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42 最悪の事態
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「どういうことですか!?王妃陛下が毒を盛るだなんてそんなのありえません!」
「それは、私もそう思うけれど……」
真っ先に声を上げたのはリリアーナだった。
彼女は怒りで顔を真っ赤にして猛抗議している。
「第一、陛下がやったという証拠でもあるのですか!?」
「いいえ、今調査中だそうよ」
その言葉で、部屋にいた他の侍女たちも次々と声を上げた。
「証拠も無く陛下が犯人だと決めつけるだなんて、何て人たちなんでしょう!」
「王妃陛下、お気になさらないでください!」
「そうですよ、ただの噂なんですから!」
「あ……」
彼女たちの優しい言葉で、私はようやくいつものような冷静さを取り戻した。
そうだ、前世と違って今の私には味方がたくさんいる。
だから何も恐れることは無い。
(今の私には心強い味方がいるんだから……きっと大丈夫よ……前世のようにはならないはずだわ……)
そう悠長に構えていたのがいけなかったのかもしれない。
事態は最悪の方向へと向かってしまうこととなる。
「――王妃陛下、貴方を側妃様の殺人未遂で拘束します」
「え……」
クロエの毒殺事件が発生してから数十分。
突然部屋に大勢の騎士が現れたかと思えば、王妃である私に剣を向けてそう言い放った。
(ど、どうして……)
一度目の生と全く同じ状況だった。
何もしていないのにこうなるだなんて、どこまでも私に残酷な世界だ。
当然、このまま大人しく連れて行かれるわけがない。
私は必死で抵抗した。
「触らないで……!」
「王族を殺害しようとした者を野放しにしておくわけにはいきません」
「ッ……!」
騎士たちに連れて行かれそうになったそのとき、私の前に侍女たちが立ち塞がった。
「ちょっと待ってください!陛下がそのようなことをするはずがありません!」
「そうです、何か誤解があったんですよ!」
「証拠も無いのに捕まえるだなんて強引すぎます!」
侍女たちの必死の叫びを前に、先頭に立っていた騎士はニヤリと口角を上げた。
まるでこうなることを事前に知っていたかのような、勝ち誇った笑みだ。
「――証拠ならありますよ」
「え……」
一瞬にして部屋が静まり返った。
彼の言ったことが信じられない、いや、信じたくなかった。
驚きすぎて言葉が出ない。
(嘘、そんなはずは……)
やってもいないのに証拠が出てくるだなんて。
誰かが仕組んだとしか思えなかった。
「毒殺の実行犯が貴方に言われてやったと自白したんです、陛下」
「自白したですって……?」
(実行犯……?)
一体誰がクロエの毒殺を実行したというのか。
全く想像つかない。
「実行犯って……一体……」
「貴方もよく知る人物ですよ、王妃陛下」
騎士は私を冷たい瞳でじっと見つめたまま、再び口を開いた。
「――アイラ・スイート」
「……!」
「貴方の、実の妹です」
衝撃で声が出なかった。
(アイラが……クロエを毒殺しようとしたって……?)
そしてそれを私の指示だと証言しただなんて。
身の危険を感じた私は、前に出ていた侍女たちを全員下がらせた。
「私はそんなの知らないわ……!貴方も知っているはずよ!私と妹の仲が良くないことは社交界では有名な話なんだから……!」
「アイラ・スイートは側妃様を毒殺する代わりに、自身とヘンリー公爵の仲を取り持つという約束を貴方としたと言っています」
「そんなこと……!」
反論しようとしたところを彼が遮った。
「そして、貴方には側妃様を殺す動機もある。お腹の子が王太子となったら貴方の立場が無くなるからな」
「何て失礼な……!」
実行犯の証言のみを鵜呑みにして王妃を糾弾するだなんて、この騎士は礼儀というものを知らないのか。
目の前にいる無礼な男に、激しい怒りが湧いてくる。
(いいわ……そっちがその気ならやってやるわよ……!)
絶対に捕まりたくない。
こんなところで死ぬわけにはいかない。
運命を変えてみせると、彼と約束したのだから。
私は決められた運命から逃れるため、徹底的に応戦することを決意した。
「それは、私もそう思うけれど……」
真っ先に声を上げたのはリリアーナだった。
彼女は怒りで顔を真っ赤にして猛抗議している。
「第一、陛下がやったという証拠でもあるのですか!?」
「いいえ、今調査中だそうよ」
その言葉で、部屋にいた他の侍女たちも次々と声を上げた。
「証拠も無く陛下が犯人だと決めつけるだなんて、何て人たちなんでしょう!」
「王妃陛下、お気になさらないでください!」
「そうですよ、ただの噂なんですから!」
「あ……」
彼女たちの優しい言葉で、私はようやくいつものような冷静さを取り戻した。
そうだ、前世と違って今の私には味方がたくさんいる。
だから何も恐れることは無い。
(今の私には心強い味方がいるんだから……きっと大丈夫よ……前世のようにはならないはずだわ……)
そう悠長に構えていたのがいけなかったのかもしれない。
事態は最悪の方向へと向かってしまうこととなる。
「――王妃陛下、貴方を側妃様の殺人未遂で拘束します」
「え……」
クロエの毒殺事件が発生してから数十分。
突然部屋に大勢の騎士が現れたかと思えば、王妃である私に剣を向けてそう言い放った。
(ど、どうして……)
一度目の生と全く同じ状況だった。
何もしていないのにこうなるだなんて、どこまでも私に残酷な世界だ。
当然、このまま大人しく連れて行かれるわけがない。
私は必死で抵抗した。
「触らないで……!」
「王族を殺害しようとした者を野放しにしておくわけにはいきません」
「ッ……!」
騎士たちに連れて行かれそうになったそのとき、私の前に侍女たちが立ち塞がった。
「ちょっと待ってください!陛下がそのようなことをするはずがありません!」
「そうです、何か誤解があったんですよ!」
「証拠も無いのに捕まえるだなんて強引すぎます!」
侍女たちの必死の叫びを前に、先頭に立っていた騎士はニヤリと口角を上げた。
まるでこうなることを事前に知っていたかのような、勝ち誇った笑みだ。
「――証拠ならありますよ」
「え……」
一瞬にして部屋が静まり返った。
彼の言ったことが信じられない、いや、信じたくなかった。
驚きすぎて言葉が出ない。
(嘘、そんなはずは……)
やってもいないのに証拠が出てくるだなんて。
誰かが仕組んだとしか思えなかった。
「毒殺の実行犯が貴方に言われてやったと自白したんです、陛下」
「自白したですって……?」
(実行犯……?)
一体誰がクロエの毒殺を実行したというのか。
全く想像つかない。
「実行犯って……一体……」
「貴方もよく知る人物ですよ、王妃陛下」
騎士は私を冷たい瞳でじっと見つめたまま、再び口を開いた。
「――アイラ・スイート」
「……!」
「貴方の、実の妹です」
衝撃で声が出なかった。
(アイラが……クロエを毒殺しようとしたって……?)
そしてそれを私の指示だと証言しただなんて。
身の危険を感じた私は、前に出ていた侍女たちを全員下がらせた。
「私はそんなの知らないわ……!貴方も知っているはずよ!私と妹の仲が良くないことは社交界では有名な話なんだから……!」
「アイラ・スイートは側妃様を毒殺する代わりに、自身とヘンリー公爵の仲を取り持つという約束を貴方としたと言っています」
「そんなこと……!」
反論しようとしたところを彼が遮った。
「そして、貴方には側妃様を殺す動機もある。お腹の子が王太子となったら貴方の立場が無くなるからな」
「何て失礼な……!」
実行犯の証言のみを鵜呑みにして王妃を糾弾するだなんて、この騎士は礼儀というものを知らないのか。
目の前にいる無礼な男に、激しい怒りが湧いてくる。
(いいわ……そっちがその気ならやってやるわよ……!)
絶対に捕まりたくない。
こんなところで死ぬわけにはいかない。
運命を変えてみせると、彼と約束したのだから。
私は決められた運命から逃れるため、徹底的に応戦することを決意した。
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