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7. 死線を越える男
しおりを挟む「扉だよな……しかも、豪華な……」
塩田郎は、このダンジョンに転移させられてから、何度か部屋を見つけている。
そして、その何個目かの部屋に扉を開けて入った時、10匹以上のタコ侍に遭遇したのだ。
まあ、その頃は、難なくタコ侍を倒せるくらいにレベルが上がってたので助かったが、最初の方に遭遇してたら、確実に死んでいたであろう。
それ以来、塩田郎は、無闇矢鱈に部屋を見つけても、開けないようにしていたのだ。
いつ出られるかも分からない洞窟で、消耗したくないし。
「もしかして、出口? しかし、前みたいに敵がウヨウヨ出てきたら、左腕を怪我してる、今の俺に倒す事ができるか……」
しかしながら、三日三晩寝ずに戦い、しかも左腕に傷を負い、時間が経つにつれドンドン体力が消耗していく。
そして、この、他の扉と比べて豪華な扉は、出口の可能性が極めて高い。
「考えるまでも無いな……このままだと確実に死ぬ。
この洞窟から出る事を優先させるべきだ」
幕末出身の塩田郎は、知らない。
塩田郎が行き着いた先は、出口じゃなくて、階層の最奥で、出口より遠ざかっている事を。
そして、ダンジョンの各フロアーの最奥には、フロアーボスという強敵が居るという事を。
令和日本人なら、常識的に知ってる事を、幕末出身の塩田郎は、当たり前のように知らなかったのだ。
「伸るか反るか。当たって砕けろ!」
当たって砕けたら駄目なような気がするが、塩田郎は、扉を勢いよく開け、そして閉めた。
「何だ……今の……」
そう、塩田郎が開けた先に居たのは、タコ侍を2匹引き連れた、タコ侍より僅かにデカいタコ。しかも、紫色。
今迄対峙してきたタコ侍は、茶色っぽい色で二刀流だった。
しかし、今回のタコ侍は、紫色で、剣を4本も持ってる四刀流のタコ侍。
しかも、紫色っぽい闘気を発していた。
「アイツは、ヤバいな……どうする……引き返すか……しかし、三日三晩寝ずに彷徨って、ここ以外に、出口のようなところ見つけれなかったし、それに、紫タコの奥に、下りの階段のようなのが見えた……」
塩田郎は、暫し、扉の前で考える。
行っても地獄、戻っても地獄。
しかしながら、紫のタコ侍の先には下り階段がある。
「これは、行くしかないだろ……俺には、もう、時間も無さそうだし……下りの階段に掛けるしかない」
実を言うと、塩田郎は結構、限界に近い。
三日三晩の不眠不休、左腕に傷を負い、血を流し過ぎた。しかも、いつ敵が出てくるか分からなので、常に緊張状態。
もう、紫のタコ侍の奥の下り階段が、この洞窟の出口と信じて、賭けに出るしかないのだ。
「やったるか!」
塩田郎は、頬っぺを叩いて気合いを入れる。
敵は3匹、居合切りで、扉に入った瞬間に1匹を確実に殺す作戦だ。
塩田郎は、深呼吸した後、扉を開け、そのままの勢いで、右端にいるタコ侍を、居合切りで真っ二つにする。
取り敢えず、最初のミッション達成。
こいつを倒せなかったら、塩田郎の生死の天秤が、限りなく死に傾く所だった。
「ん!? 見える!」
寝不足過ぎて、逆に頭が冴え渡り、敵の死線がボンヤリ見えている。
塩田郎ほどの熟練した人斬りになると、稀に、相手を必ず死に追いやる死線が見えたりする時があるのだ。
それをなぞれば、敵を確実に、死に追いやる事ができる。
まあ、そんな時は、殆ど無いのだが、今回のような極限を越える全集中してる時に、稀に見えたりするのだ。
塩田郎は、死線をなぞりながら、続け様に、左端まで移動し、タコ侍の土手っ腹を叩き斬る。
「チッ! ここまでか……」
やはり、都合良く、紫タコ侍の死線までは見えない。
塩田郎的には、そのまま一気に紫タコ侍まで、倒したかったのだが……どうやら、体が悲鳴を上げている……。
塩田郎は、死線をなぞる為に、結構、有り得ない動きをしていたのだ。
普段から鍛えてない者なら、その凄まじい動きについて行けなく、全身肉離れになってしまいそうな動き。
死線をなぞるとは、そういう事。
「やっべぇな……」
塩田郎は、紫タコ侍を警戒しながら、痙攣した足をガンガン叩く。
そして、そんな塩田郎を見て、紫タコは、ニヤリと笑う。
「何、笑ってやがる。ちょっと、足が痙攣しただけだろ?
足がちょん切れた訳じゃねーんだ。
てめぇーなんて、這ってでも殺してやる。
俺が、どんだけ死線を越えて来てると思ってんだ!
あんま、長州男児を舐めんなよ!」
幕末伝説の人斬り 佐藤 塩田郎。死線をなぞり、死線を越える男。
幕末京都で、塩太郎に狙われて、生きている者は居ない。それ故に無名。
人斬りで、有名な奴など二流。
本物の人斬りは、全く、証拠を残さないのである。
そして、紫タコ侍を、塩田郎は、獲物としてロックオンしてる。
ハッキリ言うと、塩田郎は、一対一の死合で負けた事がない。
殺ると決めたら、なんとしても殺る。
「さあ、ここからが本番だぜ! 俺が、何故、京都最強の人斬りだと言われてるか、そのブヨブヨの体に解らせてやる!」
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