上 下
33 / 59

33 今世では ギルバート視点

しおりを挟む
そして三度目。
次こそは絶対に彼女を残酷な運命から救わなければならなかった。
この忌まわしいループを終わらせるためにも、彼女は絶対に死んではいけない。


「――王妃陛下、お久しぶりです」
「……ヘンリー公爵?」


前世ではそれほど関わったことも無かったが、万一の場合を考え今回は早い段階からリーシャに近付いた。
突然距離を縮めようとした私を、リーシャはかなり警戒しているようだった。


当然だ、私は社交界ではクロエに想いを寄せている男ということになっているのだから。
クロエはリーシャからすれば敵も同然。
簡単な心を開くことは出来ないだろう。


それから私は密かに彼女の動向を見張った。


やはりリーシャはいつだって予測出来ない行動を取る。
今回の生ではクロエ、エルフレッドの両方と出来るだけ距離を置くことにしたようだ。
三度の人生において全て違う行動を取っており、リーシャに前世の記憶があるのはほぼ確定だろう。


そして私も、二度の人生を歩んできて気付いたことがある。


(前回よりも……身体の自由がきく……)


それはリーシャが一度目の人生と違う行動を取れば取るほど、私の行動範囲が広がるということだ。
もしかすると、エルフレッドも同じかもしれない。
実際に、エルフレッドも少しずつ前の世界とは違う行動を取り始めていた。


二度目の人生では、リーシャはクロエと親しくしていたが、それでも未だにエルフレッドを愛していた。
しかし、三度目は違う。
どうやら彼女は長年の想い人への愛を完全に捨て去ったようだった。


エルフレッドは傷付いていたが、賢明な判断だと言えるだろう。
そしてこの男は三度目も記憶が無いらしく、突然のリーシャの冷たい態度にただ困惑するだけだった。


(お前は反省しろ)


彼女が受けた傷を知っているからこそ、同情なんて出来ない。


あの日、舞踏会でリーシャを助けたのは自分でも驚いた。
二度と彼女が死ぬところを見たくなかった、運命を変えたかった。
その思いが自分を突き動かした。


必死で運命に抗おうとするリーシャの姿に感銘を受けたのはそのときだった。
元々他人に関心を抱いたことなんて無かったが、彼女だけは違う。
この件を経て、助けたい、救いたいという気持ちがより一層強くなった。


リーシャと関わっていくうちに、秘密がバレそうになることが何度もあった。
聡明な彼女のことだから気付くのも当然だろう。


そして、ついに言い逃れ出来ないときが来た。


「ねぇ……貴方……もしかして、前世の記憶があるの……?」
「……」


認めざるを得なかった。
彼女はほとんど確信しているようでこれ以上は誤魔化せないと思い、素直に認めた。


それを知ったリーシャに過去のことを聞かれたが、その質問には答えることが出来なかった。
過去の自分の死に血の繋がった家族たちが関与しているだなんて、そんなこと言えるわけがない。
結局その場でははぐらかしてしまった。


(全てが終わり、彼女の覚悟が決まったときに話そう……)


そうだ、今は別にやることがある。
今度こそは絶対に彼女を死なせるわけにはいかない。


――必ず、私が救ってみせる。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

七年間の婚約は今日で終わりを迎えます

hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【完結】私が貴方の元を去ったわけ

なか
恋愛
「貴方を……愛しておりました」  国の英雄であるレイクス。  彼の妻––リディアは、そんな言葉を残して去っていく。  離婚届けと、別れを告げる書置きを残された中。  妻であった彼女が突然去っていった理由を……   レイクスは、大きな後悔と、恥ずべき自らの行為を知っていく事となる。      ◇◇◇  プロローグ、エピローグを入れて全13話  完結まで執筆済みです。    久しぶりのショートショート。  懺悔をテーマに書いた作品です。  もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

二度目の恋

豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。 王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。 満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。 ※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...