく。
「・・・ッ!いくら聖女様とはいえ王国で二つしかない公爵位を授けるなど前代未聞です!」
「・・・」
(そ、それは私も思うけど・・・)
たしかに伯爵の言う通りだ。公爵位を授けられたとしても、私に公爵が務まるかどうか・・・
「―私は賛成です」
そのとき、突然前に出てそう言ったのはダグラス公子だった。
「こ、公子様・・・!?」
驚く私をよそに、彼は言葉を続けた。
「私は以前聖女様に命を救われました。それだけではなく、三日間の奉仕活動を経て聖女様に大切なものを教えていただきました。聖女様には本当に感謝してもしきれません」
「ダグラス公子様・・・」
そして彼は今度は伯爵の方をじっと見据えてハッキリと言った。
「―私は、聖女様が公爵位を得ることに賛成いたします」
「・・・!」
あのダグラス公子が、私を庇った。
「―私も賛成ですわ」
「フ、フローレス公女様!?」
ダグラス公子の次に賛成の声を上げたのはフローレス公女だった。
「聖女様は素晴らしい人物です。私自身も聖女様の明るさに何度も救われてきました。私は、聖女様は公爵位を授けるほどの価値のある方だと思っています」
「公女様・・・」
フローレス公女が私を好いてくれていることは知っていたが、そんな風に言われると何だか嬉しくなる。二人の言葉を聞いた陛下は伯爵に尋ねた。
「と、言っているがどうだ?」
「で、ですが・・・」
しかし伯爵はそれでもまだ納得いかないようで悔しそうな顔をしてそう言った。
「王国に二つしかない公爵家の次期当主である二人が賛成しているのに、何が問題だ?」
「う・・・」
陛下のその言葉にパレス伯爵は完全に黙り込んだ。彼の身分は伯爵だった。公爵家の人間であるダグラス公子とフローレス公女相手では彼の立場は非常に弱いものだった。
「決まりだな」
陛下はそんな伯爵の姿を見てニヤリと笑った。
「それでは正式に、聖女ソフィアに公爵位を授けることにする!」
陛下のその声で会場がざわめきだした。
(わ、私・・・公爵になったの・・・?)
怒涛の展開に頭が追い付かなくて何も言えない私をよそに、貴族たちは口々に言った。
「公爵位を賜るということは聖女様は女公爵になるのか・・・」
「良いんじゃないかしら?女公爵だなんてこの国で初めてじゃない?」
「そうね、聖女様なら納得だわ」
思ったより反対の声が少なかったのには驚いた。
そのすぐ後に会場の隅にいた楽団が演奏を始めた。会場にいた貴族たちが曲に合わせて各々のパートナーと踊り始める。その様子を確認した陛下がスッと私に手を差し出した。
「ソフィア、私と一曲踊ってくれないか」
「陛下・・・!」
答えはもちろん決まっている。私は笑顔で彼の差し出した手を取った。
「はい、喜んで」
そうして私は陛下にエスコートされてホールの中央へと移動した。
◇◆◇◆◇◆
陛下とダンスを終えた私は会場である人物を探していた。
(どこに行ったんだろう・・・?)
しかしどうやらその人物は会場の中にはいないようだ。それでもどうしても彼にあのときのお礼を言いたいと思っていた私は近くにいた貴族のご令嬢に尋ねた。
「すみません、ダグラス公子様がどこへ行ったかご存知ありませんか?」
「ダグラス公子ですか?そういえば先ほど会場の外へ向かうのを見ましたわ」
「外・・・ですか?ありがとうございます!」
ご令嬢の話を頼りに、私はすぐに会場を出てダグラス公子を探した。
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