お疲れエルフの家出からはじまる癒されライフ

アキナヌカ

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4-7教育的指導をする

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「よっし、リタとソアン。正々堂々といざ勝負だ!!」
「それではいきます、『完全なるパーフェクト封じられた結界シールドバリア』」
「遠慮なくいかせてもらいます、今までの失礼を後悔しなさい!! ジェンドさん!!」

 僕はいきなり以前ジーニャスが使っていた魔法を使用した、この魔法を使われた時には結界内にいる僕以外の全ての者が、強制的に魔法を使えなくなるというものだった。ジェンドはとてもこの魔法に驚いた、何故なら魔法が使えなくなっただけじゃなく、ドラゴンの翼を背中から出しても空を飛べなくなったからだ。元々人間体は飛行には向いていない、翼だけでなく魔法の力も借りなければ空を飛べないのだ。

「うっ、なんで魔法が使えない!? それに空も飛べない!?」
「遠慮なくいきますと言いました、それでは空をこうやって飛んでください!!」

 そう言ってソアンはおろおろしていたジェンドを大剣で殴り飛ばした、ジェンドの長身が文字通り空を飛んでいった。ソアンは更に追撃して地面に叩きつけられたジェンドが起き上がる度、大剣でその体を殴り飛ばしてみせた。ソアンはただ子どもを産むだけの女性じゃない、そんな女性扱いをされたことに相当怒っているようだった。

 そうして僕の魔力がきれるまでジェンドは何度も空を飛んだ、最後のあたりはきちんと防御をしたりしたが、それでもソアンのドワーフゆずりの力には敵わなかった。僕が魔法を解くとソアンも攻撃を止めた、ジェンドはそれでもドラゴンだから大きな怪我はしていなかった。派手に殴り飛ばしてはいたが、ソアンもちゃんと手加減はしていた。

「あっはははっ。もうソアンを口説けないのが残念だ、きっと素晴らしい子どもが産まれるのにな」
「まだ言いますか、もう数回くらい空を飛びますか?」
「そ、ソアン。それはちょっと可哀そうだよ」

「ああ、面白かった。やっぱりお前たちと戦えて良かった、ドラゴンを倒す者も本当にいるんだな」
「世界は広いですからね、私とリタ様以上に強い者もいっぱいいますよ」
「ええ、そうです。だから自信過剰なのもほどほどにしないとね」

「くっそっ、エリーの言うとおりだった。悔しい、本当に悔しい!!」
「エリーさん? それって一体誰ですか?」
「ああ、もしかしてジェンドの言っていた養い親ですか?」

 負けたけれどもそれでかえってスッキリした気分になった、そんなジェンドが僕たちに詳しく教えてくれた。エリーというのは母親の親友でジェンドの養い親だった、母親が急死したためにジェンドを育ててくれたドラゴンの女性だった。ジェンドはその保護者から逃げ出してゼーエンの街に来たのだった、もう成人する年だから巣立ちの時だったのだとジェンドは言った。だが、僕たちにはそうは思えなかった。

「ジェンド、貴方には圧倒的に知識と常識が足りません」
「そうですよ、特に女性に対しての接し方が最悪です」
「うっ、そうかよ。エリーにも言われたけど、そんな難しいこと分かんねぇんだよ」

「ここ数日で随分と良くはなりましたが、まだ一人で行動させるのは心配です」
「ドラゴンを倒す者も少ないですがいるんですよ、一人歩きはまだとてもさせられません」
「分かった、分かりました!! 俺はしばらくリタとソアンにくっついてるよ!!」

「貴方はこれから膨大な時間を旅するんです、今ここで少し知識を学ぶことはきっと無駄にはなりません」
「それからドラゴンの雄だからって子育てを放棄しないでください、子どもは可愛いし女性にだけ負担をかけるのはおかしいです」
「うっ、分かったよ。苦手だけど勉強をする、子育てについても考えてみる」

 それからジェンドはますます素直になった、ソアンに対しても敬意をもって接するようになった。ドラゴンは強者に従う習性がある、だからジェンドを叩きのめしたソアンは十分な強者だった。僕に対してもジェンドは素直に従った、魔法を封じられるなんて初めてだと学び、そうされた時も落ち着いて戦えるように彼は学びを深めた。

 ジェンドは様々な人間とも会うことになった、僕の眠り薬が足りなくなった時にはジーニャスやシャールなどの貴族とも会った。そこではマナーを学ぶことができた、シャールとは彼は特に仲良くなった。ジェンドは子育てって楽しいかもしれない、そうシャールと遊んで帰り道で言っていた。ドラゴンの習性には反するが、別に雄が子育てに参加しても問題はないのだ。

「シャールってちっこくて可愛いな、あんな女の子が娘に欲しい!!」
「可愛がるだけじゃなくて、教育もできるようにならないと駄目ですよ」
「そうそう、子どもは親を真似して育ちますからね」

 それからジェンドは上の貴族という人間を見た後、下の人間たちも見ることになった。財布をスリにすられたこともあった、すぐに駿足でその人間を捕まえはしたが、今度はお前の財布だと証拠を見せろと言われて困った。僕たちが警備隊に調べてもらうよと言うと、スリをした子どもは財布を投げつけて逃げていった。

「…………あの人間には養い親はいないのか?」
「いないのか、いても子育てを放棄しているのでしょう」
「財布は上着の内側に入れましょう、スリをする人間は結構いますから」

 ジェンドは日々学んでいった、やがて人間の常識的な知識をほとんど身につけた。それまでに2カ月かかったが、それはジェンドには必要な時間だった。僕たちはジェンドが成長して満足した、人間を繁殖の相手としてだけ見るのではなく、尊敬すべきところもある他種族として彼はみるようになった。同時に養い親のいない子どもにジェンドは優しくなった、彼にとっては孤児は放っておきたくない存在だった。

「ジェンド、貴方のお金を全て使っても、この街の全ての孤児は救えません」
「リタ、どうして人間は子どもを捨てるんだ? 何故大事にしない?」

「いろんな理由で子供を手放す親がいます、死別することも珍しくありません」
「では同族同士でなぜ助け合わない、どうして放っておけるんだ!!」

「そこまでの余裕がない、これが一番近い答えでしょう。自分が生きていくだけで精一杯なのです、他の人間のことにまで構っていられない者が多いんです」
「…………俺の養い親は優しかった、リタもそうだソアンにとても優しい。子どもとは実の親がいなくても、養い親から愛情を貰って生きていくものだと思っていた」

 ジェンドは自分がかなり幸せに生きていたのだと気がついた、養い親にあった不満も今では養い親なりの愛情だったのだと理解した。そうして自信と目標をみつけたジェンドは僕たちの許可を得て一人で行動し始めた、ジェンドの目標は養い親のいない子どもを救うことだった。だから孤児院のことを教えたら、冒険者として活動を始めてその稼ぎを寄付をすることを覚えた。

 街で親がいない子どもをみつけたら孤児院に連れていくことも覚えた、その時にはそれなりのお金を支払うと、そうすると神殿の孤児院は子どもを快く引き取ってくれた。子どもたちを食べさせるにもお金がいるのだ、ジェンドはお金の大切さと使い方を学んでいった。女性に対する態度も変わって、以前はただ繁殖相手として興味深々だったが、今度は一歩引いて礼儀正しく接するようになった。

「ソアンから痛いほど教わった、女性は本当に怒らせたら怖いんだ」
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