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34 執着
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「王妃陛下、ご報告したいことが……」
「……どうかしたの?」
部屋にいる私に突然声をかけてきたのは侍女のリリアーナだった。
彼女は言いづらそうにしながらも、ゆっくりと口を開いた。
「近頃、スイート公女様が頻繁に王宮へ来ているようなのです」
「……スイート公女?」
スイート公女とは私の妹のアイラのことだ。
意外な名前が出てきて驚きを隠せない。
(どうしてアイラが王宮に……?私と会っているわけでも無いし……)
姉である私に会いに来るのであれば納得だが、あのお茶会以来は一度も会っていない。
しかし、何の用も無く王宮に来るとは考えにくい。
だとしたら、やはり目的はギルバートだろうか。
(アイラの性格上、キツく言われたくらいでギルバートを諦めるとは思えないし……)
彼女は昔から手に入らないものに執着するところがあった。
だからこそ、あれくらいではギルバートを諦めないだろう。
(ハァ……困ったわね……彼も可哀相に……)
とんでもないのに粘着されてしまうギルバートに同情した。
「――リリアーナ、ヘンリー公爵を王宮に呼んでちょうだい」
「はい、陛下」
***
「アイラは……きっと貴方を諦めないでしょうね」
「……」
「昔からあの子は手に入らないものほど執着するところがあるから」
王宮にギルバートを呼び、そのことを伝えると彼は酷く疲れきった様子で溜息をついた。
「もっとも、貴方にその気があるのであれば……」
「それ以上は言わないでください、吐き気がします」
「……」
紳士的な彼からそんな言葉が出てくるとは。
何だかギルバートの意外な一面を知れたような気がする。
「いっそ彼女と結婚することになってしまう前に他の貴族令嬢と婚約を結ぶというのも良いのではないかしら?私が誰か紹介しましょうか?」
「……私は当分誰とも結婚するつもりはありません」
私が笑いながらからかうと、ギルバートが不満げにそう返した。
(アハハ、クロエのことが好きだから当然かしら)
多くの貴族令嬢の憧れであるギルバート・ヘンリー公爵が側妃クロエに叶わぬ恋をしているという話は社交界では有名だ。
地位と美貌、全てを持ち合わせているうえに一途だなんて。
「こんなに素敵な人なのに結婚しないなんて勿体ないわね」
「……冗談はやめてください」
「あら、アイラに限らず貴族令嬢なら誰しも貴方との結婚を一度は夢に見ると思うけれど?」
「誰しも……」
褒め言葉のつもりだったが、彼はそこまで嬉しくなさそうだ。
クロエ以外の女性はどうだって良いということだろうか。
「うふふ、冗談よ。そんなことより、忙しいところを急に呼び出してしまってごめんなさい。そろそろ行かないといけないでしょう?」
「……陛下」
ただでさえ急な呼び出しだったというのに、これ以上引き留めるわけにはいかない。
彼だって私よりも一緒にいたい人がいるだろうし。
「あ、帰る前にクロエの顔を見に行ったらどうかしら?陛下には黙っておくから安心して行っていいわよ」
「……」
唇に人差し指を当ててフフッと笑うと、彼は何とも言えない表情で私を見つめた。
「……………公爵?どうかしたの?」
その視線の意味が分からず、首を傾げて尋ねた。
「陛下は……私が……」
「……?」
何かを言いかけた彼が、諦めたかのように背を向けた。
「……では、私はそろそろ失礼します」
「え、ええ……今日は来てくれてありがとう」
そう返すと、彼はそのまま歩いて行った。
部屋の扉へと向かう途中、彼は一度だけ振り向いて私を見た。
「……」
――その顔は、何故かとても悲しそうだった。
「……どうかしたの?」
部屋にいる私に突然声をかけてきたのは侍女のリリアーナだった。
彼女は言いづらそうにしながらも、ゆっくりと口を開いた。
「近頃、スイート公女様が頻繁に王宮へ来ているようなのです」
「……スイート公女?」
スイート公女とは私の妹のアイラのことだ。
意外な名前が出てきて驚きを隠せない。
(どうしてアイラが王宮に……?私と会っているわけでも無いし……)
姉である私に会いに来るのであれば納得だが、あのお茶会以来は一度も会っていない。
しかし、何の用も無く王宮に来るとは考えにくい。
だとしたら、やはり目的はギルバートだろうか。
(アイラの性格上、キツく言われたくらいでギルバートを諦めるとは思えないし……)
彼女は昔から手に入らないものに執着するところがあった。
だからこそ、あれくらいではギルバートを諦めないだろう。
(ハァ……困ったわね……彼も可哀相に……)
とんでもないのに粘着されてしまうギルバートに同情した。
「――リリアーナ、ヘンリー公爵を王宮に呼んでちょうだい」
「はい、陛下」
***
「アイラは……きっと貴方を諦めないでしょうね」
「……」
「昔からあの子は手に入らないものほど執着するところがあるから」
王宮にギルバートを呼び、そのことを伝えると彼は酷く疲れきった様子で溜息をついた。
「もっとも、貴方にその気があるのであれば……」
「それ以上は言わないでください、吐き気がします」
「……」
紳士的な彼からそんな言葉が出てくるとは。
何だかギルバートの意外な一面を知れたような気がする。
「いっそ彼女と結婚することになってしまう前に他の貴族令嬢と婚約を結ぶというのも良いのではないかしら?私が誰か紹介しましょうか?」
「……私は当分誰とも結婚するつもりはありません」
私が笑いながらからかうと、ギルバートが不満げにそう返した。
(アハハ、クロエのことが好きだから当然かしら)
多くの貴族令嬢の憧れであるギルバート・ヘンリー公爵が側妃クロエに叶わぬ恋をしているという話は社交界では有名だ。
地位と美貌、全てを持ち合わせているうえに一途だなんて。
「こんなに素敵な人なのに結婚しないなんて勿体ないわね」
「……冗談はやめてください」
「あら、アイラに限らず貴族令嬢なら誰しも貴方との結婚を一度は夢に見ると思うけれど?」
「誰しも……」
褒め言葉のつもりだったが、彼はそこまで嬉しくなさそうだ。
クロエ以外の女性はどうだって良いということだろうか。
「うふふ、冗談よ。そんなことより、忙しいところを急に呼び出してしまってごめんなさい。そろそろ行かないといけないでしょう?」
「……陛下」
ただでさえ急な呼び出しだったというのに、これ以上引き留めるわけにはいかない。
彼だって私よりも一緒にいたい人がいるだろうし。
「あ、帰る前にクロエの顔を見に行ったらどうかしら?陛下には黙っておくから安心して行っていいわよ」
「……」
唇に人差し指を当ててフフッと笑うと、彼は何とも言えない表情で私を見つめた。
「……………公爵?どうかしたの?」
その視線の意味が分からず、首を傾げて尋ねた。
「陛下は……私が……」
「……?」
何かを言いかけた彼が、諦めたかのように背を向けた。
「……では、私はそろそろ失礼します」
「え、ええ……今日は来てくれてありがとう」
そう返すと、彼はそのまま歩いて行った。
部屋の扉へと向かう途中、彼は一度だけ振り向いて私を見た。
「……」
――その顔は、何故かとても悲しそうだった。
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