職種がら目立つの自重してた幕末の人斬りが、異世界行ったらとんでもない事となりました

飼猫タマ

文字の大きさ
上 下
7 / 166

7. 死線を越える男

しおりを挟む
 
「扉だよな……しかも、豪華な……」

 塩田郎は、このダンジョンに転移させられてから、何度か部屋を見つけている。

 そして、その何個目かの部屋に扉を開けて入った時、10匹以上のタコ侍に遭遇したのだ。
 まあ、その頃は、難なくタコ侍を倒せるくらいにレベルが上がってたので助かったが、最初の方に遭遇してたら、確実に死んでいたであろう。

 それ以来、塩田郎は、無闇矢鱈に部屋を見つけても、開けないようにしていたのだ。
 いつ出られるかも分からない洞窟で、消耗したくないし。

「もしかして、出口? しかし、前みたいに敵がウヨウヨ出てきたら、左腕を怪我してる、今の俺に倒す事ができるか……」

 しかしながら、三日三晩寝ずに戦い、しかも左腕に傷を負い、時間が経つにつれドンドン体力が消耗していく。
 そして、この、他の扉と比べて豪華な扉は、出口の可能性が極めて高い。

「考えるまでも無いな……このままだと確実に死ぬ。
 この洞窟から出る事を優先させるべきだ」

 幕末出身の塩田郎は、知らない。
 塩田郎が行き着いた先は、出口じゃなくて、階層の最奥で、出口より遠ざかっている事を。
 そして、ダンジョンの各フロアーの最奥には、フロアーボスという強敵が居るという事を。

 令和日本人なら、常識的に知ってる事を、幕末出身の塩田郎は、当たり前のように知らなかったのだ。

「伸るか反るか。当たって砕けろ!」

 当たって砕けたら駄目なような気がするが、塩田郎は、扉を勢いよく開け、そして閉めた。

「何だ……今の……」

 そう、塩田郎が開けた先に居たのは、タコ侍を2匹引き連れた、タコ侍より僅かにデカいタコ。しかも、紫色。

 今迄対峙してきたタコ侍は、茶色っぽい色で二刀流だった。
 しかし、今回のタコ侍は、紫色で、剣を4本も持ってる四刀流のタコ侍。
 しかも、紫色っぽい闘気を発していた。

「アイツは、ヤバいな……どうする……引き返すか……しかし、三日三晩寝ずに彷徨って、ここ以外に、出口のようなところ見つけれなかったし、それに、紫タコの奥に、下りの階段のようなのが見えた……」

 塩田郎は、暫し、扉の前で考える。
 行っても地獄、戻っても地獄。
 しかしながら、紫のタコ侍の先には下り階段がある。

「これは、行くしかないだろ……俺には、もう、時間も無さそうだし……下りの階段に掛けるしかない」

 実を言うと、塩田郎は結構、限界に近い。
 三日三晩の不眠不休、左腕に傷を負い、血を流し過ぎた。しかも、いつ敵が出てくるか分からなので、常に緊張状態。

 もう、紫のタコ侍の奥の下り階段が、この洞窟の出口と信じて、賭けに出るしかないのだ。

「やったるか!」

 塩田郎は、頬っぺを叩いて気合いを入れる。

 敵は3匹、居合切りで、扉に入った瞬間に1匹を確実に殺す作戦だ。

 塩田郎は、深呼吸した後、扉を開け、そのままの勢いで、右端にいるタコ侍を、居合切りで真っ二つにする。

 取り敢えず、最初のミッション達成。
 こいつを倒せなかったら、塩田郎の生死の天秤が、限りなく死に傾く所だった。

「ん!? 見える!」

 寝不足過ぎて、逆に頭が冴え渡り、敵の死線がボンヤリ見えている。
 塩田郎ほどの熟練した人斬りになると、稀に、相手を必ず死に追いやる死線が見えたりする時があるのだ。
 それをなぞれば、敵を確実に、死に追いやる事ができる。

 まあ、そんな時は、殆ど無いのだが、今回のような極限を越える全集中してる時に、稀に見えたりするのだ。

 塩田郎は、死線をなぞりながら、続け様に、左端まで移動し、タコ侍の土手っ腹を叩き斬る。

「チッ! ここまでか……」

 やはり、都合良く、紫タコ侍の死線までは見えない。
 塩田郎的には、そのまま一気に紫タコ侍まで、倒したかったのだが……どうやら、体が悲鳴を上げている……。

 塩田郎は、死線をなぞる為に、結構、有り得ない動きをしていたのだ。
 普段から鍛えてない者なら、その凄まじい動きについて行けなく、全身肉離れになってしまいそうな動き。

 死線をなぞるとは、そういう事。

「やっべぇな……」

 塩田郎は、紫タコ侍を警戒しながら、痙攣した足をガンガン叩く。

 そして、そんな塩田郎を見て、紫タコは、ニヤリと笑う。

「何、笑ってやがる。ちょっと、足が痙攣しただけだろ?
 足がちょん切れた訳じゃねーんだ。
 てめぇーなんて、這ってでも殺してやる。
 俺が、どんだけ死線を越えて来てると思ってんだ!
 あんま、長州男児を舐めんなよ!」

 幕末伝説の人斬り 佐藤 塩田郎。死線をなぞり、死線を越える男。

 幕末京都で、塩太郎に狙われて、生きている者は居ない。それ故に無名。

 人斬りで、有名な奴など二流。
 本物の人斬りは、全く、証拠を残さないのである。

 そして、紫タコ侍を、塩田郎は、獲物としてロックオンしてる。
 ハッキリ言うと、塩田郎は、一対一の死合で負けた事がない。

 殺ると決めたら、なんとしても殺る。

「さあ、ここからが本番だぜ! 俺が、何故、京都最強の人斬りだと言われてるか、そのブヨブヨの体に解らせてやる!」

 ーーー

 ここまで読んでくれてありがとうございます!
 面白かったら、ブックマークお願いします。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界の剣聖女子

みくもっち
ファンタジー
 (時代劇マニアということを除き)ごく普通の女子高生、羽鳴由佳は登校中、異世界に飛ばされる。  その世界に飛ばされた人間【願望者】は、現実世界での願望どうりの姿や能力を発揮させることができた。  ただし万能というわけではない。 心の奥で『こんなことあるわけない』という想いの力も同時に働くために、無限や無敵、不死身といったスキルは発動できない。  また、力を使いこなすにはその世界の住人に広く【認識】される必要がある。  異世界で他の【願望者】や魔物との戦いに巻き込まれながら由佳は剣をふるう。  時代劇の見よう見まね技と認識の力を駆使して。  バトル多め。ギャグあり、シリアスあり、パロディーもりだくさん。  テンポの早い、非テンプレ異世界ファンタジー! *素敵な表紙イラストは、朱シオさんからです。@akasiosio

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

半神の守護者

ぴっさま
ファンタジー
ロッドは何の力も無い少年だったが、異世界の創造神の血縁者だった。 超能力を手に入れたロッドは前世のペット、忠実な従者をお供に世界の守護者として邪神に立ち向かう。 〜概要〜 臨時パーティーにオークの群れの中に取り残されたロッドは、不思議な生き物に助けられこの世界の神と出会う。 実は神の遠い血縁者でこの世界の守護を頼まれたロッドは承諾し、通常では得られない超能力を得る。 そして魂の絆で結ばれたユニークモンスターのペット、従者のホムンクルスの少女を供にした旅が始まる。 ■注記 本作品のメインはファンタジー世界においての超能力の行使になります。 他サイトにも投稿中

処理中です...