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十四夜 竜生九子(りゅうせいきゅうし)の孖(シ)

十四夜 竜生九子の孖 15

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「黄帝様を呼ぼう、舜」
 舜の体と顔で、デューイが言った。
「絶対、厭だ!」
 ……この期に及んで、頑固である。
「でも、そうしないと、その体でいつまで持つか……」
 ただでさえ、気力で持ち堪えている状況なのである。
「何が『TVで見た』だよ、白々しい。あいつ、絶対、オレにこの『キン・コン・カン』を嵌めるのが目的だったに決まってるんだ。牡丹の花の精霊が先に囚われてなかったら、間違いなくオレが囚われてたはずなんだから」
 ここまでくれば、この少年の被害妄想も、同情したくなる真実味が含まれている。――いや、結局、魂替えという形で『緊箍児』に囚われてしまったのだから、真実と言ってもいいかも知れない。
 皆さまも、これまでのことで大分判って来られたであろうから、あの青年なら全てを見越していた、と考えても不思議ではない。
「じゃあ、僕が黄帝様に頼みに行って来るよ」
「……」
 この青年を一人で行かせるのは、とっても不安である。別に、何かあったら、と心配している訳ではない。デューイの魂が入っているその体は、他ならぬ舜の体なのである。一人にさせて、その体に何かされたら……。そう思うと、全身隙間なく埋まる鳥肌で、落ち着かない。
「オレも行く」
 ひらり、と祭壇から飛び降りたのは、舜である。
 だが、飛び降りたものの、そのままぺたんと床に崩れる。
「舜!」
 慌てて後を追うデューイの心配に、
「……何なんだ、この体? ぜんぜん力が入らない」
 それはそうだろう。すでに余命幾許もない器なのだから。
「だから、僕が行くって――」
「――仕方ない。あいつを呼ぼう」




 ということで、舜が誰を呼んだのか、察しの良い読者の皆様は、すでにお気づきのことだろう。
 ――え? 判らない?
 心配いりません。判らないあなたにも、魔都初心者のあなたにも、誰にでもついて来られる内容です。
「暑……っ。この間はイスタンブールで、今度はガンダーラかよ」
 現れた純白の髪の少年は、思いっきり顔を顰めて、悪態づいた。砂糖よりも白く、全く色素のないその髪は、黄色い大地と同じ肌の色に美しく際立ち、人外の麗容を宿している。それでも、
「それ、古名。今はペシャワルだってさ」
 と、見知らぬ女性に気さくに言葉を返されたものだから、隣に立つ舜の方へと視線を送り、
「知り合いだっけ?」
 と、その女性について、問いかける。
 もちろん舜――の体の中にいるデューイは、
「はあ、中身は知り合いかと……」
 と、舜らしくない仕草で、受け応えた。
「……。また、ややこしいことに巻き込まれているのか――というか、巻き込んでいるのか」
 仁の霊獣である少年、索冥さくめいは言った。
 彼が一通りのことを聞き終え、その牡丹の花の精霊、耀輝の中に舜の魂が入っており、隣にいる舜の中にはデューイの魂が入っているのだ、と理解するのに、そう時間はかからなかった。
 何しろ、この少年、今までにも厄介事に巻き込まれている二人の様子を、じっとしていられない状況で見ていたことがあるのだから。
 そして、その話を理解する短い時間でさえ、《舜=牡丹の精霊》は立っていることも出来ないようで、砂の上に座り込んだ。
「クソっ……。砂漠の地下にいた時より、体がきつい……」
 と、額に滲む汗を拭う。


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