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35 シナリオ 側妃クロエ視点
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――王妃の部屋から出て行くギルバートを、私は時が止まったかのようにじっと見つめていた。
「嘘……ギルバートが本当にあの女に好意を寄せているというの?」
そんなことは絶対にあってはならない。
私に恋をするはずのギルバートがリーシャを好きになるだなんて、絶対にあってはならないのだ。
(何が何でも二人を引き離す必要があるわ)
――そうしなければ、私が決めたシナリオが壊れてしまうから。
***
「ギルバート様はリーシャに好意を抱いているようなのです……」
「ギルバート様が……王妃様に……?」
そう言いながら目の前で涙を流しているのはアイラ・スイート公爵令嬢だ。
リーシャの妹だというのに、似ているところが全く無い。
(あの舞踏会でリーシャを助けたのは見たけれど……)
私の前でだけ優しい顔をする彼が、リーシャを好いているだなんて。
こればっかりは自分の目で直接確かめなければ信じられなかった。
そう思った私は、侍女に王妃の動向を見張らせた。
その結果、衝撃的な事実が判明した。
(ギルバートがリーシャの部屋に出入りしている……!?)
何と、彼が短い期間で二度もあの女の部屋へ訪れているというのだ。
それだけではない、エルフレッドまでもがリーシャの元を訪問していた。
「ありえない……どうして物語の主要人物であるあの二人が……!」
彼ら二人が気にかけるのはヒロインである私だけで良い。
わざわざ悪役王妃に関わる必要は無いのにどうして。
「公女様は、ギルバート様をお慕いしているようですね?」
「あ、はい……初めて見たときからずっと大好きで……何が何でも彼と結婚したいんです」
「……」
この女がギルバートの妻になれるとは思えないが、私にとっての都合の良い駒にはなるかもしれない。
何よりリーシャとギルバートが結ばれてしまう方が大問題だ。
(リーシャとその妹はかなり仲が悪いと聞くし……これは使えるかもしれないわね)
頭も悪そうだし、上手く利用した後に捨ててしまえばいい。
どのみちこの女がギルバートと結婚なんて出来るわけがない。
いくらでも女を選び放題な彼がわざわざこんなのを妻にするとは思えないからだ。
「側妃様は私の憧れだったんです……国王陛下の寵愛を一身に受けているので……」
「……」
アイラは私に憧憬の眼差しを向けてそう言った。
(……寵愛を一身に、か)
最近になって私に対するエルフレッドの関心が薄れていることなど彼女は全く知らないのだろう。
そのことに私が酷く焦っているということも。
「……ギルバート様とは親しくさせていただいているんです。よろしければ、私から彼に言っておきましょうか?」
「ほ、本当ですか……!」
アイラは目をキラキラと輝かせた。
疑うことを知らない、純真無垢な瞳に思わず眉をひそめた。
両親から溺愛されて育ったと聞いたが、ここまで危機感の無い女になるとは。
「ええ、嘘はつきません。公女様のような素敵な方なら必ずギルバート様と結婚出来ますわ」
「う、嬉しい……!私とギルバート様がお似合いだなんて……!」
「……」
(お似合いだとは言ってないんだけど、おめでたい女ね)
上辺だけの褒め言葉に純粋に喜ぶアイラ。
このようなことばかり言ってくる大人たちに囲まれて育ったのだろうということが嫌でも伝わってくる。
(フフ……ここまで馬鹿な女だとはね)
この女が絶望に打ちひしがれる姿を想像して口元に笑みが浮かんだ。
だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
(何も恐れることは無いわ……シナリオを元に戻せばきっと彼の心も帰ってくる……)
この世界は私のためだけに出来ている。
私が幸せになるための世界。
悪役がハッピーエンドを迎えることなどあってはならない。
――そのためには、軌道修正が必要だ。
「嘘……ギルバートが本当にあの女に好意を寄せているというの?」
そんなことは絶対にあってはならない。
私に恋をするはずのギルバートがリーシャを好きになるだなんて、絶対にあってはならないのだ。
(何が何でも二人を引き離す必要があるわ)
――そうしなければ、私が決めたシナリオが壊れてしまうから。
***
「ギルバート様はリーシャに好意を抱いているようなのです……」
「ギルバート様が……王妃様に……?」
そう言いながら目の前で涙を流しているのはアイラ・スイート公爵令嬢だ。
リーシャの妹だというのに、似ているところが全く無い。
(あの舞踏会でリーシャを助けたのは見たけれど……)
私の前でだけ優しい顔をする彼が、リーシャを好いているだなんて。
こればっかりは自分の目で直接確かめなければ信じられなかった。
そう思った私は、侍女に王妃の動向を見張らせた。
その結果、衝撃的な事実が判明した。
(ギルバートがリーシャの部屋に出入りしている……!?)
何と、彼が短い期間で二度もあの女の部屋へ訪れているというのだ。
それだけではない、エルフレッドまでもがリーシャの元を訪問していた。
「ありえない……どうして物語の主要人物であるあの二人が……!」
彼ら二人が気にかけるのはヒロインである私だけで良い。
わざわざ悪役王妃に関わる必要は無いのにどうして。
「公女様は、ギルバート様をお慕いしているようですね?」
「あ、はい……初めて見たときからずっと大好きで……何が何でも彼と結婚したいんです」
「……」
この女がギルバートの妻になれるとは思えないが、私にとっての都合の良い駒にはなるかもしれない。
何よりリーシャとギルバートが結ばれてしまう方が大問題だ。
(リーシャとその妹はかなり仲が悪いと聞くし……これは使えるかもしれないわね)
頭も悪そうだし、上手く利用した後に捨ててしまえばいい。
どのみちこの女がギルバートと結婚なんて出来るわけがない。
いくらでも女を選び放題な彼がわざわざこんなのを妻にするとは思えないからだ。
「側妃様は私の憧れだったんです……国王陛下の寵愛を一身に受けているので……」
「……」
アイラは私に憧憬の眼差しを向けてそう言った。
(……寵愛を一身に、か)
最近になって私に対するエルフレッドの関心が薄れていることなど彼女は全く知らないのだろう。
そのことに私が酷く焦っているということも。
「……ギルバート様とは親しくさせていただいているんです。よろしければ、私から彼に言っておきましょうか?」
「ほ、本当ですか……!」
アイラは目をキラキラと輝かせた。
疑うことを知らない、純真無垢な瞳に思わず眉をひそめた。
両親から溺愛されて育ったと聞いたが、ここまで危機感の無い女になるとは。
「ええ、嘘はつきません。公女様のような素敵な方なら必ずギルバート様と結婚出来ますわ」
「う、嬉しい……!私とギルバート様がお似合いだなんて……!」
「……」
(お似合いだとは言ってないんだけど、おめでたい女ね)
上辺だけの褒め言葉に純粋に喜ぶアイラ。
このようなことばかり言ってくる大人たちに囲まれて育ったのだろうということが嫌でも伝わってくる。
(フフ……ここまで馬鹿な女だとはね)
この女が絶望に打ちひしがれる姿を想像して口元に笑みが浮かんだ。
だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
(何も恐れることは無いわ……シナリオを元に戻せばきっと彼の心も帰ってくる……)
この世界は私のためだけに出来ている。
私が幸せになるための世界。
悪役がハッピーエンドを迎えることなどあってはならない。
――そのためには、軌道修正が必要だ。
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