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4-6知識が偏り過ぎている

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「なぁなぁ、ソアン。なんなら俺の子どもを一人くらい産んでみないか?」
「ひゃ!? ええ!? なんですって!?」

「だからソアン、俺の子どもを産んでみないか?」
「うっわっ、聞き間違いじゃなかった!?」

「なんだよ、駄目なのかー?」
「駄目です、絶対駄目です!! 私はもう予約済です!!」

 そう言ってソアンは僕の背中に隠れてしまった、僕も正直に言うと驚いた。確かに他種族の交流が大事だとは言ったが、いきなり子どもを産んでくれとはまた凄いことをいうものだ。これはジェンドがドラゴンの雄だからでもあった、ドラゴンは通常は雌だけが子育てをするのだ。子育てに雄は関わらず、自由に生きていくことが多いのだった。

「ジェンド、エルフの夫婦は共同で子育てをする」
「ああ、そうか。それじゃ、いきなり子どもが生まれたら困るな」

「ドラゴンは雌だけが子育てをするが、それと同じことを他種族にいきなりしろというのは無理だ」
「そう言えばそんなことを言われていたような気がするぜ、あはははっ」

「ここの宿屋の部屋ではいいけれど、外の人間の世界でそんなことをいきなり言うと驚かれる」
「そうして正体を怪しまれて、人間のふりができなくなる。ああ、面倒だよなぁ!!」

 ジェンドは一応ソアンにいきなり口説いて悪かったと謝った、けれどその気があればいつでも大歓迎だともソアンは言われていた。ジェンドの言葉にソアンは引きつった笑顔を返していた、そうして僕の背中からまだ出て来なかった。僕はこれはジェンドに人間の常識を教えておかないと大変だ、そう思ってしばらく僕たちと行動しないかと誘ってみた。

「いいぜ、俺はまだ人間のふりが下手だからな!!」
「いや、威張って言うことじゃないから」
「リタ様。下手っていうレベルでもない、そんな悪い予感がします」

「そう言うなよ、養い親からお説教は山ほどくらってんだ」
「ジェンド、貴方は人間について勉強しましたか?」
「具体的に人間に、どれくらい詳しいんです?」

「人間と子どもを作ると竜人族が生まれる!! それから人間は一年中が発情期な種族だ!!」
「そ、それはまた偏った知識ですね」
「結婚相手を探しに来たんですか!?」

 ジェンドは首を横に振った、別に結婚相手を探しに来たわけじゃないらしかった。でもあまりにも人間に対する知識が偏っている、間違ってはいないがそれにしても酷すぎた。僕たちは人間としての日常生活からジェンドに教えることになった、ジェンドは素直な性格で言われたことを真面目にやった。ただ集中力が続かないところがあって、本などは読めるが途中で飽きてしまうようだった。

 だから宿屋の部屋で本を使って勉強したが、ジェンドが本を読むのに飽きてきたら、外に出て実地で必要なことを教えていった。整容の大切さ、お金の使い方、面倒事を起こさない方法、それになにより男女の交流の仕方を教えた。僕もあまり色恋沙汰には詳しくないが、ジェンドをそのまま人間の街に放り出したら、次の春には竜人族が何人産まれるか分からなかった。

「あはははっ、やっぱり人間の街は面白いな!!」
「それはそうですね、エルフの村とは違う魅力があると思います」
「それにジェンドさんが好きそうな、可愛い女性もいっぱいいますしね」

「なんだ、ソアン。焼きもちか!? やっぱり俺の子どもを産んでみるか?」
「ジェンド……」
「貴方に焼きもちなんか焼きません!! 私は街の女の子が心配なんです!!」

「そういうなよ、俺はリタと勝負をしてみたい」
「え!? どうして僕とジェンドが勝負することに?」
「ジェンドさん、まさかリタ様を狙っているのですか!?」

「違うぜ、純粋に強いエルフ族と戦ってみたいのさ」
「僕は理由が無い限り戦いませんよ、模擬戦ならいいですけど」
「リタ様は平和主義者ですからね」

 ジェンドは僕と戦いたいと言い始めた、エルフがそれなりに魔法を使えると思っているのだ。でも今の僕が使えるのは初級魔法だけだった、クレーネ草の薬を使えば上級魔法まで使えるが、そこまでしてジェンドと戦いたいと思えなかった。ジェンドは明らかに不満そうだった、ドラゴンはしばしば戦ってどちらが強者かを競い合う、それが雄なら尚更そういう傾向が強かった。

「なぁ、リタ。俺と戦おうぜ!!」
「いえ、僕は戦いはあまり得意ではありません」

「そういわずにエルフと戦えるなんて楽しみなんだ!!」
「僕は弱いエルフなんです、戦いには向いていません」

「それは嘘だ!! リタの魔力は相当に高いから、きっとかなり強いはずだ!!」
「魔力量だけなら多いですけれど、僕は特に理由もなく戦えません」

 ジェンドはよく考えていた、そうしてしばらく考えた結果。またとんでもない提案をしてきた、それは僕が呆れて、ソアンが怒り出すようなものだった。

「俺が勝ったらソアンを口説く、俺が負けたら潔く諦める!!」
「それはソアンの意志を無視しています、僕はそんな戦いは受けたくありません」
「そうですよ、私の意志はどうなるんですか!?」

 かなり無茶苦茶なことを言ったジェンドは、ソアンからお腹に一発パンチをくらっていた。そうしてしばらくの間、演技ではなくお腹を押さえて苦しんでいた。ソアンのドワーフ譲りの力は強い、見た目は可憐な少女だが、実際はかなりの力があるのだ。ジェンドはそれでも僕との勝負を諦めなかった、毎日のように僕はジェンドから決闘に誘われた。

「ジェンドのおかげでゆっくりする暇もないよ」
「ドラゴンがあんなふうだなんて、夢がことごとく崩れていきました」

「一度ジェンドには少しだけ、痛い目をみてもらおうか?」
「いいですね、リタ様。何をしたらいいですか、私は何でもします!!」

「それじゃ、ソアン。ジェンドに僕たちと戦うように言ってみて……」
「なるほどです、分かりました。そうしてみましょう、リタ様」

 翌日の朝も僕は調子が良かった、最近は調子が良い日が続いていた。だからジェンドに僕とソアンの二人が相手なら決闘を受けると言った、ジェンドは喜んでそれを承諾した。ゼーエンの街に迷惑がかかってはいけないので、近くの森の奥で決闘することにした。ジェンドはとても張り切っていた、彼は長剣を一応持っていたが、今までした模擬戦ではほとんど素手で攻撃していた。

「よっし、リタとソアン。正々堂々といざ勝負だ!!」
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