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十六夜 五个愿望(いつつのねがい)の叶う夜
十六夜 五个愿望の叶う夜 2
しおりを挟む「望みを言え。そのために来たんだ」
白い悪魔は、続けて言った。
人間の欲望を叶えてくれる、というのだから、やはり悪魔なのだろう。
神様ならそんなことはしない。
今、こうして自分に試練を与えているのが、非情な神の所業なのだから。
深緑はそんなことを考えながら、寒さと栄養不良で動けなくなっていた体を、少し緩めた。
悪魔に気に入ってもらえる魂かどうかは判らないが、何かと引き換えにして惜しい命ではない。
それなら――。
「望みって……どうして?」
望みを口にすることを――そして、魂を売り渡すことを躊躇した訳でもないのに、口から出て来たのは、その言葉だった。
「――約束したからだ」
黒い悪魔は言った。
「約束……?」
――いつ、そんな約束をしたのだろうか。
知らない内に、悪魔に願い事をしたことがあったのだろうか。
覚えはないが、それでもすでに約束をしている、というのなら……。
「望みって、どんなことでも……?」
深緑は訊いた。
「まあ、オレたちに出来ることなら、だ」
「おい、俺を巻き込むな。おまえに出来ることなら、だろ」
白い悪魔が、黒い悪魔の言葉に、不満を零す。
どうやら、約束を果たす義務があるのは、黒い悪魔の方らしい。
そして――、
「僕に出来ることがあれば、言ってくれれば……」
もう一つの声が、耳に届いた。
――まだ、誰かいるのだろうか。
姿はどこにも見えないのに、どこからか――いや、まるで耳の中から聞こえているように、側で響いた。
まあ、悪魔なのだから、姿を消すことも出来るのだろう。
深緑はゆっくりと呼吸を整え、それでも楽にならない息苦しさと無気力感に、
「叶えてくれる望みは……一つだけなの?」
そう訊いた。
一つしか願えないのなら、このまま楽に死んでしまいたい。
もう生きる望みも何もなく、これまでの荒んだ生活で、体はボロボロになっている。苦しまずに死ぬことが出来るのなら――今すぐに死ねるのなら、それ以上の望みは何もなかった。
「うーん、言われてみれば、それは決めてなかったなぁ」
黒髪の悪魔は困ったように美しい眉を少し寄せ、
「まあ、オレもヒマって訳じゃないし、三つくらいかな」
「ケチね……。五つくらい叶えてよ……」
ダメ元で、望みの数を増やしてみる。
すると、
「え? ま、まあ、いいか」
悪魔にしては、こんな交渉に慣れていないのか、簡単に承諾してしまう。
まだ年も若そうだし、これが初めての仕事なのかも知れない。
望みと引き換えに、魂を奪い取って行く、彼らの……。
それとも、交渉上手の小市民には敵わない、と諦めたのだろうか。
そんな、らしくない悪魔の姿を考えながら、深緑はまず、最初の願いを持ち出した。
叶う願いが一つでないのなら、まず、この苦しみを取り除いて欲しい。
あとの四つはそれからだ。
「じゃあ――」
深緑が願いを口にしようとすると、
「あ、いくつでも望みを叶える願い、っていうのはダメだからな」
全くの世間知らずでもないらしい。そう考えると少し可笑しかった。
第一、そんな願いをするつもりなら、願いは一つで足りている。
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