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6. 傷を負った男

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「何で、かかってこねーんだよ!」

 塩田郎は、焦っている。

 何故なら、両まつ毛が、全力でピクピク動いてるから。
 タコ侍の背後から、もう1匹、別のタコ侍が近づいて来てるのだ。

「チッ! しょうがねー」

 塩田郎は、覚悟を決める。
 1匹相手なら、まだなんとかなるが、2匹となると、てんで自信が無い。
 それなら、1匹だけでも、最初に倒すのが得策。

 塩田郎は、すぐさま、自分からタコ侍の間合いに入り、そして、居合の構えから、一閃!

 スパン!!

「……ん? てっ!? えぇぇぇぇーー!!」

 塩田郎の斬撃は、対面してた背後のタコ侍を纏めて、2匹とも斬りさいていた。

「なんで?!」

 塩田郎は、いつも通り踏み込んだつもりでいた。
 それなのに、自分の想像より、3メートルも先に踏み込んでおり、自分が想像してたイメージの3倍速く、そして、3倍の威力でタコ侍を斬りさいたのだ。

「一体どうなってんだ?」

 塩田郎は、全く気付いてない。
 レベルが25に上がり、この世界でも使える者が稀な闘気を、何気に習得して強さが跳ね上がっている事を。

 そして、もう1つ。実を言うと、SSSSダンジョンの下層に居る魔物は、会心の一撃か、闘気を使わないと倒せなかったりする。

 最初の一匹目は、居合切りによる会心の一撃。(どうやら、この世界では、塩太郎の居合切りは、会心の一撃と認識されるらしい)

 そして、今の一撃は、居合切りによる会心の一撃、プラス、闘気での一撃。

 塩田郎は、本当にたまたま、タコ侍をやっつけていたのである。

 もし、最初にタコ侍と相対した時、居合切りを使ってなければ、多分、攻撃を弾かれて負けていた。

 偶然に偶然が重なり、塩田郎は、SSSSダンジョン下層を生き延びていたのだ。

 じゃなければ、この世界の住人でも、攻略するのが難しいと言われている、SSSSダンジョンの下層で生き残れない。

 そもそも、Lv.1の人間が、会心の一撃を連発できないし、Lv.1の人間が、闘気をマスター出来ない。
 塩田郎が、幕末伝説の人斬りだったので成せた技。

 まあ、そんな人間を選んで、紫の悪魔は、佐藤 塩田郎を異世界に送りこんだのだと思うけど。

 そして、お約束のレベルアップの時間。

 ティロリロリ~ンLv.26になりました。

「またかよ! 敵を倒すと、頭の中で鈴の音が鳴るルールなのか?!
 だとしたら、とんだ罰ゲームだぜ!」

 ティロリロリ~ンLv.27になりました。
 ティロリロリ~ンLv.28になりました。
 ティロリロリ~ンLv.29になりました。
 ティロリロリ~ンLv.30になりました。
 ティロリロリ~ンLv.31になりました。
 ティロリロリ~ンLv.32になりました。

「今回は早かったな。まあ、不快な音だから、早く終わるに越した事ないけどな!」

 この時の塩田郎は、近い将来、この不快な音が、待ちどうしくて仕方が無くなるとは、思いもよらなかった。


 ーーー

 この階層を徘徊してから3日目。
 因みに、塩田郎は、洞窟の中に居ると思ってる。

 鈴の音も滅多に鳴らなくなり、タコ侍も難なく倒せるようになった頃、

「チッ! しまった……」

 塩田郎は、油断からか、左腕に傷を負ってしまった。

「糞っ! 消毒用の焼酎ぐらい入ってねーのかよ!」

 塩田郎は、魔法の鞄の中をまさぐりながら、イラつく。
 この大した事ない傷が、致命傷となる可能性もある事を、よく知ってるのだ。

 消毒しないで、そのまま放っておくと化膿する場合もあるし、血を流し過ぎると死んでしまう可能性も有る。

 塩田郎は、そんな奴らを、殺伐とした空気が流れる幕末京都で、ごまんと見てきた。
 まあ、塩田郎自身も、一度、血を流しすぎて死んでるのだけど。

「チッ!有るのはロープだけかよ」

 塩田郎は、応急処置で、左腕の上の方をキツく縛る。

「まあ、利き腕の右腕じゃなくて、良しと思うしか無いな……」

 とか、思ってる合間に、まつ毛がピクピク動く。

「チッ! どんだけいやがるんだ。本当にゴキブリ並に湧いて出やがるな……」

 幕末出身の塩田郎は、知らない。
 ダンジョンあるある。ダンジョンでは、魔物が次から次へと湧いて出る事を。

 塩田郎は、たくさん倒せば、そのうち敵が居なくなると思っているのだが、塩田郎が殺した分は、キッチリ補充されるので、何時まで経っても、敵は減らないのだ。

 なので、このダンジョンを脱出するまで、永遠と、倒しては湧くの無限ループ。

「糞っーー! 眠いし、痛てー!敵が直ぐに湧いて出やがるから、休憩も出来ねー!」

 とか、無駄に多くなった独り言を言いながら、永遠とも思えていた、迷路のようなダンジョンを歩いてると、

「ん?! アレは何だ? 出口か? いや、扉?」

 塩田郎は、石畳の廊下の向こうに、今まで見た事が無い、豪華な扉を見つけた。
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